記録.54『キョンシーガール』
「「なんかこわーい」」
俺と決戦兵器が同時に声を上げた。
「うるさいよぉ」
しかし、怖がる俺達を気にも掛けずにフローがそう言った。
あの子ちょっと生意気じゃなーい?可愛いからって何でも許されると思ってなーい?
「ほんとほんと~ああいう子って心の中じゃ何考えてるのか分からないのよ~」
俺達は三人でダンジョンに訪れていた。
数日前のワールドクエストは無事完遂された。その報酬なのかどうかは分からないが、ワールドクエストクリアの翌日から世界各地でダンジョンが生成されるようになったのだ。
ダンジョンは様々で戦闘系のものもあれば、ドクターが喜びそうなTipsが転がっている知識欲のダンジョンもあったりとその種類に際限は無いように見える。
そして、偶然集まった俺達三人は適当なダンジョンに潜り、好き勝手にその中を荒らしているのだ。ルーキーに取られたら溜まったもんじゃねぇからな。
しかし、このダンジョン暗いな、おい。
お前らもっと明かりしっかり灯せよ。全然先が見えないぞ。辛うじて足元が見えるくらいでどう戦えっていうんだよ。
俺の言葉に決戦兵器が必死にランプを点灯させるが、それでも辺りは全く明るくなる気配が無い。
「…ぷはぁー!!ぜはーっ……ぜはーっ……」
決戦兵器がランプをより強く発光させようと、集中する為に止めていた息を一気に吐いて、そのまま肩で息をする。
おいおい、古代兵装の〈決戦兵器〉様がこの程度でバテんなって!まだやれる!お前ならまだいける!魂燃やせよ!心を燃やせよ!もっと熱くなれよぉ!!!
「し……しね……」
決戦兵器が息絶え絶えにそう言う。
ちっ……ったくよぉ。どいつもこいつも使えねぇ奴ばっかだ。決戦兵器もフローもだーれも明かりの一つも確保できやがらねぇ。
「いや、まず何もしてないゴミちゃんが一番クズだよぉ…」
俺がぐちぐちと文句を垂れると、フローが小さな明かりを携えて言う。
…このダンジョン、どうやら真っ暗闇が前提の場所らしいな。お前らの明かりを見てると、光った先から黒い何かにじかじわと浸食されてんだよ。
最低限の明かりのみで攻略しろ、っつー意図をビンビン感じるなぁ。このダンジョンはよぉ。
あ、そういやお前ら、暗視系のスキルは試したのか?
俺がそう聞くと、フローと決戦兵器は今更かとため息を揃ってつきながら言う。
「試したよぉ。《猫の目》は効果なしぃ」
「古代兵装の暗視器も効果はない。別に持ってる《夜更かし》もダメだ」
だるっ…このダンジョンだるっ…。
…っスー…帰らね?
街帰ってなんか飯食わん?奢っちゃるよ?五百円までなら奢っちゃるからさ。
「んー…あり」
「どっちでもぉ」
うわ、出た出た。どっちでも星人。
俺は、賛同を得た事に安堵し、元々来た道へと戻っていく。
フロー、お前さぁどっちでもって一番駄目だよ。
お母さんの気持ち考えた事ある?それが一番困るんだぞ。俺はいつも何が良い!ってしっかり主張してたぞ。
「…じゃあその主張通った事あるぅ?」
…あるよ。
「何回ぃ?」
……五回くらい。
「…ふーん」
……。
空気がギスり始める。
すぐ後ろでギスギスとし始めた空気を察した決戦兵器があわあわとしながら、俺達が見える範囲ギリギリまで距離を取る。あいつ…!『俺は関係ありませ~ん』みたいな行動取りやがった…!ドクズがぁ…!
……ふぅ…!
…俺は優しい。
元々は俺が言い出した話題からこの空気にしちまったんだ。俺がこの空気を誰もが吸いたくなるような美味しいものにしてやるとするか…。
「あー…フローちゃんはたけのこの里ときのこの山…どっち好き?俺はな…」
安定性のあるこの話題なら、俺はこの女と仲良くなれるはずだ…!
なんてったって美味しい方は決まっているからな…!
やっぱ美味しいのは……
「きのこの山だよな!」
「たけのこの里ですよねぇ」
「……あ?」
「……ぇ?」
すぐ後ろで決戦兵器だけが頭を抱えた……。
これほど度し難い二択も中々無い。
◇■◇
「fじdfひdffksぽkjふえおいw!!!!!」
「黙ってくださいぃぃぃぃぃぃぃ…!」
俺は地面に転がってフローと揉み合いになった。
こ、この腐れ外道が…ッ!!てめぇはこっち側だと信じていたのに…!あいつのどこがそんなに好きなんだ!ああ!?
