記録.56『密漁!助け合い精神!』
金が欲しい。
俺は切実にそう思う。
最近、ルーキー共の財布が酷く軽い。
狩っても狩っても、金を碌に落としやしない。恐らく、迫る争いに費やされているのだろう。遺失の欠片に戦争道具、有能なプレイヤーの引き抜きに、もう一人の僕…。
奴らは今や立派な脅威と化した。
それこそ、廃人共を追い詰める可能性すらあるだろ。そうなりゃ、別にそれでもいいさ。俺は今やどちらにでもつけるスーパーデュアルプレイヤーだ。
優勢な方の味方をして、ラミミやボロと共に勝ち逃げを果たしてやる…!
その為には結局、金が要る。
ラミミもそうだが、俺たち二人は金欠だ。
ラミミはボロの世話もあり、あまりクエストに行けず、俺は今や出張に行きまくる家庭を顧みないお父さん的ポジションに付きつつあるが、それでも金が足りない。
それは、一重にボロの食費に金が掛かっているからだ。
ここ最近、急激に食欲を増したボロは数多のものを喰らい尽くす。別に何か変わっている点は無い。いつも通りの日常に、いつも通りのボロだ。ただ、その食欲を除いては、な…。
金が欲しい…。
俺は金に飢えたゾンビとなった。
そして、そんな俺にとある吉報が届く…。
〔空の人:一緒に密漁行こう!〕
俺にその誘いを断る脳は、もう残っていなかった。
これは人々の思いを乗せた一つの密漁船が織り成す、奇跡の物語…!
◇■◇
ボロを抹茶に預けた俺とラミミはプロペラが待つ浜辺へと向かった。
「本当に大丈夫なのか?その、それは…」
ラミミが俺の服の裾を摘まんでそう聞いてくる。
…多分、大丈夫じゃねぇだろ。アウトラインのマネーマネジメントだ。
だがな、手っ取り早く稼ぐっつー事に拘れば、これほど効率の良いもんは無い筈だ。まぁ、エビふりゃーやらバトルジャンキー幼女ほどの戦闘力があれば、色々と話は違ってくるんだろうがな。
おら、着くぞ…。
俺の言葉にラミミが前を向く。
浜辺をずーっと右に進んだ岩だらけの場所、そこに巨大な船が五隻停泊している。
希望と絶望渦巻く密漁船…
プレイヤー達は、それぞれの思いを背負ってその船に乗り込んでいくのだった……。
◇■◇
「あ!ダストくん、ラミミさん!」
船の近場まで行くと、見覚えのある顔が手を振って近づいてくる。
「よぉ、プロペラ」
俺は挨拶と共に手をあげる。
ラミミも俺の背中に半分身体を隠しながら、プロペラにぺこりとお辞儀をした。お、お前…強気だったあの頃はどこ行ったんだよ、本当に…。
俺やボロと過ごしてすっかり腑抜けたラミミの内弁慶には、流石に驚かされる。それにここ最近、更にそれに拍車が掛かっている様にも見える。まぁ、こいつの問題だ。どうにかすんだろ。
プロペラが岩場に躓きそうになりながらも、こちらへと到達する。
「ようこそ!密漁船へ!さぁ、時間もないし早く乗ろう。僕たちは二号船だよ」
プロペラはそう言うと、すぐに身体を翻して、案内する様にゆっくりと二号船へと歩きだした。
俺はラミミと顔を見合わせて、直ぐにプロペラの後を追う様に岩場を進んだ。船の周りにいる奴らは、揃いも揃って表情が暗い。
プロペラの後をついていく途中、とある会話が耳に飛び込んでくる…。
「…なぁ、前回幾ら稼いだ?」
「三十…五万くらいかな」
「…俺、前回アレだったからさ…収入ゼロだったんだわ…」
「あー…なんだ。今回はお前じゃないと良いな」
……アレ?
お前じゃない?
聞こえてきた不穏な会話の断片。
しかし、そんな不穏も聞こえてきた想像以上の金の額にすぐに吹き飛ばされてしまう。
密漁船にあがると、何人かのプレイヤーがこちらを吟味するような視線を向けてくる。
ああ?んだよ、てめぇら。見せモンじゃねーんだよ!散れや!
