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ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
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記録.59『青二才』

 

「……十時方向、敵影」


 あーいよっ…と。

 近くの敵を切り裂き、相も変わらず密林を進む。



『……恩返しします…!』


 祭壇によって呼び込まれた杏は、事情を聞くや否やそう言って索敵役を買った。

 まぁ、正直有難い。

 俺は弱いし、プロペラと比べたら見劣りする部分が多い。その為、一人で索敵、戦闘、情報収集までするのは些か無茶があった。


 それでも、こいつ()を使い潰していい理由にはならないから、しっかり守るけどな。

 杏が手伝うと言ってくれているとはいえ、巻き込んだのは俺の責任だ。俺がどうにかしなくては…。随分と久しく、責任という言葉が肩に乗る。


 ……ハンッ!

 俺は自分の気持ちを強く嘲笑した。

 責任を背負えるほど、俺はよく出来ちゃいねぇ。寧ろ、責任を無視してきたからごみ溜めなんて呼ばれんだ。


「杏介、プレイヤー反応はあるか?」


「薄っすらとは……一応…」


 幸い、杏は《捜索知覚》と言うプレイヤー追跡型の知覚を保有している。

 その追跡対象がフレンドであれば、その性能も向上するが、別にフレンドでなくとも一応探知は出来る。他の廃人共ならこうはいかなかっただろう。奴らは基本バトルジャンキーか過去に囚われた知識欲の権化だ。


 俺は木の幹に足を取られてすっ転んだ杏に、手を差し伸べる。


「……ありがとう…」


 杏が礼を述べながら、俺の手を取る。

 さぁ、進もうぜ。先は長い。未開放領域は初めてだろ?色々と不便だが、開放されりゃいい思い出になるだろうよ。一緒に自慢しようぜ、俺達が解放したんだーってな。ピュヒュイ君も悔しがるぜ、きっと。


 杏がころころと鈴の様に笑う。

 それを見て、俺も笑った。けらけらけら……


 俺は杏の笑顔を見て、悟られる事の無い様に心で邪悪な笑みを浮かべた。

 くけけ…

 もしも本当に俺達で未開放領域を開放したらどうなるかなぁ……!エビふりゃー含めたトップギルド連中の面子は丸潰れ…未開放領域の発見を目指す夢見がちなギルド共の座る席はもうねぇ…


 誰もが不幸で、そして幸せな世界じゃないか…。

 誰も笑ってなくていい。

 ただ、俺と俺を好いてくれてる奴らだけが幸せであれば、俺はそれでいい。世界よりも、周りにいる連中だ。


 モルカーを見て、人類の愚かさを知った俺は止まらない。

 進み続ける者だけが、その先にあるものを見ることが出来るんだからな……!





 あまりも歪な邪悪…。


 ◇■◇


「近いか?」


 俺は杏の耳元でそう聞いた。

 この場所は耳が良い魔物が多い。証拠に《聴覚強化》などの耳に関するスキルがよく落ちる。


 デカすぎる音は、魔物を引き寄せる。

 その為、喋る時なども出来る限り音を抑えようと耳元で囁くことになる。


「……ヒュッ」


 しかし、杏は俺が耳元で喋ると決まって喉の奥から変な音が鳴る。

 俺はその度、心の中でショックを受けているが、そこまで仲良くない奴が突然耳元で囁いたらそりゃこういう反応になる。ほんとすいません…。


 俺は自分を卑下する様に謝った。

 しかし、ここで死ぬわけにもいかないから結局囁く形で話しかける事になる……。ストレスで爆散しないでくれると嬉しいです、はい…。


 服とかを一緒に洗濯機に入れてもらえなくなったお父さんの気持ちとはこんなにも辛いものか…。


 俺の落ち込み具合を見て、杏が赤い顔をしながら体の前で手をぶんぶんと振る。


「……べ、別にいやって訳じゃ……」


 ゴメンネ……。

 もう少しの辛抱だから…。ゴメンネ…

 ダルいタイプの絡みをし出した俺に杏は文句ひとつ言わずに慰める。


 慰められて、俺は気分を良くして立ち上がった。

 男っつーのはそう言うもんだ。セクシャルハラスメントで訴えるのだけは勘弁してください。


 杏の《捜索知覚》が指し示す方角に歩みを進める。

 暫く進むと、一つの祭壇を発見した。俺と杏は怖がりながらも、前へ進む。


 さ、先行って良いよ。


「……いや…」


 俺達は互いに押し合いながら祭壇に近付いた。

 そういやここは文明遺跡内部だ。あまりに遺跡感が無いから忘れがちになるが、なんでもござれのキチガイ空間…それが文明遺跡だ。

 俺と杏は、祭壇を凝視して、出現したテキストフレーバーを読む。


 ―――――――

 〔冀求の祭壇〕

 求めるものを差し出そう。

 対価は無用。好きにすればいい。

 ―――――――


 ……どう思う?


