記録.12『誰か助けて』
人間とは人に好かれていたい生き物だ。
結局、それは自分が嫌いだと思っている奴にだってそう思われたい。嫌いだけど、好かれてはいたい。俺達人間は、酷く矛盾を孕んだ生き物だ。
「ルート、拗れた人間関係とは聞いたけど、具体的にはどんな感じなんだい?」
「えっ!!?あー、そうだな…えっとなぁ」
ラック君の純粋な疑問に、俺の心は針の筵にいるかのような気分になる。
それもこれも、全てはこの抹茶とかいうゴミのせいである。俺はラック君にバレない様に抹茶を射殺す勢いで睨み付ける。
すると、抹茶は何を思ったのかぐっと親指を立て、サムズアップ。あの女ぁ…良かれとでも思ってんのか…?だとしたらとんだ天然プラゴミじゃねぇか。
俺がラック君の疑問に答えかねていると、丁度良いところに人力タケコプターに挑戦中のプロペラ君!こりゃいいや!
こいつを拗れた人間関係の縮図として紹介すりゃ、俺の株は下がらねぇ…!寧ろ心配してラック君はずっと俺の傍にいてくれるかもしれない!!なんて幸せな日々…。それしかない。
俺はそうと決めると、ダッシュでプロペラ君に近付き、事の発端を簡略化して話す。そこは流石は我が友、プロペラ君…!すぐに理解して一芝居打ってくれるようだ。やはり持つべきものは頭の弱いフレンドである。
ラック君はプロペラを見ると、嬉しそうに会話をしだす。
「空君!久しぶりだね。元気にしてたかい?相変わらず空が好きなんだね」
プロペラのプレイヤーネームは『空の人』。
ラック君は他の連中のように「よだか」やら「飛行機」、「プロペラ」とは呼ばない。なんていい人なんだ…。
しかし、俺はその呼び方が許せない。
まるでリア友のように呼び合うその仲を、俺は引き裂いてやりたい衝動に駆られる。しかし、抑えろ…プロペラは俺の為に今から一芝居してくれるのだ…下手に機嫌を損ねる訳にはいかない。俺は唇を噛み、成り行きを見守った。
「ダスト君に何の用なの!!!この泥棒猫!!!」
―――そして、プロペラの暴走は始まった。
「え、え?」
プロペラの突然の金切り声にラック君はたじろいでしまう。俺と抹茶も手を取り合い、怖がった。何あれ…何あれ…
「またダスト君はこんなの連れてきて!!!いい加減一人に絞ってよ!!!とっかえひっかえはもう御免だよっ!!」
プロペラは顔を真っ赤にして、マシンガンの如く言葉を羅列していく。
ラック君は最初こそたじろいだものの、最初に「俺の人間関係をどうにかしたい」と言った手前、引く訳にはいかないと思ったのか、前のめりでプロペラの言葉を聞く。
「きつねさんの時も、幼女さんの時も、抹茶さんの時も、プルメルさんの時も、イカさんの時も、僕の時だって!ダスト君はいつも適当な態度をとる……!」
とってねぇよ、適当な態度。
プロペラは俺のフレンド連中に加え、最近よく話すルーキーの名前まで羅列して、その言葉に信憑性という重りを乗せていく。
そして、プロペラが話す度、抹茶が俺の傍から離れていく。
なんでだ。元はと言えばてめーが全ての元凶だろーが。てめーがラック君を呼ばなければ俺はこんなことしなくて済んだ。そうだ、てめーだ。てめーが…てめぇさえいなければ……
俺は全ての真実に気付き、抹茶を殺そうとする。
まず奴の武器であるでかい杖を奪い、それで殴殺だ。
俺は、ゆっくりと離れていく抹茶にダッシュで近付き、奴の杖を奪おうとする。しかし、奴は俺が杖を奪おうとしていることに気づいたのか、それに対抗するように杖を持つ。綱引きの始まりだ。
