第二の選択
食事も終わり、火を落とす。
さっさと泉の部屋に入ると、時計の螺子を巻いた。
二匹は満足したのか、寝床ですぐに横になった。
「何処に寝床を作る?奥が良ければ、この段差だね。入り口がよければそこに寝床を作るよ」
「何か身を包めれば、どこでも良いぞ」
「遠慮するねぃ、落ち着く場所〜」
「悪魔のとなりでなければ、どこでもいいぞ」
「出入り口の近くだと、気配が漏れるかもしれないからね。こっちかな」
結局、私が寝ていた場所の棚に寝具を広げる。
「サリーヤは何処に寝るんだ」
「ここ」
「悪魔の間に寝るのか、なら、ここで寝なさい。私はその辺でいい」
「悪魔じゃないし」
***
何処で、間違ってしまったのだろう。
無くしてしまってから、思い返しても。
手の中には何も残らない。
でも、考えてしまう。
どうしてだろうか?
違っていたとしても、それで全てが駄目になるわけではない。
私達はそう思っていた。
だから、事実を知っても、何も壊れはしないと思っていた。
私達は、無知であった。
心の機微にもっと気を配っていれば。
傷つけていた事に気がつければ。
何もかも失ってしまうと思わなかった。
ただ、これだけは言える。
私達は恨みはしない。
ただ、貴方の選んだ道を悲しく思う。
けれど、その為に失われる物を、私達は救いたい。
私達は、貴方を失いたくない。
偽善と受け取られようとも、私達は最後まで、貴方を見捨てはしない。
だから、貴方と共に、私達はいこう。
かわりに、救える者を救いたい。
私達と貴方が、選べるはずだった未来。
せめて彼だけは救われますようにと。
***
異変無く夜明けを迎える。
眠る犬達、眠るクゥ。
安心して寝ているね、よかった。
さて、今日は何をするか?
クゥは何かを始めるだろうね。
なら、私も始めるかな。
上に戻ろう。
そして、塔の人、笛を吹き竪琴を鳴らす人を探そう。
もちろん、慎重にね。
クゥの言う通り、行かないほうが良いんだろうけど。
でも、きっと待ってるような気がするんだ。
何時ものように、動物たちの様子を見て、セルナトに食料を運ぶ。
また、城を少しづつ探索。
それでいい。
ただ、クゥがいるうちは、セルナトに食料を運び込むところまでだ。
あと、考えたけど、城の船着き場を探そう。
小さな砂船、兵士の船があるなら、クゥだけでも外に行ける。
そこまで考えて、少し、自分が馬鹿な事に気がつく。
数日前に出会えた人に、依存しているなぁって。
本当に、寂しかったんだ。
迷惑をかけてはいけないよな。
時計を見て、朝が来ている事を確認してから、扉に向かう。
灰色がついてきているが、茶色は又、仰向けで寝てる。
そっと扉を開く。
朝陽、でも、雲が多い。
良くないな。
曇りは良くない。
どうしたものかと考える。
私は踵を返すと、室内のクゥに呼びかけた。
「クゥ、朝だけど曇りだ。起きて、今日は不味いかもしれない」
すっと目覚めたクゥは、寝慣れない場所で首を痛めたのか、手でさすりながら起きた。
「曇り?」
「うん、今日は活動を控えたほうが無難かも」
それにクゥは片手で首を揉みながら起き上がる。
「そうだな、サリーヤは今日はここにいるんだ」
「クゥは?」
「曇りなら、好都合だ」
なるほど、再戦だ。
「クゥ、影は人じゃないと思うよ」
だからどうした?という顔をしている。
私は食事の用意をするべく、竈に火を入れた。
「食事を済ませよう。灰色、茶色を起こして、通路を巡回してきて。クゥは鳴子と瓦礫をどかしてくれるかな?」
野菜を手に入れておいてよかった。
今日ここに隠っても、保存食に野菜があれば食べ物はなんとかなる。
「クゥの予定を教えてくれるかな?
