記録.3『廃人共』
Soul・Learning・Onlineには幾つも街と、村、そして王国が世界に点在する。
世界各地にはボスや遺跡、オーパーツが眠り、時にそれはプレイヤー間のバランスすらも壊しかねないほどの強さを持っていた。
しかし、β時代は結局そんな古代の遺失文明の欠片すらも見つけることは叶わなかった。それを悔しがったβプレイヤーの連中は、製品版では散策特化、《文明知覚》特化のプレイヤーへと変貌を遂げた。
その為のギルドを作り、その為に廃人のみを集め、危険な場所には多額の報酬を支払い、強者を同行させた。しかし、結局得た成果は初期の調査兵団みたいな無駄な犠牲のみ。
このゲームの死は、一定時間のステータスダウンとプレイヤー本体の経験値減少がペナルティとして与えられる。
しかし、短時間で何十回も死にまくるとプレイヤー経験値だけではなく、スキルの経験値まで下がりだし、しまいにはレベルダウンまでする。そうなりゃモチベというモチベはダダ下がり。普通なら諦めて萎え落ちするのが普通である。
しかし、奴らは違う。
廃人共は一味違う。奴らにあるのは圧倒的なまでのプレイヤーテクニックと膨大な時間だ。それ故に、下がったレベルは取り戻せる。失った経験値は集められる。
しかし俺は違う。
ガチじゃねぇ。廃人じゃねぇ。一プレイヤーだ。そこらのルーキーとほぼ一緒の筈だ。なのになんでだ。
「ダストっち~!たすけてー!」
「るーと――!ぽーしょんばかすかつかうな!」
「ダストくぅん!見て見て!」
なんでこんなゴミ共に囲まれて、俺はボスに立ち向かわなきゃならねぇ…。
◇■◇
幼女と別れた俺は、ふと自分の髪がβの時と色が違ったことに気づいた。
ベータの時は黒だったのに対し、製品版は白だ。なのにあの幼女は俺のことを一瞬見ただけで気づきやがった。
なにかおかしい。
俺の知らないところで、俺の情報が洩れている……?
ちょーっと、調べなきゃいけねぇなあ。
俺はおニューのナイフを腰の鞘にしまい、《隠密》を発動させた。
嫌な予感っていうのは中々に信用できる。
ガチャで爆死するときも決まって最初に嫌な予感がするもんだ。大体爆死しないときは無心で引いている時な訳よ。
そして、今とんでもなく嫌な予感がする。
目の前のあの連中。
屋根の上から観察する限り、あれはβ組の連中だ。右から順にゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ。ゴミしかいない。
β組は基本ゴミだ。
空飛ぶ粗大ゴミ、バトルジャンキーゴミ幼女、オーパーツ求めるゴミ連中、無駄な博識ゴミドクター、ゴミ・オブ・ザ・ゴミ。
見る限りほとんどがゴミであるが、勿論β組の中にも良心はいる。しかし、あいつらもゴミ達が起こした事件を謝りに回っている事が多い為、基本多忙だ。
そんな良心がいないからこそ、ゴミ達はより一層ゴミと化す。
とにかく早くここを離れるべきだ。
そう考えた俺は《隠密》を発動させたまま、ジャンプした。そして、その慣性を保存するべく、《疾風》を発動させようとしたその時―――!
「まってよ、ダストっちぃ~」
先程まで俺がいた場所に一人の女がいた。
その女は狐の面を頭の横につけ、黒いチャイナドレスみたいな服を着ている。スリットから白い足が見え、無性に変な気分になる。
その女の影から黒い腕が伸び、俺の足を掴んでいる。慣性の保存に失敗した俺は中空で宙ぶらりんになる。
それを面白く思ったのか、女はモーニングスターよろしく俺をぶんぶんと回し始める。しばらくすると女は飽きたのか自分の顔のすぐそばまで俺を持ってきた。
「ダストっち~」
「その名で呼ぶな、フールが」
「ひどーい。ゴミスキルばっかり使うダストっちが悪いよ~。ゴミスキル使いのゴミ野郎、でしょ?」
そう言って、妖艶な笑みを浮かべた。
狐面の女の名は『きつね』。
正直まんま過ぎてクソ寒い。結局俺はこいつをまんまで呼ぶことなんてないのでプレイヤーネームなんてあってないようなもんだ。
「これを放せ、狐面」
俺はそう言って、腰からナイフを抜き、足を掴んでいる黒い腕に突き刺した。
狐面は「きゃ」と声を上げてその腕から俺を開放する。解放された俺は空中で姿勢を整え、地面へと着地する。
そして、逃げられない事を悟った――。
「さあ、一狩り行こうぜ」
そういう廃人共の目は酷く爛々と輝いていた―――。
◇■◇
ボス戦。
『Soul・Learning・Online』は最初の幾らかのボス戦は、ゲームシステムの開放がメインの報酬となる。
一体目撃破の報酬は〔掲示板開放〕。
二体目撃破の報酬は〔フレンド機能の拡張〕。
三体目撃破の報酬は〔街にある転移門の活性化〕。
そこから先はβテストでも到達できなかった。
その先にあるのは、果たして機能開放なのか、それとも―――。
なにはともあれ、掲示板の開放は必要事項だ。
これがあるとないとでは、ゲーム性が大きく変わってくる。
その為に、ボスを狩るのは賛成だ。しかし、
「ダスト君、空がきれいだねぇ」
「るーと、おまえがしっかりするんだぞ」
「ダストっち~。飴ちゃん持ってるんでしょ?ちょうだ~い」
この自由人共を俺が一人で相手するのは絶対に間違っている。
廃人共がこれだけの量集まると、ボスは必然的に人数倍率で強化され、ただのボス戦とはいかなくなる。
それはいうなればレイドバトル。
何時間もかけてボスを倒す鬼畜の所業だ。ボスの攻撃力は防具をまとわないプレイヤーなんて揚々とオーバーキルし、防具を付けていてもほぼ全ての体力を削り取る。タフネス加減に至っては爪楊枝を如何に凶器に見立てるか勝負だ。
そして、レイドバトルとなれば数人PTを作り、それぞれが独立して動き、ボスを翻弄する。その為に、PT分けをするのも俺は承諾した。
そしてそれを決めるのはβ時代最強の廃人様だ。そりゃ文句もないさ。
だけどさ、そりゃないだろ?こいつらはないだろ。
空を夢見るよだか。
闇市の支配者、キチガイ幼女。
人の心を逆撫でする天才狐。
そこに入る俺の気持ちがわかるか?
「がんばれよ、ルート」
そう言った最強廃人を前に俺は殴り掛かりそうになった。
しかし、街での完全な敵対行為は犯罪だ。先程の狐面のように彼方から先に手を出し、こちらが傷つける分にはイーブンとされるが、いきなり殴りかかったんじゃこちらが悪い。
俺は舌打ちをしまくり、その場を諦めた。




