五話「傭兵王」
後日、大衆酒場ゲートにて。
西部開拓時代を彷彿とさせる店内は、なにも飲食を楽しむだけの場所では無い。
性に奔放なエルフたちの求愛場であり、妖怪たちの宴会場であり、他種族を交えてカードゲームを楽しめる遊戯場でもあった。
店主である金髪の偉丈夫ことネメアは、安心して新聞を読んでいた。
風の噂で耳にしたのだ。
黒兎が、あの大和を二分も足止めしたと──
実に喜ばしいことだ。
実の娘のように想い、弟子として大切に育てた女の子が、あの大和と戦えた。
対等、ではなかっただろう。
しかし、彼を足止めできる存在は限られている。
黒兎はよくやった。
「……ハァ」
唐突に重たい溜息を吐く。
ネメアは自分自身に辟易していた。
「……」
もう英雄ではない。
全てを守らなくてもいい。
自分の手の届く範囲にいる、本当に守るべきものを守れればいい。
そう思い込んでいるが、納得していないところもあった。
ネメアは煙草を取り出し、火を点ける。
英雄として一つの時代を駆け抜けた。
戦って、戦って、守って、守って。
その先に真の平和があると信じていた。
しかし、裏切られてしまった。
真の平和など、どこにもなかったのだ。
ネメアは新聞を畳む。
すると、丁度良く客人が入ってきた。
褐色肌の美丈夫の登場に、店内は騒然となる。
大和だ。
彼は瞬く間にエルフやダークエルフ、サキュバスの女たちに囲まれる。
そして、男たちから羨望と憎悪の入り混じった視線を向けられる。
ネメアは思う。
彼は楽しんでいる。
「刺激があるから人生は楽しいのさ」といわんばかりに。
ネメアはふと、昔のことを思い出す。
『何を落ち込んでるんだよ、ヘラクレス』
『笑えよ、俺たちが大馬鹿野郎だったんだ。ここは笑うべきだぜ』
『そんでもって、お前は夢を叶えろ。俺は、お前が幸せになってる姿が見てぇ』
「わかったわかった、また今度な」
大和は女たちを退け、カウンター席までやって来た。
そして気軽にネメアに話しかける。
「よう」
「ん……ああ、どうした?」
「黒兎に魔闘技法を教えただろう?」
「……まぁな」
「いい感じだったぜ」
大和は笑う。
ネメアも釣られて笑った。
「何か食うか?」
「天ぷらうどん大盛りに野菜ジュース付きだ」
「……黒兎が好きなメニューだな」
「マジで?」
「よく食べにくるぞ」
「そっかー、好みはパパに似たのか〜」
「……フフッ、そうだな」
ネメアは踵を返し、厨房に向かう。
その笑みは、何時もよりも深かった
《完》
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