記録.51『ちなみに正解者は0です。』
「やぁ!遺失の欠片を見つけたんだって!?凄いじゃないか!」
俺達を迎え入れたぺろりんが満面の笑みで言った。
ぺろりんは山岳地帯の窪んだ場所に地形を削ってそこに拠点を作って住んでいた。
恐らく、セキュリティ面を考慮しての事だろう。
廃人共しかり、プレイヤーはゴミだ。街での殺傷行為は牢屋行きだが、敵意がその攻撃に含まれていなければ、その牢屋行きシステムを搔い潜れる。
普通のプレイヤーなら無理な話だが、廃人共の中には心を殺せる者が何人か潜んでいる。そいつらが襲ってきたら、ぺろりんとてやられてしまうだろう。
だからこそ、まず見つからない。
それを前提条件にこの場所を選んだのだろうと思う。俺だってこんな場所、案内が無かったら見つけられる自信がない。例え、人探しに特化した《捜索知覚》があったとしても、難しいだろう。
ぺろりん……よく考えているじゃねぇか。俺は嬉しいよ、ルーキーであるお前がそんな色々と考えていることが。お前を見ると恐ろしいよ、ルーキーの成長性がな…。
俺は目深に被ったフードの下で暗い笑みを浮かべる。
そんな事知らずにルーキー達は嬉しそうに手に入れたばかりの遺失の欠片、〔音鳴りの正方形〕をぺろりんへと渡した。
「……へぇ、凄く強力だ!」
ぺろりんの言葉にルーキー共はまるで自分の事かの様に胸を張る。
しかし、俺も多少自慢げにしていないと怪しまれる。少しだけ胸を張っておく。こういう小さな配慮が後々響いてくるんだ。
「ところで、そっちの方は?」
ぺろりんが俺を見て言う。
大丈夫、バレていない。
今の俺はフードを目深に被ったクールでタフなミステリアスガイだ。誰にも俺の存在は看破できないぜ…!
「トールさんです!廃人顔負けの実力者なんですよ!」
「すっごく強いんすよ!」
「ネットワークに入れてもいいですか?」
ルーキー共が嬉々として俺を紹介する。
し、しまった……流石にトールっつー名前は安直過ぎたか…?ルートを逆転させただけだし、ちょいとやばいか…?
俺はドキドキと不安な気持ちを抑えながら、ぺろりんを見る。奴は、相変わらず整った顔でこちらを覗き込む。馬鹿め…!この服はプレイヤーランキング上位報酬のカタログに載ってた装備、≪真っ暗外套≫だ…!どんなに見ようとしても見えねぇよ…!
しばらくこちらを覗き込んでいたぺろりんは、うんと頷いて言った。
「トールさん?でしたか。歓迎します!一緒に頑張りましょう!」
ぺろりんはにっこりと笑って、手を差し出した。
俺はその手を取って、強く握り返した。ふふふ、俺はルーキーだ…!ルーキーとして生きていくぜ…!もうすぐ壊れそうな廃人船なんか乗ってられるわけないだろーが…くけけ…
あ、報酬の方も弾んでくださると助かるのですが……
◇■◇
ぺろりんとのお目通しが終わって、どっかで飯でも食おうかとルーキー共が話しているのを聞いていると、一人の男がぺろりんの拠点へと入ってくる。
白い髪、ひねくれた顔、なよなよとした体、適当な装備……
なんだこいつは……どこか既視感があるような…?
俺は奴の姿に釘付けになる。
そして、その次の瞬間、衝撃の事実が告げられる…。
「あ!ダストさん、どうでした結果は?」
!?!?!?!?!?!?!?
だ、だだだっだだ、ダストさん!?
そして、既視感の正体に気付く。
これ、俺じゃん!まんま俺じゃん!!名前もルートじゃん!え?どゆこと?クローン?クローンですか?いつの間にクローン技術できてんの?え?
突然出現したドッペルゲンガーに俺は動揺を隠し切れない。
しかし、混乱する俺の脳裏に偽物の姿がより明確に投影される。
偽物は右手でOKマークを作って、歯をギラつかせながら笑った。なんて邪悪な笑みを浮かべやがる…!
「そうですか!流石ダストさんですね!」
ぺ、ぺろりん……
俺はネトラレの気分を味わう。ああ、される側っつーのはこんな気分なのか…変な扉なんて開けそうにないぜ…。
偽ルートの出現にルーキー共もこそこそと会話をする。
「ごみ溜めさんだ…」
「ルーキー狩りでしょ?なんであんな人とかかわってるんだろ」
「ほんと、やめて欲しいよな…こればっかりは」
……あ?
てめぇら、殺してやろうか。こちとら本物のごみ溜めさんだぞ。おい。お前ら一瞬で嬲り殺してやってもいいんだぞ。分かってんのか、ゴラ。
しかし、勿論そんな事を口に出してしまえば一巻の終わり。
俺は必死に耐えて、偽ルートを睨んだ。こいつ……!いつか絶対殺す…!いや、出来るなら今日殺したい…!
この世に俺は二人もいらないんだよ…ドッペルゲンガーが…!
◇■◇
「いやー!本当に今日はお疲れさま!」
アタッカーが乾杯の音頭を取り、それぞれが注文した食べ物に手を出す。
俺はこくこくとカシスオレンジを飲みながら、ドッペルゲンガーへの対処を考えた。
「へぇ……真っ黒な闇に飲み物が吸われていくんですね…」
ヒーラーのルーキーが俺の口元を凝視している。
そんな見ないでよ。恥ずかしいじゃん。そっちからだと真っ暗闇に見えるかもしれないけど、こっちから見れば、滅茶苦茶距離近い無防備系プレイヤーに見えて仕方ないんだからねっ!
