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デスシティ 〜魔界都市備忘録〜  作者: パイナップル
第一章「黒鬼伝」
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三話「魔界都市の住民たち」





「契約を解消させてもらいます」


 そう、用心棒は笑顔で言った。

 拍子抜けするほど気軽な声音だった。


 組長は目を丸めた。

 言葉の意味を理解できなかったからだ。


 この状況で、間違っても口にしていい言葉ではない。たとえ冗談だとしても、だ。


 組長は辛うじて愛想笑いを浮かべる。


「冗談にしては笑えないぞ?」


 しかし、用心棒は笑顔のまま。

 その笑顔がだんだんと不気味に見えてくる。


「冗談じゃないですよ? 契約を解消させてもらいます。今すぐに」


 組長の表情が歪んだ。

 脂の乗った顔が真っ赤に染まる。


「襲撃を受けた直後に……馬鹿かお前は?」


 こういう時のために雇ったのだ。

 今こそ活躍してもらう時なのだ。


 しかし、用心棒は嫌だといわんばりに両手を広げる。


「だって下にいるの大和ですよ? 無理ですって、勝てません。さっき説明したでしょう? 俺じゃ掠り傷一つ負わせられないって」


 バン!! と組長は両手でデスクを叩いた。


「既に報酬は払っているんだ! せめて時間を稼げ!」

「……ん~」


 用心棒はポリポリと頬をかく。


「何か勘違いしてませんかね? 旦那」

「……?」


 用心棒はサングラスを指で上げる。

 その青色の瞳を見て、組長は大量の脂汗を噴き出した。


 人間がしていい目ではなかった。


「アンタが俺を雇ったんじゃない。羽振りのいいアンタを、俺が選んだんだ」

「ッ」

「旦那ぁ……アンタ死んじゃうんだから、もう少しマシなリアクションとりましょうよ」


 肩を竦める用心棒に、組長は怒りのまま叫ぶ。


「ふ……ふざけるなッ!」


 数名の構成員が部屋に入ってきた。

 外で待機していたのだろう。


「……あのね~」


 四方から銃口を向けられ、用心棒はやれやれと頭をかく。


「お気持ちは察しますよ? でも、俺に銃口を向けてどうするんです? 向けるのは下にいる奴でしょう。ああ、それと──」


 用心棒の体から、底冷えするような殺気が溢れ出た。


「俺に銃口を向けるなって、契約書に書きましたよね? 阿呆共が──テメェら全員、俺の拳の射程圏内だ」


 用心棒の両腕がブレる。

 岩石の如き拳は音を超え、光すらも置き去りにした。


 室内は瞬く間に鮮血で染め上げられた。



 ◆◆



 その頃。

 大和は一階の構成員たちを惨殺していた。


 物言わぬ肉袋と成り果てた彼らを一瞥し、二階を目指す。

 床に張った血によって、下駄の軽快な足音が不快な音に変わっていた。


「……」


 二階に続く階段は上段下段で交差しているタイプだった。

 大和の位置からは上段が見えない。


 彼が一段目を上がろうとした瞬間、いくつもの銃口が上段から現れる。


 銃声が弾み、火花が吹き上がる。

 フルオートで弾薬がばらまかれる。


「……は?」


 その間抜けな声は、一人の構成員のものだった。

 彼だけが違和感に気づけた。

 微かに見えた影。それを辿り、恐る恐る天井を見上げると──


 褐色肌の鬼がいた。


「お前ら……!!」


 仲間に危機を知らせようとしたが、その前に踏みつけられてぺしゃんこになる。

 仲間が気付いた時には、既に遅かった。


 爪で頚動脈を裂き、首をへし折り、指で目ごと脳を貫く。

 残った者は適当に斬り刻む。


 瞬く間に惨殺された構成員。

 大和は散らばった肉塊をまたぎ、二階の廊下へと出た。


 丁度、走って逃げている構成員がいた。

 大和は右手でデコピンの形を作り、その背に向けて弾く。


 パンっ、と空気が破裂する音と共に構成員の上半身がはじけ飛んだ。

 規格外の力で放たれたデコピンは余波で真空波を生み出したのだ。


 大和は生き残りがいないか確認しながら組長がいる部屋の前までやってくる。


「……ん?」


 妙な気配を感じて首を傾げる。

 扉を開けると──全てが終わっていた。


 原型を留めていない構成員たちが床に散らばっている。

 一番奥にあるデスクには、首のない死体が寄りかかっていた。

 ブクブクに太った醜い肉体──おそらく組長のものだろう。

 首の断面を見るに、無理やり捻じ切られたようだ。


 この惨状を、いったい誰が作り上げたというのか? 


