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魔界都市備忘録  作者: パイナップルの妖精
第六章「黒兎伝」
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五話「傭兵王」




 後日、大衆酒場ゲートにて。

 西部開拓時代を彷彿とさせる店内は、なにも飲食を楽しむだけの場所では無い。

 性に奔放なエルフたちの求愛場であり、妖怪たちの宴会場であり、他種族を交えてカードゲームを楽しめる遊戯場でもあった。


 店主である金髪の偉丈夫ことネメアは、安心して新聞を読んでいた。

 風の噂で耳にしたのだ。

 黒兎が、あの大和を二分も足止めしたと──


 実に喜ばしいことだ。

 実の娘のように想い、弟子として大切に育てた女の子が、あの大和と戦えた。

 対等、ではなかっただろう。

 しかし、彼を足止めできる存在は限られている。


 黒兎はよくやった。


「……ハァ」


 唐突に重たい溜息を吐く。

 ネメアは自分自身に辟易していた。


「……」


 もう英雄ではない。

 全てを守らなくてもいい。

 自分の手の届く範囲にいる、本当に守るべきものを守れればいい。


 そう思い込んでいるが、納得していないところもあった。

 ネメアは煙草を取り出し、火を点ける。


 英雄として一つの時代を駆け抜けた。

 戦って、戦って、守って、守って。

 その先に真の平和があると信じていた。

 しかし、裏切られてしまった。


 真の平和など、どこにもなかったのだ。


 ネメアは新聞を畳む。

 すると、丁度良く客人が入ってきた。

 褐色肌の美丈夫の登場に、店内は騒然となる。


 大和だ。


 彼は瞬く間にエルフやダークエルフ、サキュバスの女たちに囲まれる。

 そして、男たちから羨望と憎悪の入り混じった視線を向けられる。


 ネメアは思う。

 (大和)は楽しんでいる。

「刺激があるから人生は楽しいのさ」といわんばかりに。


 ネメアはふと、昔のことを思い出す。


『何を落ち込んでるんだよ、ヘラクレス』

『笑えよ、俺たちが大馬鹿野郎だったんだ。ここは笑うべきだぜ』

『そんでもって、お前は夢を叶えろ。俺は、お前が幸せになってる姿が見てぇ』


「わかったわかった、また今度な」


 大和は女たちを退け、カウンター席までやって来た。

 そして気軽にネメアに話しかける。


「よう」

「ん……ああ、どうした?」

「黒兎に魔闘技法(まとうぎほう)を教えただろう?」

「……まぁな」

「いい感じだったぜ」


 大和は笑う。

 ネメアも釣られて笑った。


「何か食うか?」

「天ぷらうどん大盛りに野菜ジュース付きだ」

「……黒兎が好きなメニューだな」

「マジで?」

「よく食べにくるぞ」

「そっかー、好みはパパに似たのか〜」

「……フフッ、そうだな」


 ネメアは踵を返し、厨房に向かう。

 その笑みは、何時もよりも深かった



《完》




お仕事忙しくなるので、しばらく休載します

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