なんでチョコの部分にクッキーのカスがついてんだ!気持ちわりぃんだよ!全部取り除いてから出直せやゴミが!
「うるさいぃぃぃ!!!きのこは味が普通ぅ!なんか下の部分があんまし好きじゃないぃ!!!」
ごろごろごろと汚れる事を厭わずに俺達は地面を転がる。
その中で、俺は少しでも仲間を増やすべく、冷たい目でこちらを見る決戦兵器に問いかけた。
決戦兵器ぃッ!!!
てめーはどっちが好きなんだよ!!!返答によってはお前殺してやるからなぁ!!!
「そうだぁ!!殺すぞぉぉ!」
俺達の鬼気迫る迫力に決戦兵器はたたらを踏みながら、指を顎に当てる。
「えぇ…俺まずチョコ苦手だから…」
……屑が。
「…しんじゃえ…」
「り、理不尽…」
俺とフローは決戦兵器のあまりのゴミ回答に、正気を取り戻す。
帰ろうぜ…フロー。
この古代兵器マンは駄目だ。なーんも分かっちゃいねぇよ。
「うん」
俺とフローは決戦兵器を捨て置いて、すたこらと先へと進んだ。
相も変わらず一寸先は闇を現実に持ってきたかのような暗さだ。明かり持ちが居なかったらどうなっていた事か…。
俺は警戒の為に前方にナイフを振り回しながら進む。その時、
―――ぷつり
と、何かがナイフに引っかかり、そのまま切れた感覚があった。
…なんだ今のは?
俺がその情報を一旦伝えようとフローと決戦兵器を呼ぼうとした時…!
ぱかり、と俺の足元のあったはずの地面が突如消失する。
地面がなくなったことにより、俺は必然的に重力に従って落ちていく。俺はそんな中で、何かを掴もうという人間の本能が働き、直ぐ傍にあった華奢な足首を手に取る。
「ぶッ」
上から何かが地面にぶつかる音と、フローの声が聞こえた。
あ、やべ。俺が掴んでんの多分だけどフローの足じゃん…。
しかし、気付いたところでもう遅い。
俺に足首を掴まれたフローは地面に顔面を思い切りぶつけ、貞子よろしく俺と共に穴へと引きずり込まれていった。
「る、ルートー!!フロー!!!」
決戦兵器の声が聞こえる。
ごめん…決戦兵器…!家族には俺が今も戦場で勇敢に戦っている、と伝えてください…!
…俺達は暗く深い縦穴に落ちていく。
果たして、その奥には何が待ち受けるのか…!怪物か、宝か、それとも人の道を踏み外した何かか…!それは、辿り着いた者のみが知る…。
◇■◇
ぐ、うぅ……。
目覚めるとそこは真っ暗とまではいかないくらいの多少の明るさを持った空洞だった。
身体が…上手く動かねぇ…。
俺は痛む腕でポーションを取り出し、ばかすかと全身に振りかけながら、口にも含む。持っているポーションはほとんどが初級ポーションの為、すぐに回復上限も来る。
それでも、どうにか立ち上がれるくらいには回復することが出来た。
辺りを見回すとそこは洞窟というよりかは、整備された地下坑道だった。くそ…ララに無理やり働かされたのを思い出す…。
しかし、どうやらあの真っ暗闇のダンジョンとは別の場所の様で、所々に小さな光る鉱石が光源として転がっている。
辺りを見渡すと、直ぐ傍にフローが倒れているのが見えた。
おい!大丈夫か!生きてますかー!元気ですかー!
俺は亜空間からポーションを取り出して、びしゃびしゃになるまでかけ続けた。しばらくして、びしゃびしゃになったフローが目を覚ます。
「え、何冷たぁっ…」
辺りを見回して、フローは頭を抱える。
そして、うんうんと唸り始める。
「…確かぁ…誰かに足を引っ張られてぇ…」
ハッ!やばい!ここで思い出されたら俺がこいつをここまで引きずり下ろしたクズ野郎ということがバレるっ!!
俺は衝撃の事実に気付き、咄嗟に自己保身に走る…!
いやー!焦ったわー…突然土竜みてーな魔物に足を引っ張られるとはなぁ!お互い災難だったな!フローやい!