「あいつ…ダストじゃん」
「囮くらいにゃなるだろ、精々頑張れよ焼却野郎」
先輩面したプレイヤー共がそう言いながら、俺の肩を気安く叩く。
俺はそいつらの手首を一瞬で切り落として、そのまま切り落とした手を海へと投げ捨てた。
いいか?不法投棄はゴミ人間への第一歩だ。絶対に真似すんなよ、分かったか?
俺は、後ろにいるラミミに人差し指を上に立てて、そう教える。
ラミミは俺の教えを聞いて、こくりと控えめに頷いた。
「て、てめぇ!ふざけんなや!」
手首から先が無くなってしまった哀れなプレイヤー共がキャンキャン吠える。
うるせー!!!
お前らが不名誉な名前で呼ぶのが悪いんじゃ!俺は悪くねぇ!あの手首は俺のもんだ!俺のもんなんだから、どう扱ったっていいだろーが!!お前らは盗人か!?盗人なのか!?ああ!?
パワー理論で血がドパドパと流れているプレイヤー共を黙らせる。
二号船に乗船していたプレイヤー共が俺達を見て、シーンと静まり返る。
「ダストくーん、ラミミさーん」
そこに、プロペラが手を振って俺達の名を呼んだ。
ぺっ!命拾いしたな!次また不名誉な名前で呼んでみろや!今度は足首刈り取ってやるからな!!!
唾を吐いて、罵倒を浴びせた俺はラミミと共にプロペラが呼ぶ密漁船の中へと入っていくのだった。
密漁船の中に入るとプロペラから幾つかのポーションと網目の袋を渡された。
「これは?」
ラミミが俺の心の内を代弁する様にそう言った。
その疑問が来ることを分かっていたのか、プロペラはすらすらと言葉を並べた。
「支給品のポーションと、獲得した戦利品が自動で入る袋だよ。最後の清算でその袋の中身に入っている獲物の質と量でお金が支払われるからね」
なるほどな。
持ち逃げ対策も兼ねている訳だ。よく考えられているじゃねぇか。
俺は網目の袋を腰につけて、ポーションを亜空間へとしまった。アイテムを受け取った丁度その時、密漁船全体が小刻みに揺れ出した。
「出航だ。頑張ろうね」
プロペラはそう言うと、密漁船の外へと出ていった。
俺とラミミは再び顔を見合わせて、甲板へと向かった…。
◇■◇
「おろろろろろろろろ」
海へ出て暫くした頃、俺は猛烈な吐き気に襲われていた。
手すりに掴まり、吐瀉物を海へ投棄する。もう朝食べたものは殆どが海への藻屑と化し、今や黄色の胃液しか出てこない。
「大丈夫か…ルート」
幸い、船酔いに耐性があったらしいラミミが背中をゆっくり擦ってくれてはいるが、その効力も微々たるものだ。
未だに獲物は現れていない。
それだけが救いだが、俺とラミミはその獲物とやらがどんな奴なのかも分かっていない。二号船に乗っている奴らは、揃いも揃って初参加ではないようで、それぞれが武器の整備をしたり、双眼鏡で遠くを見ていたりと自由に過ごしている。
プロペラも船の最も高いところに立って、潮風を浴びている。
俺はプロペラを見上げるが、その途端すぐに吐き気を催し、再び吐いた。
そしてその時、遂に奴らが姿を現す―――!
―――ブォー!
汽笛の様な音が鳴る。
その瞬間、船を取り囲むように何かが甲板へと上がり込んでくる。
「るっ、ルート!下がって!」
ラミミが焦ったような口調で俺を船の真ん中へと引きずる。
ああ~…もうちょっと、もうちょっと待ってくれぇ…せ、世界が…世界が揺れてるんだ……。
引き摺られる俺の足を何かがガチッと挟む。
えぁ?な、何…誰だよ、俺の足掴んでんの…やめてくんない?マジで気分悪いんだって…。
「る、ルート!るーとっ!」
ラミミが何かを必死に叫んでいる。
しかし、その言葉すらも頭の中で幾度となく反響し、上手く脳裏に吸収されて行かない。寧ろ、反響して吐き気が増す一方だ。
俺は吐き気を抑えながら、自分の足を掴んでいるプレイヤーの名前を控えておこうと視線を向ける。そこには……、
「ぶくぶくぶくぶく……」
巨大なカニが、俺の足を自慢の鋏でちょん切ろうとしているところだった……。
「gじうfhgヴいfhぬいふぃ!!!!!」
吐き気も何も、全てが一気に引いていく。
カニ特有の生臭さ、光の無いビー玉の様な真っ黒な目、口から出る細かい泡…全てが背筋を凍り付かせる要素としては十分だった。
俺は血液を自分の足付近に出現させ、カニの鋏を捩じ切ってその場を離脱する。
や、やばいやばい!