「もう決めてよ!!!これ以上僕を振り回さないで!僕一人を愛して!!!」
赤組、赤組、頑張ってください。
白組、白組、押されているぞ。負けるな頑張れ。
「こんな男、はやく僕の視界から消して!!いい加減うんざりなの!!」
あーっと、赤組、後ろが転倒。
白組、逆転勝利です。皆様、盛大な拍手をー。
…ラック君が真剣にプロペラの話を聞いている中、俺は抹茶の全体重が掛かった杖によって、圧死していた……。
愛の重い男の裏で、綱引きをする奴ら…
◇■◇
「………」
ラック君は黙り込んで、俺と抹茶の後ろを付いてくる。
プロペラの野郎はよくやってくれた。
俺が想定していた”こじれた関係”と比べると数倍ドロドロとしてはいるが、このくらいの方がラック君も同情してくれるはず。
弱いお頭で精一杯の演技をしてくれたプロペラにはあとで模造品タケコプターをあげよう。
そんな事を考えていると、ラック君は意を決したように俺と抹茶に言い放った…。
「えっと、その、抹茶くんも…そうなのかい…?」
そう。
ラック君は純粋だ。
しかし、純粋さは時に不純物混じりの俺達に牙を剥く。
ラック君は気にしているのだ。先程プロペラが言っていたあの言葉を…
『きつねさんの時も、幼女さんの時も、抹茶さんの時も、プルメルさんの時も、イカさんの時も、僕の時だって!ダスト君はいつも適当な態度をとる……!』
俺と抹茶の脳内で蘇るプロペラの言葉。
つまり、ラック君。俺と抹茶がデキている可能性を考えている…。
しかし、俺は何も言えなかった。
ここで否定すれば、芋づる式にこのマッチポンプがバレる可能性がある。だからこそ、拗れた人間関係の中心にいる俺は、何も言えないのだ。とするならば……
「………ッス―」
謎の呼吸法を編み出そうとしているこの女…抹茶に何とか取り繕って貰う他無い…!頼む…!
〔ルート:どうにか誤魔化せ〕
思念でメニューを開き、ぎょろぎょろと文字を打ち込み、すぐさま抹茶にメッセージを送信する。こいつは腐っても廃人の一人だ。人間関係の拗れの一つや二つ、乗り超えて来ている筈…!
俺は一縷の望みを託し、抹茶を見る。しかし、
「ア、エットー…アノー…チ、チガウヨ!」
こ、この女…!
圧倒的なまでのピノキオ…!嘘をつけないタイプか!くそっ!ここにきて奴の弱点が露呈しやがった!これじゃマジでラック君からしたら、俺とこいつが出来てるみてぇに映っちまうだろーが!!!
どうにか、どうにかしなくては……!
起死回生の一手を探す俺に、一つのメッセージが舞い落ちる。
〔エビふりゃー:任せろ〕
その一言で、俺の心は羽を得た様に軽くなった。
奴の言葉は人を安心させる何かがある。それが、廃人の頭を張る男の力だった。しかし、一体何を根拠に任せろと…?
俺はあまりの荒唐無稽な言葉に動揺する。
そして、少し遠くで一つの影を見つける…。あ、あれは…!
その影は間違いなく、狐面こと『きつね』その人だった。
しかし、おかしい。あの女…いつもと雰囲気が違う。いつもはもっと元気良くこちらを呼ぶはず…ま、まさか…!あの男…!
狐面が俺の前で立ち止まる。
もじもじと、腹の前で手を弄るこいつを前に、俺は何も出来ずにいた。
ラック君が固唾を飲んで見守る。
ごくり、と抹茶の喉の音が辺りに響いた。
「だ、ダストっち…私のこと好きって…ほんと?」
あああああああああああああ!!!!!!
俺は収拾がつかなくなってきたこの現状に、救いが欲しかった。
救ってくれると思っていた男は、デカい爆弾を背負ってきた。




