三話「サラブレッド」
大和相手に二分も時間を稼ぐなど、本来であれば不可能だ。
それこそ、同じ「最強」の称号を持つ者しか彼を止められないだろう。
しかし、黒兎は彼の実の娘だ。
その規格外の才はきっちりと受け継がれていた。
大和の放った手刀を黒兎はミスリル銀製の長棒で受け流す。
瞬時に長棒の先端を三叉槍に変形させて五段突きを放った。
一息に放たれた五つの刺突を、大和は丁寧に捌いていく。
しかし最後の一突きで矛先が変形、飴状になって大和の右手を絡め取った。
鞭の様にしなる長物──その伸縮性を活かして黒兎は跳躍し、大和の顔面にドロップキックを放つ。
しかし、大和は難なく左手でガードした。
そのまま黒兎の首根っこを掴んで、勢いよく上空に放り投げる。
黒兎は再度ミスリル銀を三又槍に変化させると、隣にあった廃ビルの壁に突き刺し、威力を殺そうとした。
「おや」
ズゴンと、物凄い音が鳴った。
廃ビルが根本からすっぽ抜けたのだ。
これは黒兎も予想外だったのだろう。
廃ビルごと上空に飛ばされる。
しかし、彼女は柔軟に対応してみせた。
三叉槍を五又に変形させて廃ビルをしっかり固定させると、遠心力を用いてぶん回して大和に投げつける。
凄まじい怪力だ。
大和の実の娘だというのも頷ける。
大和のいた場所から土煙の入道雲があがる。
しかし次の瞬間、拳を突き上げた大和が現れた。
廃ビルは瞬く間に瓦礫の山と化す。
軽やかに着地した黒兎に対して、大和は言った。
「親にものを投げるんじゃありません」
黒兎はすかさず言い返す。
「娘を上空に投げ飛ばす親も、どうかと思いますがね」
うまく言い返され、大和は笑った。
「ハッ」
「フフッ」
黒兎も笑う。
この親子、ある意味似たもの同士だった。
黒兎はミスリル銀製の長物を振り回して元の棒状に戻す。
精神感応金属、ミスリル銀。
デスシティでも希少な素材として扱われているこの貴金属は、使用者の精神命令に1ナノ秒と跨がず反応して形状を変化させる。
強度、伸縮性共に無限の可能性を持つ夢の金属だが、その使用の難しさから扱う者は極々限られていた。
黒兎は、ミスリル銀を用いた得物の名手だった。
その気になれば太刀、大剣、細剣、戟、薙刀、鎌、鎖分銅など──あらゆる武装に変化させて使いこなす。
「本気で行かせてもらいます」
黒兎の灰色の瞳が輝く。
過去現在未来、全てを見通す魔術士の冠位、魔法使いの更に上位──「魔導師」たりえる絶対条件。
千里眼。
彼女は生まれながらにコレを有していた。
大和はやれやれと肩を竦める。
「使いこなせるようになったか、千里眼……アイツに似てきたな」
黒兎の母親は、大和と同レベルの規格外だった。
災厄の魔女──エリザベス。
欧州の魔術結社「黄金祭壇」のトップであり、最古にして最強の魔導師──世界最強の魔法使いである。
世界最強の武術家と世界最強の魔法使いの間に生まれた子。
彼女は間違い無く、世界最高のサラブレッドだった。
「まだです。貴方相手に出し惜しみはできませんから」
そう言って、彼女は七色に煌く闘気を纏う。
大和は目を見開いた。
七色に輝く闘気など、今まで一度も見た事がなかったからだ。
同時に違和感を覚える。
闘気以外の何かを感じる。
大和は瞬時に見抜き、呟いた。
「魔闘技法か……」
闘気と魔力の融合。
本来、絶対に相容れない二つの力を融合させることで莫大な力を得る究極技法。
修得難易度最上級を誇る、大和でも扱えない力──
この技法の開発者であり、既に極めている「ある傭兵」がいた。
大和は苦笑する。
「ネメアの奴め……十八番を教えやがったな」
そう、魔闘技法は傭兵王ことネメアの十八番だった。