ら、ラミミ!やばいって!ビビった!恐怖!足プルプル震えてる!
俺は、必死にラミミへと思ったことをぶちまける。ラミミは、混乱する俺の話を何度も頷きながら、聞いていた。
どうにか落ち着いた俺は、武器を取り出してどんどんと増えていくカニ共の殲滅を開始した。
少し遠くでラミミも巨槌を振るっている。
プロペラはどこにいるのか、と辺りを見回すと上の方から風魔法で着実にカニを倒していた。
地味に固い甲羅に掌底を喰らわせ、ひびが入った甲羅にそのままナイフを突き刺し、血液を入り込ませる。中で暴れさせれば一丁上がり。
〔Congratulations!〕
〔《ナイフⅡ》Lv.6→Lv.7〕
〔《血液操作Ⅱ》Lv.3→Lv.4〕
◀ 獲得!▶
〔魔物「カニバルクラブ」から《防衛姿勢》を獲得〕
倒したことにより、獲得したアイテムが袋へと吸い込まれていく。
スキルの削除、追加を考えていると俺の足が再び何かに掴まれた。しかし、今回はカニの鋏の様な鋭いものではなく、どこか温かみのある何かに掴まれている。
俺の足を掴んでいるそれを見ると、それは一人のプレイヤーだった。
呻き声を挙げながら、俺の足を掴み「た、助けて…」とか弱い声でそう言っている。
「ごめんな……あぁ、心が痛い…」
俺は、悲しい声色でそう言いながらそのプレイヤーの手を血液操作で捩じ切った。
それを見て、助けを求めたプレイヤーの顔が絶望の表情に切り替わる。
「な…なん、で…」
捩じ切られた手から零れ出す命の源を、そのプレイヤーは必死に抑え込もうとする。そして、血みどろのプレイヤーが俺へとそう聞いた。
ああ、そうか。こいつは、まだ懸命に生きようとしてんのか。
俺は生命の愛おしさを体感する。そして、同時に救いようがない事実をこいつに伝えなければならない。
俺はエビふりゃーほど冷徹なクソ野郎じゃあない。
せめて、スッと伝えてあげるのが華ってもんだ。
「お前、下半身キメラみたいになってんぞ」
俺の言葉に、そのプレイヤーは自分の下半身を見る。
地べたを這いずってここまで辿り着いたプレイヤーの下半身は、カニの口の中に吸い込まれており……、
「は、ははは……」
俺の目の前には、上半身がヒト、下半身がカニという哀れな混合動物が誕生していた…。
ああ、哀れなり……。
直ぐに極楽浄土へと送って進ぜよう…。
俺は血液操作で刀のような形を作り出し、キメラと化したプレイヤーの頭を足で思い切り踏みつけ、固定する。
「ああ、哀れなり…」
涙を流し、血液刀が空気を裂いて振られる。
血が飛び散り、プレイヤーの命が途絶える。俺は、空中に向かって手を振る。
きっと、霊体の君が笑ってくれるから……。
もうこの世にいない君が、笑って天国に行けるように…そう願って…。
◀ 獲得!▶
〔プレイヤー「ハッハ」から《肉体軟化》を獲得〕
ああ、君は僕に生きろっていうんだね…?
うん、分かったよ…君の意志は必ず僕が持っていく。一緒に見よう、僕らならきっと見つけられる…!
君が残した力を抱いて、俺は強く決意する。
ワンピースは、俺のものだ……ッ!!!
〔〔Skill〕の獲得上限です。〕
〔《肉体軟化》を獲得するのを諦めますか?〕
〔タップしましょう。 ◀獲得▶ ◀諦める▶〕
あ、やっぱワンピースとかいらねーわ。
俺は◀諦める▶を選択した。
君の意志、俺が確かに受け継いだ…ッ!!!(捨てました)