教えてもらえれば、余計な邪魔をしないで済むと思うんだ」
食べながら、そんな風に持ちかける。
するとクゥは食べるのを止めて、私を見た。
「大丈夫だ、ここに隠れていれば、何も問題は無い」
問題ありまくりの発言だね。
「じゃぁ灰色と茶色を連れてってよ。見張りにね」
「いらない」
二匹まで同意するなよ。
「なら、私はアルラホテに上がるよ。動物たちの世話をして、教会に戻る。それから」
「駄目だ、ここに晴れるまでいるのが安全だ」
安全ね。
じゃぁクゥの安全は?
まぁ仕方がないのかな。
邪魔な私が、ここにいれば気にかけずに動けるものな。
クゥの顔を見る。
拒絶の意思と優しさと。
残念だなぁ、私は、信用されないし、子供だから力になれないって思われているんだな。
「大丈夫だ」
「今日は何処を探索するの?」
「武具と武器を借りる」
「灰色と茶色を連れてって、夜になる前に避難してね」
「悪魔はいらない」
食事を終えると、クゥは長櫃の武具を身につけた。
古風な武具は、クゥによく似合っていた。
物語の砂漠の王様みたいだね。
背が高くて、足元ががっしりしている。砂よけと暑さよけの布が不思議によく似合っていた。
軽装とは言え、武装したクゥは別人のように見える。
くれぐれも歩き回るなと釘をさし、クゥは出ていった。
その背中を見送る。
灰色の雲の空を見る。
クゥは、大丈夫。
でも、私は心配で心が落ち着かない。
「灰色、今日は私は町に出ない。
代わりにクゥについて歩いて。
茶色、クゥに悪いモノが近づいてきたら教えてあげて。
お願い、私、不安なんだ」
それに二匹は嫌そうな顔をしたが、クゥの気配が消える前に、追いかけていった。
クゥは、もう、もどってこないのかなぁ。
***
女神シシルンの祝福を。
仲の良い、兄と妹に
血のつながらぬ者であっても
思いやる心に、祝福を。
***
昼近く、何かが爆発する音を聞いた。
そして崩れる音。
気を紛らす為に、通路の砂掃除をしていたら足元が揺れた。
クゥ。
怖い。
落ち着いて、今、確認に行ったらクゥの邪魔になるかもしれない。
怖い。
何かあったら灰色達が知らせてくれる。
灰色達も何かあったら?
止めろ、違う。
町へと入る通路に向かう。
そこで耳をすます。
変な音がした。
何かが壊れる音と奇妙な鳴き声だ。
大きな何かが動く音だ。
私は聞き分けると走った。
泉の部屋だ。
砂を運んでいた道具を捨てて、叫ばないように部屋に飛び込んだ。
私の耳が拾ったのは、犬や人間とも違う、重い奇妙な足音だ。
不規則な振動と耳障りな高音。
鳥とは違う鳴き声だ。
それが近付いて来るのと同じく、振動と打ち付けるような地響き。
私は慌てて扉に押さえを置くと、奥の棚へと転がり込んだ。
部屋が揺れる。
パラパラと壁の漆喰が落ちた。
猛獣の唸り声とは違う。けれど何かがクルクルと喉を鳴らしている。それは町へと続く通路から様子を見るよう動いている。
音が回るように動いているから、たぶん覗きこんでる?
音をたてない、動かない。
私は壁に体を寄せると丸くなった。
私は野菜。
ほら、クゥが運んでくれた南瓜。
怖くない。
怖くない。
ドゴンっと通路が揺れた。
それが何かを壊したのか。
でも、その音を最後に気配が遠くなる。
徐々に遠くなる。
私は部屋の隅で小さくなった。
クゥ。
次に気がついた時には、とても静かだった。
寝ちゃってたみたい。
時計は、まだ、昼過ぎだ。
伏せて丸くなったまま、耳をすます。
別の怖さに震える。
ひとりぼっちになっちゃった?