ばしばしとフローの背中を叩く。
平然を装う俺。
しかし、その心の中は汗で滝が出来る勢いだった。頼む頼む頼む…!ここでもしも見捨てられたら俺は一人で帰れる自信ねぇぞ…!
祈る俺、考え込むフロー。
時間が少しずつ過ぎていく。そして…、
「そっかぁ…運悪いねぇ…私たちぃ」
よっしゃ!こいつ、馬鹿だぜ!
俺は「ほんとほんと~」と高い声で言いながら、フローの手を取って、立ち上がらせた。
フローは全ての元凶が俺という事を知らずに、素直に俺にお礼を述べる。ククク…フローちゃぁん…もうちょっと疑いっつーもんを覚えようなぁ…!!!
俺は陰で高笑いをしながら、適当な道を指して言った…。
とりあえず、進もっか☆
人ならざる邪悪が一人……。
◇■◇
暫く薄暗い地下坑道を進み続けると、途中の脇道にこれでもかと装飾された宝箱を発見した。
「ど、どうするぅ…?」
どうするってお前……開けるしかないだろ…。
例えミミックだとしても、俺達に開けないという選択肢はない。宝箱の魔力とはそれほどまでに魅惑的で恐ろしいものだ。
俺とフローは互いに押し合いながら宝箱の傍まで近づいていく。
傍まで近づくと、宝箱の横にあった燭台の蠟燭がボッと火を灯し、宝箱の全容が露わになる。それは……
「なんか中国っぽい…」
「中華感あるぅ…」
金と赤で装飾されたその宝箱は、何と無く中国を匂わせる。
中に小籠包入ってるかもよ。開けろよ、お前。俺、中華系は炒飯と餃子と油淋鶏以外認めてないからパス。
「どういう理屈ぅ…」
そう言いながらも、フローはじりじりと中華風宝箱に近付いていく。
おおお……流石廃人。度胸がやっぱ違うな。こう、なんて言うの俺達とは一線を画してるね。俺あんな近くまで近づく勇気無いもん。このゲームに命掛けてるだけあるわー。
俺は吞気にフローがちょいちょいと宝箱に触っているのを見て、笑う。
そして、遂にフローが宝箱に手を掛けて、その蓋を思い切りバコンと開く―――!!!
………?
何も出てはこない、か…?
ワンチャンミミックの線も考えていた俺は拍子抜けといった感情を抱きながら、フローに聞く。
「おーい、大丈夫かー!生きてるかー!」
「なんとかぁ」
俺の言葉にフローが返答する。
勢いよく蓋を開けすぎて、地面へとひっくり返ったフローが思い切り反動をつけて起き上がる。
そして、とてとてと宝箱の中身を覗こうと近付いていく。
あ!待てよ!俺も見たい!!
走り寄る俺を気にも留めず、フローが宝箱の中を覗く…次の瞬間……!
「うぎゃー!!!」
宝箱の中から黒い何かが飛び出し、フローの顔面を襲う!
「ふ、フロー!!」
流石に俺も焦って、転倒したフローに近付く。
フローは顔面に張り付いたそれをどうにか引っぺがそうと必死に引っ張っている。お、お前…これって…!
俺は、フローの顔面に張り付いたそれを見て、驚愕する。
「なに!なに!なにがついてるぅ!!?」
フローはよく分からないものが顔面に引っ付いている恐怖から、半泣きになって俺に縋りつく。お、お前、これ……
「は、はやくぅ…!早く言って!とってぇ!!」
これ……お札だぞ…。
フローの顔面に張り付いたもの…。それは、難解な模様が書かれた長方形の黄色いお札だった…。
「え…?」
フローが固まる。
俺がお札に手をやり、引っ張るが取れる気配はない。
お前、これ……多分あれだぞ。決戦兵器と同じ、呪われた装備…。
俺の言葉を聞いてフローが顔面蒼白になる。
おでこ少し右側にぺたりと張られた黄色に赤い紋様が描かれたお札…。
それはフローが黄緑の髪を揺らすと、一緒にゆらゆらと揺れるのだった……。
キョンシーガール……爆誕…!謝謝!
文面上で登場したSkillについて
《猫の目》
暗視効果を得る。
動くものに敏感に反応できるようになる。
《夜更かし》
夜の間、全ての能力に+補正。
暗闇において、暗視効果が付随する。
この能力を使った次の朝、全ての能力に-補正。
※一度死ねば、デメリット効果が消える為、決戦兵器は持っています。
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