俺は気恥ずかしさから、次々に酒をかっくらう。
しかし、そんな俺の気持ちなんていざ知らず、ヒーラーはぎゅうぎゅうと俺に近付いて胸を押し当てる。や、やめ、やめれ…お酒、お酒回ってるから、やめれっ…
しかし、ヒーラーもお酒が回っているのか俺の言葉そっちのけで近付いてくる。
向かい側で食べ物にがっつくタンクが見える。俺はそいつに手を伸ばして、助けを求める。タンクがこちらを向いて、俺の状況に気付く。
ああ、タス…ケテ…
俺の手がタンクへと伸びる。
タンクは俺の手を見て、こちらに手を振り返す。そうじゃ、そうじゃないんだよ…。
手元が狂ってメニューが開く。ダダダと適当なボタンが押されてしまう。
ちょ、本当に、これ以上近づかれたマジでセクシャルハラスメント行為になっちゃう……。俺の言葉に素が出始める。や、やばい……
くらくらと眩暈までしだした時、
「あ、いた」
聞き慣れた声が俺の耳朶に響く。
「どうしたのそんな格好して」
……あれ、ラミミじゃん。なんでここいんの。
「お前がヘルプコール送信したからなんかあったかと思って、来てやったんだ」
ああ、マジで?
ごめん……酔ってたから間違って押しちゃったかも……でもちょうどいいや。俺連れ帰ってくんね…?もう、上手に立てそうにないや…。
「…はぁ、しょうがない男だ」
ラミミは俺にもたれ掛かっているヒーラーをぺしっと地面へ落とし、俺の両腕を掴んで、自分の肩に乗せる。俺の頭がラミミの頭に寄っかかる。
ああー、ラミミぃ~。いいにおーい。
「っ!セクハラだぞ。迷惑かけたな。代金だ。取っておいてくれ」
ラミミは代金にしては多い額をテーブルに置いて、店を出る。
外は真っ白な景観が広がる。
しゃんしゃんしゃん……
降雪イベントも次第に終わりを迎える。このゲームは気が利かないのでクリスマスイベントも正月イベントも無かった。それに憤慨したプレイヤーがSNSで大暴れしたので、きっと次の時には何かあるだろう。
ラミミは、ふとずっと未来の事を考えている自分がいる事に驚いた。
そして、少し笑って、もう遅い歌を歌う。
「じんぐるべーる、じんぐるべーる、鈴が鳴るー」
雪の冷たさで少し酔いが覚めた俺が言う。
よく……俺が分かったなラミミ…。
ラミミに支えてもらいながら、どうにか立ち上がる。外套を脱ぎ、亜空間へと仕舞い込む。
「わかるさ」
それ以上、ラミミは何も言わなかった。
ふん……いい雰囲気じゃねぇか…。家でボロが待ってるんだろ?帰ろう…
俺がそう言う。
そして、その言葉を紡ぎ切った時に事件は起こる……!
「……え?ルート?」
目の前に現れたのは、ぺろりんのとこで遭遇した偽物の俺……!
て、てめぇ!
ドッペルゲンガー!なんなんだてめぇは!俺の真似しやがって!ああ!?宣戦布告だよな!?だよなぁ!
偽物は何も言わない。
俺はぶちぎれて、フレンドリストの何人かを呼び出す。
偽物野郎が、勝負しようや。
今から俺のフレンド共を呼んでやるよ。お互い喋らずに棒立ちして、どっちが本物か当てられるかだ。いいだろ?いいよな?ま、どうせ勝つのは俺だけどな!!!!
転移門の直ぐ傍という事もあり、直ぐに集合する面々。
集まったのは、杏、ピュヒュイ君、プロペラ、決戦兵器、おはぎの五人だった。
揃いも揃って、二人いる俺を見てギョッとしてやがるな…
そりゃそうだ。当人じゃなかったら、俺だって笑いもんにしてやったとこだ。
ちっ……
正月だからこれだけか……終着駅共はほとんどいねぇか……まぁ、いい。決戦兵器がいるだけ十分だ。
俺とドッペルゲンガーは大人しく棒立ちする。
ラミミがどっちが本物か当ててね、と説明をする。
「と言われてもなぁ……」
決戦兵器が俺の顔をべたべたと触る。
く、くぅ…ち、ちべたい…
こいつは全身が古代物質だ。それ故に、雪などの気温の変化をそのままに受け入れやがるのだ。つべたいよぉぉ。
「どっちでしょうか…?」
「わかんない…」
杏とピュヒュイ君が俺を見る。
お前らなら分かってくれるよな……!な!
職業問題を解決した恩人のルートさんだよ…!お、覚えてくれてるよね…?
不安な気持ちのまま、二人は隣の偽物を見に行ってしまった。
「おはぎさん、違い分かる?」
「すいません……分からないです……」
プロペラの自慢気な問いにおはぎが申し訳なさそうに答える。
あまりの自信ありげなその姿に俺は一縷の希望を見出す。ぷ、プロペラ…!お前分かるのか…!た、頼む…!おはぎを導いてやってくれ…!
俺は祈る。
敬虔な信徒であるおれの願いはきっと叶う。
そして、五人が本物だと思う方へと移動を始めた……。
結果は……、
………。
「泣かないで」
ラミミが優しい言葉を掛ける。
五人には正解を伝えずに帰らせた。
俺の頭をドッペルゲンガーが優しく撫でる。
う、うう、ううう……。
なぜ、人はここまで苦しまなくてはいけないのか?
我々はそれを知るべく、アマゾンの奥地へと向かった……。
アマゾンの奥地に、全ては眠っている。