そう思ったら涙が出た。
クゥも二匹もいなくなっちゃった?
怖い。
探しに、いかなきゃ。
助け、て。
怖い。
「サリーヤ」
クゥだ。
「大丈夫だ、サリーヤ」
クゥがいた。
クゥは私を抱えて背中を叩いていた。
赤ちゃんみたいだな。
そんな事をぼんやり思う。
「怖かったな、すまなかった」
クゥが無事ならいいよ。
「まさか、こっちに来るとは思わなかった。馬鹿な兄ですまない」
クゥの冗談かな。でも、何だか笑えないなぁ。疲れちゃった。
「間違いを反省したばかりなのに」
何か間違ったの?
「サリーヤ、喋れないのか?」
クゥが無事ならいいんだ。
「怖かったんだな、そうだよな。私が悪かった」
悪くないよ。
何とかクゥの背中を叩いた。
クゥは悪くないよ。
弱虫の私がダメなだけだ。
さぁしっかり。
「灰色たちは?」
「大丈夫か?」
「怪我はないよ、すぐに隠れたし。灰色たちは?」
「念の為に見張りをしている」
「あれ何?逃げ込んで見なかったけど。すごいのが来たの、わかったよ」
「サリーヤ、私が間違っていたら、怒っていいのだ」
また、会話が成り立ってないなぁ。
「じゃぁ言うけど、質問には答えてよ」
ほら、黙る。
「クゥ、私には何を言っても無駄だと思ってるんだね」
「違う」
「じゃぁ言い方を優しくするよ。
私を守る為に、何も話さないんだね。
ありがとう、でも、何も話してもらえないと、すごく怖いんだよ」
「すまない」
「さっきの怖い奴も怖い。けど、もっと怖いんだ」
どう言ったらいいのかなぁ。
だんだんと落ち着いてきた頭で考える。
「クゥは大丈夫だ、行ってくるぜ!って出かける。
でも、残った私は何も知らない。
クゥは大丈夫かな?
何処に行ったのかな?
戻ってくるのかな?
って、なるんだよ。
これ、奥さんの愚痴に似てるよね」
「サリーヤ」
「わかるかな。いつ帰ってくるかもわからない旦那さんのご飯はどうすればいい?」
抱えられたまま、クゥを見上げる。
困った顔だ。
「話せる範囲でいいんだよ。それか、戻ってくるよって言うだけでね。そしてもし、いなくなるなら、さよならって言ってほしいんだ。
戻らなかったら、探しに行くだろう?」
「サリーヤ」
「ごめんてあやまるのは、私かな。だって、結局クゥを縛ることになるもんなぁ。やっぱり、先にさよならして、単独行動のほうがいいのかなぁ」
クゥは私を抱えたまま、ガックリと頭をたれた。
「反省した」
「会話がなぁ、致命的に噛み合わないんだよ」
泉の部屋から出る。
クゥは私を抱えたままだ。
どうも、一応敵性生物は討伐したらしい。けど、まだ危険なので外では私が背中にひっついているか、こうして抱えてもらったほうが早く逃げられるとの事。
もう、何だか質問が増える情報ばっかりだよ。
思うほど何も壊れてはいない。
ただ、壁に焼け焦げたような筋が走っている。
鞭か何かで打ったみたいなね。
灰色と茶色は私をめがけて走り寄ってきた。
お前達偉いぞ、良く働いたので、後でご褒美だな。そうか、肉でいいか。
「サリーヤ、私は捜し物をしている」
昼ご飯。
私の栄養改善問題につきあって、クゥもご飯の回数を増やした。クゥが太ったら、太らなそうだ。筋肉重そうだもんね。
「それを誰よりも先に見つけたいのだ」
「誰って?」
「私の敵だ」
「敵って誰?」
「言えないのではなく、説明がむずかしい」
ご飯を食べながら、クゥは色々答えると言った。
脅威が増えて、隠せないと思ったのかもしれない。
それに、私の言葉が、少し届いたみたいだ。
「何を探しているの?」
「シシルンの墓だ」
「女神様の?」
「女神というのは、後付の話だ。
彼女は実在の人物であり、過去、このあたりにあった国の王族だ。
だから、彼女の埋葬品を探している」
「何で又、そんな」
「あるかどうかもわからない。朽ちていそうな代物を探すのか。それはそれを探しているモノがいるからだ。
装身具、形見、まぁいずれにしろ墓を探している。」
竈で焼き伸ばした穀物を皿に盛る。
付け合せを焼きながら、私はバラバラになった遊技盤の駒を思い浮かべた。
「クゥの敵かぁ。
ア・メルンの支配者であるヤカナーンの一族は分裂した。
それにクゥの部族の誰かが関わっていた。
そこにもう一つ、別の勢力がいるが支配権には興味がない。
クゥはシシルンのお墓を探している。
簡単に考えれば、墓荒らしが敵だね。
支配権に興味がないなら、墓荒らしが目的って事?
