四話「辱め」
豊満な乳房に生々しい触手が伝う。
まるで鰻の様に装衣の中で動き回る。
薄暗い部屋の中で、百合は弄ばれていた。
顔を真っ赤にして震えている。
怒りと、それ以上の羞恥心で吐き捨てた。
「殺せ……っ」
妖剣士は嗤う。
全身から触手を生やした異形の男。
その顔が喜悦で歪む。
「よいぞ。その反応が拙僧を昂らせる。もっと怒れ、恥じろ」
「ッッ」
百合は舌に歯をかける。
自殺しようとしていた。
しかし妖剣士が許さない。
口内に触手をねじ込み、舌をねぶる。
「……ッ、~~ッッ!!」
深く口付けを交わされている様で、百合は耐え難い悪感を覚えた。
触手の先端から粘り気のある液が溢れ出る。
何かを飲まされてしまう。
暴れるが、何十何百から成る触手の檻に体を拘束されている。
身動き一つ取れない。
恥辱で涙目になっている百合の顔を、妖剣士は本当に楽しそうに眺めていた。
「拙僧の粘液は特別性でな。性欲を著しく高める。感度も上がっていく筈だ」
妖剣士の眼前で、トロンと瞳を潤ませる百合。
彼女はなけなしの理性を保ちながら願った。
(誰か……誰か殺してくれ……っ。こんな仕打ちをうけるくらいなら、死んだほうがマシだ……ッ)
「その目……やはり修羅だな貴様。ふふ、フハハハっ。いいぞ、そうでなくては。未熟な修羅を愛でる時が、拙僧の一番の幸せなのだ」
妖剣士の言葉の意味を、百合はまだ理解できなかった。
◆◆
百合の痴態を存分に堪能した妖剣士は、夜風の吹く屋上にやって来た。
背中に帯びた薙刀の如き太刀を左手に持つと、その場で深く一礼する。
凍えるほど美しい人間がいた。
純白のダブルスーツの上から同色のロングコートを羽織った絶世の美男。
年齢は二十代後半ほどか。結われた銀色の長髪。新雪の如き肌は触れれば崩れそうで、糸目が儚げな印象を更に際立たせている。
男は遠い喧騒を見つめながら妖剣士に言った。
「愉しんでいる様で何より」
「ハッ」
妖剣士は深く、深く頭を下げる。
人外の剣客集団「斑鳩」を纏め上げる首領、吹雪款月。
妖剣士は彼に絶対の忠誠を誓っていた。
「修羅を愛する──拙者たちができるのはそれのみ。所詮、この世は泡沫の夢なのだから……各々の方法で愉しむべきだ。拙者は、貴殿の全てを許そう」
「勿体なきお言葉……ッ」
吹雪款月──世界最強の剣士たち『天下五剣』の一角を担う剣豪である。
もし、彼が大和と対峙するようなことがあれば、互いに世界最強……同格同士の戦いになる。
しかしこれは必然なのだろう。二人が相まみえる時は刻一刻と迫っていた。
◆◆
牡丹は大和の晩酌に付き合っていた。
本を読みながら酒を飲み、煙草をふかす。
なんのことはない。大人の静かな時間である。
杯に酒がなくなっている事に気付き、慌てて注ぎ足す。
そして大和の横顔を拝み、ほぅとため息を吐いた。
(……なんでこんなに格好いいんだろう)
思わず見惚れてしまう。
野生の内に潜む知性が、魔性の色香を生んでいるのだろう。
(い、いけない……試験中なのに男の人に夢中になっちゃうなんて! それに、百合ちゃんのことも心配!)
この都市で生き残ることなど不可能だ。
先ほど痛感した。
だからこそ、親友である百合が心配になる。
「大和様」
「なんだ」
「あの、その、えっと……」
言い淀む。
助けてもらった手前、友達も助けてほしいなんて都合のいい話だ。
それでも、
「一つ、お願いしてもいいですか?」
「言ってみろ」
「……私の友達を、助けてほしいんです」
「いいぜ」
大和は灰皿に煙草を押し付け、立ち上がる。
牡丹は慌てた。
「あ、あの……!」
「?」
「いいんですか? こんな、我儘なのに……」
「いいんだよ」
「……っっ」
牡丹は頬を朱に染める。
本気で惚れてしまいそうだ。
「写真とかあるか?」
「あります」
懐から写真を取り出す。
大和はそれを手に取り、玄関に向かった。
牡丹は胸を押さえながらその背を見送った。