「おーう、ナイスタイミング」


 綺麗なままのソファーに座る大男。

 その傷だらけの笑顔を見て、大和は思わずため息を吐いた。


「人の仕事取るなよ、右之助(うのすけ)

「いやー、わりぃわりぃ。許してっちょ♪」


 用心棒──右之助は気軽に謝った。



 ◆◆



 二人は知り合いだった。

 よく酒を飲んだり娼館に行ったりする仲だった。


 大和は赤く染まった部屋を見渡し、目を細める。


「派手にやったな……依頼主だろう? 守ってやれよ」

「冗談。お前とやり合うなんてゴメンだね」


 おどける右之助を傍目に、大和は床に転がっていた組長の生首を見下ろす。


「右之助、その首」

「ん? ソレがどうした?」

「借りるぜ」

「どーぞ」


 大和は組長の首を拾い、机に置く。

 そしてスマホで写真撮影をはじめた。

 最後に光度を調整したモノを右之助に見せる。


「どうよ?」

「まぁ、いい感じじゃね? てか、そんなもんどうするんだよ?」

「依頼主からの要望だ。晒し首を撮ってくれって」

「へぇ、そりゃまた……」

「一人娘をサディズムの対象にされたんだと」

「そりゃ怒るわ」


 呆れる右之助。

 魔界都市の住民にも道徳観や倫理観はある。

 それを知らない、または理解できない者が多いだけだ。


「……」


 大和はふと、懐から大きめの財布を取り出した。

 中から札束を三つ取り出して、右之助に差し出す。


「少ないだろうが、受け取れ」

「マジで? いいの?」

「迷惑料、口止め料、諸々を含めてだ」

「そういうことなら♪」


 右之助は笑顔で受け取る。


 ふと、大和のスマホの着信音が鳴り響いた。

 死体回収屋のリーダー、幽香からだ。


「もしもし」

『おーう大和ー! 終わったかー?』

「丁度終わったぜ、来れるか?」

『おうよ! 三分くらいで行くぜ!』

「はいよ、じゃーな」


 通話を終えると、大和は右之助に言う。


「外出るか、汚ぇし」

「だな」


 二人は揃って部屋を出る。

 残ったのは物言わぬ死体だけだった。



 ◆◆



 数分後、事務所の外で。

 二人は死体回収屋の面々と合流していた。

 死体回収屋『ピクシー』のメンバーは幽香を含めて全員幼い幽霊だ。


 彼らは大和たちの周りをふよふよ浮遊している。


「大和だー!」

「右之助だー!」

「元気だったかー!」

「死体どこだー?」

「毎度、ありがとうございます……」

「お久しぶりですぅ」


 幽霊たちは皆個性的だ。

 二人の頭に抱きついたり、丁寧にお辞儀したりしている。


 幽霊たちが騒いでいると、リーダーである幽香が頬を膨らませた。


「お前らー!! 今は仕事だぞー!! 集中しろ!! しゅうちゅー!!」


 すると、幽霊たちは『了解です!!』と可愛らしく敬礼し、事務所へと入っていく。

 そんな子分たちの背中を確認した幽香は、綺麗な桃髪を揺らして大和に振り返った。


「おっしゃ! 大和! 会計は明日終わらせるから、待っててくれよな!」

「おう」


 頷く大和に、幽香は何故かパンと両手を重ねる。


「大和! お願いがあるんだけどさ!」

「ん? ……ああ、残ってるものか?」

「持って帰っていいか!?」

「いいぜ。右之助もいいよな?」

「おう」


 幽香は翡翠色の瞳を輝かせると、大和に抱きつく。


「ひゃっほーい!! さっすが大和!! 大好きだぜー!!」

「オラ、さっさと子分の手伝いに行ってやんな」

「おう!! いつもありがとうなー!!」


 幽香は手を振って現場へと向かっていく。

 二人のやり取りを見ていた右之助はニヤニヤと笑っていた。


「優しいねぇ~」

「茶化すな」


 肩を竦める大和に右之助は言う。


「なぁ大和、これから暇か?」

「暇だな」

「久々に飲みに行こうぜ」

「いいぜ。どこにする?」

「ゲートでいいか?」

「おう」

「そんじゃ、今から行くか」

「ああ」


 二人は並んで歩き始める。

 しかし……


「!」


 柑橘系の香りを嗅ぎ取った大和は、灰色の三白眼を細めた。


「右之助」

「どうした?」

「野暮用ができた。明日、この時間にゲートに集合だ」

「…………」


 唐突な予定変更だが、右之助はなんとなく察して頷く。


「りょーかい、じゃあ明日な」

「おう」


 手を上げて別れを告げる。

 右之助は離れていく大和の背に告げた。


「容赦すんなよ」


 大和は振り返る。

 そして微妙な顔をした。


「相手によるな」



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