「……対価ないっぽいし…やってみる…?」


 ………ええい!ままよ!

 俺は祭壇を起動させた。求めるものを差し出す…、それなら俺達の前にまずはプロペラでもなんでも呼び出せや!


 胡散臭いものには蓋をするべきだ。

 しかし、胡散臭くても他に縋るものが無いのならば、賭けてみるのもアリ…そう考えていた数秒前の俺よ。

 このゲームはクソだ。

 どうしようもない程にクソで、しょうもない。

 運営はまともな仕事をしないし、褒めればサーバーに出てきて荒らしになる。イベントはプレイヤーを殺す事しか考えていないし、一部のプレイヤーを優遇する。


 そんな運営共が考えたシステムには、決まって何か”穴”がある。

 そして、その穴は大体巧妙に隠れていて…


「クソ…運営がぁぁぁあああああああ!!!!!」


 恨み辛みも全てが遅い。

 奴らにあるのは、プレイヤーを困らせようとする嘲りの心だ。

 だから、こういうことが出来る。

 だから、ここまで最低な事をしやがる。

 だから、β時代にここまで俺達はひん曲がった。


 全部全部、てめーらのせいだ。

 だがな、覚えておけよ…!俺達は必ずお前らを殺してやるからな…!運営(かみ)殺しを、必ず成してやる…!!!




 願いを受け、その場に顕現したカメレオンを前に俺は強く決意した……。


 ◇■◇


 あまり舐めるなよ……!

 糞カメレオンが…!

 俺はナイフを取り出し、血液腕を成形する。もう血液腕は作り出せない。あと作れて血液盾が二枚やらそこらへんだ。


 ぎょろりとした瞳孔がこちらに向く。


「ひっ」


 杏が引き攣ったような声を上げる。

 プロペラと別れる前、殴った右目が随分と痛そうに赤くなっている。ははは、いい気味だな!カメレオン野郎!


 杏ころ、お前は《捜索知覚》でプロペラを探しに行け。

 んでもって、すぐに戻ってきてくれ。俺がこいつを抑える。お前にしかできない。頼んだぞ。


 俺はそう言って、カメレオンに向かって駆け出した。

 さて、廃人でも何でもない俺が未開放領域の主相手にどこまでやれっかな…。俺は残り少ない血液で、血液腕に薄い膜を張り、コーティングを施す。少しでも硬くする為だ。


「腐っても、俺はβだぜ」


 言い聞かせるようにそう言って、血液腕を飛ばす。

 そして、間髪入れずに俺も駆け出した。


 俺に出来る事は少ない。

 《血液操作》だってそうだ。

 元々、ナイフを振る事しかできなかった俺に、新たな選択肢が生まれただけだ。バトルセンスが無かった俺は、バトルジャンキーにはなれなかった。戦闘に楽しさを見出せなかったからだ。


 他の奴らみたいに特筆して、何かが得意でもねぇ。

 生産職みたいにちまちまする作業は苦手だし、テイマーみたいにテイムする労力も勿体無い。蜜柑の白い筋はラミミが甲斐甲斐しく取ってくれるし、ぺろりんは今もたまに金を恵んでくれる。ボロは俺の瘡蓋だらけの心を癒すし、ララが作った血のナイフは未だに血を求めている。


 ナイフを振るう。

 《疾風》を乗せて、俺に出来る最大限をぶつける。

 それでも、叶わない。戦略を考えるのは苦手だ。俺が楽に狩れるのは格下の魔物とルーキー共だけだ。



 戦闘も、生産も、全部苦手だ。



『じゃあ、なんでこのゲームをしているんダ?』



 誰かが、俺にそう聞いた。傍には、エビふりゃーもいた。


 そんなもん、決まってんだろ。


「惰性だよ、バーカ」


 βテストに参加できたから、ゲーム内で馬鹿を言い合う友人が出来たから、害悪行為をしても笑っていられる空間だったから。

 俺の居場所は別にこのゲームじゃなくてもいい。それでも、周りの連中は他の場所にいねーからな。仕方なく、仕方なくだ。


 血液腕が舌に絡め取られ、潰された。

 弾けろ、俺の命の流動体!