ここがシシルンの痕跡があったから、自由に調べる為に、争いごとを利用した。
だから、クゥは、裏切り者のニィ・イズラの誰かを殺す。
それに加えて、その原因となった墓荒らしにも復讐をしなくてならない。
ヤカナーンの一族でも、クゥが助力する勢力の為にも、彼らを排除しなくてならない。
うぅん、それ以外にも利害があるんだろうけど。」
「サリーヤは」
「何?」
「賢いなぁ」
「しみじみと頭を撫でられると、何故か腹がたつのだ」
「まぁおおよそはあっている」
「今日、何があったの?」
「後で一緒に行こう」
よかった。一緒だ。
***
町に入って驚く。
北の方向から一色線に、建物仕切りが無くなっていた。
「お前が書いてくれた地図で言う、十二番井戸だ。番人がでた」
「説明ぃ」
「わかった」
クゥは私を肩車すると歩き出した。
頑丈な何かが突き抜けた跡だ。
家の壁が抜かれて粉々に散乱している。
「シシルン所縁の場所を探すと、番人が巣を食っている。
侵入者を殺す生き物だ。」
「私らはずっと暮らしてきたよ。そんな話聞いたこともないよ」
「そうだな。シシルンは神の鳥から力を得た。
力を奪おうとする者には災いをもたらすのだ」
「何となくわかってきたよ。クゥは共通語にするのが、下手なんだね」
クゥの頭が私を見ようと上を見る。
「何とお前に伝えていいのかわからない。お前が大人であれば、もっと直截に伝えるだろう。だが、あまりよい言葉が浮かばぬのだ」
「まぁいいから説明続けて」
「史実として残るシシルンは、セトの娘と言われている」
「セトって、昨日の夜に影が言ってた?」
「ソル・ティギア・セトだ。
セトは、残虐な将軍であり、呪い師であった。」
「王様じゃないの?」
「複雑な人間関係が下地にある。
まず、セトは王の兄である。
王の妻は、元、セトの妻であった。
セトと長男は、戦死したと思われていたからだ。」
「もしかして、国を滅ぼそうした嵐って?」
「セトは簒奪者の弟と国を滅ぼそうとした。
シシルンは実の娘であると知っていながらだ。」
「簒奪した人だけでいいじゃん」
「無実とされているが、弟一人で国は奪えるものではない。そして国の為にと、残虐な者と誹られても戦い続けてきた者が、謀殺の憂き目にあった。まぁそれでも国ごと滅ぼそうというのは、行き過ぎではある。
まぁ、伝わる話によれば、あと一歩というところまで攻め滅ぼした。だが、彼の息子は、血族の妹に情けをかけた。
母親や叔父がどんなに非道であろうと、妹だけでも慈悲をと父親に願った。
だが、セトは既に理性を失っていた。」
「昨日の声が言っていたね。息子が父親を殺したんだね」
