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〜Past Glory〜  作者: パイナップルの妖精
序章
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四話「決戦前夜」



 ヤマトタケルとヘラクレスは夜遅くまで都立図書館にこもっていた。

 極西──ケルト地方の伝承や文献を読み漁っているのだ。


 魔法のランプに横顔を照らされながら、ヘラクレスは呟く。


「バロール……想像以上だな」

「極西最強の異名は伊達じゃねぇな」


 ヤマトタケルも大袈裟に両手を広げる。


 バロール──直死の魔眼もそうだが、総合力が桁違いだ。

 武技の深奥を誰よりも早く捉え、数多の流派を生み出した圧倒的な戦闘センス。

 神々の権能を魔導、魔法、魔術の三段階に分けた叡智。

 まさしく別格。


 武技と魔導を極めし原初の戦女神。

 究極の神殺しにして死を統べる女王。


 知れば知るほど、その規格外の強さがわかってくる。

 しかし、ヤマトタケルは余裕そうに笑っていた。


「まぁ、やれるだろ。俺たちなら」

「そうだな」


 ヘラクレスも頷く。


「バロールは俺のほうでどうにかしよう。相性的にそっちのほうがいいだろ?」

「ああ。なら俺は配下のドラゴン──クロウ・クルワッハをどうにかしよう」

「任せたぜ」


 ヤマトタケルは机に置いておいたワイン入れを手に取る。


 瞬間である。図書館に広がる暗闇から銀閃が煌めいたのは──

 ヤマトタケルは片手をかかげる。

 その指に幾重にも糸が絡まった。


 煌めきの質と糸同士が擦れる音からして金属製。それも戦闘用に調整されたものだ。

 ヤマトタケルの指でなければバラバラになっている。


 彼は拳を作り解けないようにすると、勢いよく引き寄せた。

 暗闇の中から小さな影が飛び出てくる。


 影はヤマトタケルの膝上にまたがると、懐から刃物を取り出す。

 猛毒を塗り込んたナイフだ。

 顔に容赦なく突き立てられたソレを、ヤマトタケルはギザ歯で噛み砕いた。


「テメェも懲りねぇな、チビ」

「……死んでよ。ねぇ、何で死んでくれないの?」

「誰が死ぬかよ、バカ」

「ッ」


 暴れる少女。

 そう、少女だ。

 ヤマトタケルは首根っこを掴んで持ち上げる。


 ブランと宙にぶら下がった少女は、奈落の底のような瞳を潤ませた。

 紫色を帯びた黒髪。暗殺装束におさまった年相応の肉体。


 女神と比べても見劣りしない絶世の美少女だが、ヘラクレスは嫌悪感で顔を顰める。


 彼女は世界最悪の暗殺組織「サンタ・ムエルテ」の最高傑作。


 アラクネ。

 ヤマトタケルの命を狙う刺客の一人だった。



 ◆◆



 アラクネは唇を噛み締めながら図書館を出ていく。

 ヤマトタケルは次のワイン入れに手を付けた。


「何故殺さない。あの(たぐい)は放っておくとロクなことにならないぞ」

「じゃれてるだけだ、気にすんなよ」

「……気が引けるのなら、俺が殺しておくぞ」

「どうした、らしくねぇ」

「お前が呑気なだけだ」


 ヘラクレスは声のトーンを落とす。


「アレは殺しておいたほうがいい」

「……」


 その瞳に、何時もの温かさはない。

 かわりに氷のような冷たさがあった。


 ヤマトタケルは肩を竦める。


「俺があんなちんちくりんに殺される可能性があるとでも?」

「ゼロではない。アレが体内に宿している毒は尋常じゃないぞ」

「確かにな」


 劇毒なんてものじゃない。

 アレは神すら殺せる死の概念だ。


 それでも、


「あのガキは俺が相手する。お前は気にするな」

「……情が移ったか?」

「まさか」


 ヤマトタケルは鼻で笑う。


「俺の問題だ、俺が解決する。それだけの話だ」

「……」

「心配すんなって。それより、お前は自分の心配をしたらどうだ? ただでさえ「英雄」として忙しいんだぜ?」

「……ハァ」


 ヘラクレスは諦める。

 ヤマトタケルは子供のように笑った。


「なぁに、暗殺者なんて慣れたもんさ。皇子だった頃に散々さし向けられたからな」

「あまり自惚れるなよ? 俺は寝る。お前も早く寝ろよ」

「このワインを飲んだら寝るよ」


 ヘラクレスは図書館を去っていった。

 その背を見送りながら、ヤマトタケルはワイン入れを傾けた。



 ◆◆



 同時刻、極西の果てに広がる魔宮殿で。

 禍々しい神威を放つ玉座に、凄絶な色気を纏う美女が座っていた。


 容姿的年齢は二十代後半ほど。

 濃紺色の肌は本来異色だが美しく見える。白黒逆転した瞳もそうだ。魔性の色香を更に際立たせている。

 身体はよく絞れており、筋肉がしっかりと付いている。なのに乳房は驚くほど実っていた。100センチは優に超えているだろう。

 服装は黒鉄の装甲で造られた禍々しくも神々しい戦装束。左目はアイパッチで隠されている。


 バロール。

 神殺しの魔王。武技と魔導を極めた原初の戦女神。


「明日の戦、儂を愉しませてくれる内容であればいいのだがな」


 バロールは未知に飢えていた。

 血湧き肉躍る闘争に飢えていた。


 そんな彼女の傍らには二名の男女が控えている。


 一名は給仕服に身を包んだ美男。

 容姿的年齢は二十代前半ほど。長身痩躯ながら鋼のような肉体。適度な長さで切り揃えられた黒髪。

 その身から滲み出るオーラは絶対強者のものだ。

 彼は最強種である神仏と同格──いや、それ以上の存在である。


 黒龍王クロウ・クルワッハ。

 外宇宙の生命体、ドラゴン。

 その中でも「龍王」の称号を持つ最上位の存在だ。


 もう一人は真紅のドレスを着た美少女。

 腰まで伸びた金髪は赤みを帯びて輝き、白い肌は自ら光を放つ。

 ルビーのような真紅の瞳にはしかし、生気が宿っていなかった。


「お前の死んだ心に火をつける存在が現れるかもしれんな、エリザベス」

「そうであれば、至上の喜びでございます」


 エリザベス──そう呼ばれた少女は礼をする。


 彼女には総て見えていた。

 過去、現在、未来、全てを見通せる魔導師になるための絶対条件。


 千里眼。


 コレを生まれながらに有していた。

 故に壊れてしまった。


 怒り、悲しみ、妬み、辛み、絶望、欲望、憤怒、憎悪──あらゆる負の感情が幼い精神を犯し壊したのだ。


 エリザベスは、生きることを放棄していた。


 バロールはため息を吐くと、全軍に出撃命令を下す。

 フォモール族を率い、ダーナ神族を蹂躙するために。


 バロールは今回、自ら指揮を執ることにした。

 そして、何時もなら置いていくエリザベスを連れて行くことにした。


 彼女は密かに期待していた。

 自身の果てしない飢えも、エリザベスの底無しの絶望も、笑って吹き飛ばしてくれるような存在(英雄)の登場を……




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