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〜Past Glory〜  作者: パイナップルの妖精
第七章「魔忍伝」
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四話「辱め」



 豊満な乳房に生々しい触手が伝う。

 まるで(うなぎ)の様に装衣の中で動き回る。


 薄暗い部屋の中で、百合は弄ばれていた。

 顔を真っ赤にして震えている。

 怒りと、それ以上の羞恥心で吐き捨てた。


「殺せ……っ」


 妖剣士は嗤う。

 全身から触手を生やした異形の男。

 その顔が喜悦で歪む。


「よいぞ。その反応が拙僧を(たかぶ)らせる。もっと怒れ、恥じろ」

「ッッ」


 百合は舌に歯をかける。

 自殺しようとしていた。

 しかし妖剣士が許さない。

 口内に触手をねじ込み、舌をねぶる。


「……ッ、~~ッッ!!」


 深く口付けを交わされている様で、百合は耐え難い悪感を覚えた。

 触手の先端から粘り気のある液が溢れ出る。

 何かを飲まされてしまう。


 暴れるが、何十何百から成る触手の檻に体を拘束されている。

 身動き一つ取れない。

 恥辱で涙目になっている百合の顔を、妖剣士は本当に楽しそうに眺めていた。


「拙僧の粘液は特別性でな。性欲を(いちじる)しく高める。感度も上がっていく筈だ」


 妖剣士の眼前で、トロンと瞳を潤ませる百合。

 彼女はなけなしの理性を保ちながら願った。


(誰か……誰か殺してくれ……っ。こんな仕打ちをうけるくらいなら、死んだほうがマシだ……ッ)


「その目……やはり修羅だな貴様。ふふ、フハハハっ。いいぞ、そうでなくては。未熟な修羅を愛でる時が、拙僧の一番の幸せなのだ」


 妖剣士の言葉の意味を、百合はまだ理解できなかった。



 ◆◆



 百合の痴態を存分に堪能した妖剣士は、夜風の吹く屋上にやって来た。

 背中に帯びた薙刀(なぎなた)の如き太刀を左手に持つと、その場で深く一礼する。

 

 凍えるほど美しい人間がいた。

 純白のダブルスーツの上から同色のロングコートを羽織った絶世の美男。

 年齢は二十代後半ほどか。結われた銀色の長髪。新雪の如き肌は触れれば崩れそうで、糸目が儚げな印象を更に際立たせている。


 男は遠い喧騒を見つめながら妖剣士に言った。


「愉しんでいる様で何より」

「ハッ」


 妖剣士は深く、深く頭を下げる。

 人外の剣客集団「斑鳩(いかるが)」を纏め上げる首領、吹雪(ふぶき)款月(かんげつ)

 妖剣士は彼に絶対の忠誠を誓っていた。


修羅(同胞)を愛する──拙者たちができるのはそれのみ。所詮、この世は泡沫の夢なのだから……各々の方法で愉しむべきだ。拙者は、貴殿の全てを許そう」

「勿体なきお言葉……ッ」


 吹雪款月──世界最強の剣士たち『天下五剣(てんかごけん)』の一角を担う剣豪である。


 もし、彼が大和と対峙するようなことがあれば、互いに世界最強……同格同士の戦いになる。

 しかしこれは必然なのだろう。二人が相まみえる時は刻一刻と迫っていた。



 ◆◆



 牡丹は大和の晩酌に付き合っていた。

 本を読みながら酒を飲み、煙草をふかす。

 なんのことはない。大人の静かな時間である。


 杯に酒がなくなっている事に気付き、慌てて注ぎ足す。

 そして大和の横顔を拝み、ほぅとため息を吐いた。


(……なんでこんなに格好いいんだろう)


 思わず見惚れてしまう。

 野生の内に潜む知性が、魔性の色香を生んでいるのだろう。


(い、いけない……試験中なのに男の人に夢中になっちゃうなんて! それに、百合ちゃんのことも心配!)


 この都市で生き残ることなど不可能だ。

 先ほど痛感した。

 だからこそ、親友である百合が心配になる。


「大和様」

「なんだ」

「あの、その、えっと……」


 言い淀む。

 助けてもらった手前、友達も助けてほしいなんて都合のいい話だ。


 それでも、


「一つ、お願いしてもいいですか?」

「言ってみろ」

「……私の友達を、助けてほしいんです」

「いいぜ」


 大和は灰皿に煙草を押し付け、立ち上がる。

 牡丹は慌てた。


「あ、あの……!」

「?」

「いいんですか? こんな、我儘なのに……」

「いいんだよ」

「……っっ」


 牡丹は頬を朱に染める。

 本気で惚れてしまいそうだ。

 

「写真とかあるか?」

「あります」


 懐から写真を取り出す。

 大和はそれを手に取り、玄関に向かった。


 牡丹は胸を押さえながらその背を見送った。



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