「そうしなければ終わらないと思ったのだろう。そうしてシシルンは生き残りを集め国を立て直したのだ」
「お兄さんはどうなったの?」
「父の汚名と父殺しの罪によって死んだとある」
「救いがないなぁ」
「そうだな。そしてシシルンは、父親と父親が残した遺産を隠した。遺産というが、つまりは父親の呪いと褒められたものではない数々の戦いの産物をだ」
「わかった。それ、戦争の道具だ。それが墓にあるか、墓に仕舞った場所がわかる何かがある?」
「そのとおり。だから、それを奪おうとすれば、シシルンの呪いが来るのだ」
「誰でもその話は知っているの?」
「いや、故郷の遺跡群を調査していたのが、私の義兄弟のルフト・スウェナムだ。
ルフトは、ヤカナーンの援助を受けていた。奴の本業は医者だが、この話を研究課題として発掘調査に加わっていた」
「薬の人だ」
「そうだ。遺跡群とはシシルンの国があったとされる場所だ。その付近の岩山に、砂の柱がある洞窟あってな。そこの調査をしていたのだ」
「ルフトという人は、謀反側に回った人?」
「そうだ」
「シシルンの遺産が欲しくて?」
「そうだと思う」
「う〜ん」
「何だ?」
「ちょっと飛躍してるし、理由が弱いね」
「どうしてそう思う?」
「遺跡でこんな話を発見しました。もっと力を手に入れる為に権力を掌握して、町を発掘しましょうぜ!頭が悪すぎて、恥ずかしいよ。誰が信じるの?」
クゥは笑った。
瓦礫と化した薄暗い地下の町で、クゥの笑い声が響いた。
「ヤカナーン公爵側の事情がある」
「嫌な話なんだね」
クゥは立ち止まると、指差した。
「シシルンの印は、片翼だ。あの井戸の上、水柱の中程に奇怪な彫刻があるだろう?」
気にもしていなかったが、巨大な柱の中程に彫られた彫刻の一部に、奇妙で不気味な姿が彫られていた。
片羽の人型であるが、頭部歪で目鼻も歪んでいる。手指も長いが数がおかしく、足に至っては鳥と人が混じったような姿だ。
「シシルンの守護神鳥だ。あれが宝の場所を示すと言われているが、間違えると呪いがかかる。そして番人が現れて、盗掘者を殺す」
「ルフトという人が調べたの?」
「昔から遺跡群のシシルン関連には、同じことが記されているそうだ」
「うわぁ」
ここで暮らしてる人間からすれば、嫌過ぎる。
「だから、柱全てを調べてみようと思った。敵と遭遇も期待できるが、もし、奴らの求める物があるのなら、先に手にできる可能性もある」
「クゥの敵かぁ、どこにいるんだろう」
「サリーヤ」
「なぁに?」
「間に合うと思うのだ」
「何に?」
「遺産を手にしなくとも、誰も手にできぬようにしたい」
「うん、それはわかったけど、で、これはその番人が?」
どうやったら、こんな事になるんだ?