 その瞬間、粉々にされた血液腕が爆発を起こし、カメレオンの舌を焼く。それは、あまりに些細なダメージ。


 舌は千切れず、今も健在だ。

 しかし、一瞬の隙は生まれる。俺に戦略やら何やらは無い。

 期待する方が馬鹿ってやつだ。エビふりゃーみたいに無限に戦略が沸く頭が欲しい。狐面みたいに殺意に敏感になれれば。

 夢見ては、霧散する。

 全てが全て、泡沫の夢だ。


 それでも、この隙を、この隙を突ければ……!

 俺のナイフが熱く迸る。血が垂れてそう感じているだけだろう。

 それでも、この一撃が届けば―――、



 ―――…その瞬間(とき)、赤くなった目で俺を睨むように瞳孔が細まった。

 それと同時に、カメレオンの姿が完全に()()()()()


「…ああ!!?」


 殺意を向けていた相手の消失に、俺は苛立たしくナイフを空ぶらせる。


 おい!

 どうなってやがる!!?カメレオン野郎が!逃げてんじゃねぇぞ!

 ()()()()()()()()。その事実が俺を焦らせる。俺のナイフは、確かにカメレオンがいる場所を引き裂いた。なのにも関わらず、一切の手ごたえを感じていない。


 これは擬態やら透明なんてちゃちなもんじゃない…!


「存在の…透過…!」


 口に出して、ようやく頭も理解する。

 そして、同時に汗がぶわっと出てくる。や、やばい…。ど、どこだ?どこにいる?まだこの場にいるか?それともここから既に離れた?


 あああ!点と点が線でつながってく!

 《洞察知覚》はカメレオン戦特化の知覚だったのか!アレの効果は”見えるべきではないものが見える”だ。あれをもっときゃ、ここまでの最悪な状況にはなってなかった!


 くそ!前提条件が厳しーんだよ!

 クソ運営がヒントの一つくらい置いとけや!


 余った血液を使って、小さな針を量産する。

 成形できた数は三十程…全てを均等に全身の周りに浮遊させる。

 これで奴は下手に舌をこっちに伸ばしてこれない筈だ。さて、どうやって奴の姿を――――!!?



 コンマ数秒、俺の目の前に浮遊していた血の針が拉げていくのが見えた。

 拉げて、潰されて、その光景だけが目に焼き付いて、脳味噌が分かっても身体が、動かずに……


「が、ああああああああああ!!!!」


 全身が万力で押し潰されるような重圧を覚える。

 両腕で必死に空間を作るが、時間の問題だ。ぐぐぐっ、と少しずつ何かに狭まれていく。

 周りには、何もない。変わらず密林が広がる。

 しかし、恐らく俺は今、カメレオンの舌で絞殺されようとしている…!

 このカメレオン、存在の透過だけじゃなくて、透明化も普通にできるじゃねぇか…!!!


 ナイフが空ぶり、存在の透過だけが能力だと思考にロックが掛かっていた。

 透明になっている間は、あっちも攻撃を仕掛けられないと、そう考えていた。そう、考え込まされていた。


 んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ…!!!

 俺の両腕から嫌な音が響き出す。ちょ、何この音。や、やめてくんない!?不安になるタイプの音なんだけど…!ミシミシ、バキボキじゃないから…!ねぇ!俺の両腕君!勘弁してよぉ!


 俺の願い虚しく、両腕は次々と人体が凡そ鳴らすべきではない音を奏でる。

 あああああああ!!!!負けたくなーい!!!


 敗北の味は苦々しいよぉ~!!!

 俺は叫び散らかす。なにもかもがおじゃんになっちまう…!未開放領域を開放しなければ、俺の幸せ計画も成功しない。


 その時―――、



「ドーン!!!!」


 誰かが現れた。

 その誰かの出現により、透明な舌はへろへろと力を無くし、俺はすぐにそこから脱出した。


 う、腕が…っ!

 腕がぷるぷるする…!


「おいおい、大丈夫カ?」


 何かを殴りつける音と共に、誰かが俺の心配をする。

 あ、ああ誰かは知らんがマジで助かったぜ。ありがとよ………ぇ?



 俺は感謝を述べる為に、その誰かがいる方へと顔を向けた。そこには……、



「た、ターミナル…?」


「ア?おれの知り合いカ?」



 βプレイが生んだ化け物…

 β時代に【終着駅】というギルドを創設した男、ターミナルと呼ばれたプレイヤーの姿があった―――。

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