「ともかく神鳥を調べようと、登った」
「登ったの?もう、落ちたら死ぬような高さだよ」
「あのくらいの壁なら、特に問題はない」
彫刻部分までツルツルなんだけど。
どうやったら登れるんだよ。
「登ってみたが、どこにも仕掛けなどなかった。」
「そりゃそうだよ、何十年と街なんだから」
「流浪民を置いたのは、歴史としては浅いだろう」
「まぁね、で、次にどうしたの?」
「ルフトの真似をした」
「まぁ無難だね、研究者だもんね」
「神鳥の方向を調べた」
「ほぅ」
「それで近くの四本を調べた。一応、向いている方向を地図に記して、何か関連性は無いかと調べた」
「それで?」
「交錯する場所など色々見てみたが、さっぱりだ」
「そりゃそうだ。そんなホイホイ、何かわかったら、とっくにヤカナーン様が管理してるよ」
「そこで地下二階を貫いている、特に深い柱に注目してみた」
「ここだと一番近いのが十二番だね」
「あの彫刻の柱部分に皿のように出ている所があるだろう?」
仰ぎ見る水柱の天井との継ぎ目に当たる場所が、柱から差し出された皿のように見えた。
「登って覗くと、死体がある」
「死体?」
「干からびた死体だ。それを動かそうとしたら、天井が開いた。」
「何処?」
「あの岩場の部分だ。開いて番人が出てきた。干からびた死体に見えたが、あれが鍵だ」
「何言ってるかわからないよ」
「私もだ。こっちだ」
クゥは、破壊の跡を踏みしめて、そのまま左に曲がる。
悲鳴がでたよ。
ひえぇってお腹から勝手に出たよ。
「死んでいるから安心しろ。
生きている間は、胴体の目が赤い。それを最初に潰して、触手を切り落としたが中々死なん。後ろに回り込むと裏に裂け目が見える。そこを刺すと弱るようだ」
「その情報はいらないと思うよ」
「回り込むのに視界を切ろうとしたら、私の追跡を止めて、西に向かった。流石に焦ったぞ」
小山のような黒い毛が生えた丸い生き物だ。体中から紫色の長い触手が無数に生えている。今は干からび始めていた。
「謝る事が一つある。悪魔どもが役に立った」
瓦礫を掘って遊んでいる茶色と、異形の屍骸を解体したいのか、割れた胴体に突進して遊んでいる灰色を見る。
「これらがいなかったら、間に合わなかった」
「やっぱり、犬、すげぇ」
「犬、ではないがな」
***
クスコ・ガルダは落下した。
もちろん、彼は落下しても死なない。
余裕をもって降りると、番人に向き合った。
セトの呪いにより、朽ちた刃物を捨てる。
素手で戦うには、体を変化させるしかない。
番人は彼を殺すべく触手を伸ばす。
避けて避けて、背後がおろそかになる。
彼は足を滑らせると、シシルンの穴に落ちていく。
彼の翼では、この呪いの穴からでる事はできない。
彼の体は切り刻まれ、呪いによって蘇る。
もう、彼はクスコ・ガルダではない。
呪われたセトを入れるだけの器になった。
シシルンの子は繰り返す。
セトの子である長子クゥ・ラウロ・アルヴィスは死んだ。
愛する妹への呪いを肩代わりし、彼は塩の柱となった。
哀れ、クラヴィスは、塩の柱となった。
***
「あぁ、お前の方へこれが向かうのに気をとられてな。
背後に穴が開いている事に気がつけなかった。」
「穴ぁ!」
十二番の井戸が無い。
そこには巨大な穴が開き、闇が広がっていた。
「見てみろ、唯の穴ではない」
覗き込むと、底の方に赤い目がある。
「うわぁ、あれ、出てこないの?」
「今の所、あそこから動かない。悪魔どもが騒いで警告してくれたお陰で、なんとか飛び越えた」
「すごい跳躍」
「それにイルキステが、お前の方に向かった奴を追ってくれた」
「さすが、灰色。今夜はお肉祭り決定」
ため息をつくクゥ。
「クゥが無事で良かったよ」
「外れだったがな」
「因みに、当たりは幾つ?」
「二つだ。得るべきモノは一つだが、呪い全体が発動したら、結局、城塞が終わる。これを避けたいのだ」
「じゃぁ暫くは、水柱の探索?」
「ここで見つける事ができねば、更に下に行く」
「無理しないでね。犬は連れて行ってね」
「不本意だが、しかたない」
それに、お互い様だという感じで、灰色が唸った。
茶色は大穴を飛び越える遊びをしてる。
落ちたらどうすんだ、やめなさい。




