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【残念令嬢・書籍化&コミカライズ】残念の宝庫 〜残念令嬢 短編集〜  作者: 西根羽南
青井先生ハロウィンイラストに捧ぐ

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ヴァンパイア・ヘンリー ~乙女の血にお肉を添えて~

 ハロウィンに合わせて、「残念令嬢」コミカライズの青井よる先生がこのイラストをTwitterに上げてくださいました。


 挿絵(By みてみん)

 ※青井先生にイラストの使用許可はいただいています。ありがとうございます!


 ヴァンパイアなヘンリーとか、けしからんのですが!!??

 ( *´艸`)

 髪型いつもと少し違うし、視線が、手つきが、口元が、血が、色気があああああ!!

 ……ということでけしからん短編を書かなければいけない使命感に駆られました。


「本編の世界線でコスプレヴァンパイアヘンリー」「パラレルのヴァンパイアヘンリー」でアンケートを取りまして。

 1票差で勝ち残った「パラレルのヴァンパイアヘンリー」のお話です。

 深く考えてはいけません……!!


 ということで、どうぞお楽しみください。




 ************

 



「……こんばんは」

 窓から侵入したヘンリーに驚いたはずの少女は、しばしの沈黙の後にそう呟いた。


 絹のように艶やかな黒髪、陶磁器のように滑らかで白い肌、星を閉じ込めたような輝きの金の瞳。

 それらすべてが霞んでしまうほどの、整った顔立ち。

 触れたら折れてしまいそうな華奢な体つきなのに胸周りは豊かという、非の打ちどころのない美少女だ。


 何故か手には骨付き肉を持っているが、夜食だろうか。

 見るからに少食という見た目だし、小腹を満たすところだったのかもしれない。


 肉を選択した理由は謎だし少女に対して大きすぎるような気もするが、とにかくヘンリーの人生最高の大当たりと言って良い相手に、こちらも食欲が湧くというものである。



「こんばんは、お嬢さん。食事中に失礼」

「このお肉は食べるわけじゃないから、いいの。……それよりも、あなたは誰?」


 食事以外に肉を持つ理由がよくわからないが、とにかく悲鳴を上げたりしないのは好都合。

 周囲に人がいないのは確認済みとはいえ、騒がれては面倒だ。


「ヘンリーと呼んでくれ。君の名前を聞いても?」

「私はイリス。お客様なら玄関ホールはここじゃないわ」

 動揺しているのか天然なのか、イリスは部屋の扉を指差している。


「個人的にイリスに会いに来たから、ここでいいんだよ」

「でもはじめまして、よね? それよりもマントにくっついているのは何? まるでコウモリの羽みたいな飾りね」


「まあ、そんなところ。気になるなら消そうか?」

「消せるの⁉」

 ヘンリーが羽を消すと、イリスはきらきらと瞳を輝かせながらヘンリーのマントや背中に触れている。


「凄い、不思議ね。まるでおとぎ話の吸血鬼(ヴァンパイア)みたい」

「本物の吸血鬼だからね」

 さらりと真実を告げると、イリスは美しい瞳を丸くしてきょとんとこちらを見つめている。



「私の血を吸うの?」

「できればそうしたいなと思って。君みたいに綺麗な子の血は、なかなかいただく機会もないから」


 ヘンリーは努めて優しく微笑む。

 吸血鬼の能力の一環として相手を魅了することもでき、これによって吸血行動が格段に楽になるのだ。


「それじゃあ、何故血を吸うのか教えて? 蚊はメスが産卵のための栄養として血を吸うと本で読んだの。ヘンリーも産卵するの?」

「しないよ。そもそも俺は蚊じゃないし、卵生でもない」


 イリスはわくわくという言葉を体現したようなはしゃぎぶりで手持ちの肉をぶんぶん振っているが、これは魅了が効いていないのだろうか。

 あと、一体何を聞かれているのだ。


「じゃあ、子供を産むために血が必要なのね!」

「産むか! 俺は男だ!」


 感心するイリスに慌てて訂正するが、何だか話の方向がおかしい。

 一旦心を落ち着けようと、ヘンリーは咳ばらいをした。



「血を吸うのは……食事のようなものだな」

「食事。頭から丸ごとぱくりと食べちゃうの……⁉」


 衝撃と恐怖の表情で、イリスが一歩後退る。

 その表情自体はよく見るが、理由がおかしい。


「俺は純血の吸血鬼じゃないから、本当に少しの血を吸うだけ。デザートみたいなものだ」

「そうなの?」

「ああ。普段は人間として暮らしているし、実際ほぼ人間。ちょっと血を吸ったり色々できるだけ」


 何故初対面の血を吸うだけの相手にここまで説明しているのか自分でも不思議だが、怯えるイリスを慰めたいし、ヘンリーのことを知ってほしいと思ってしまう。

 ほっとした様子でため息をついたイリスは、肉を持ったまま一歩前に歩み出る。



「それならいいわ、あげる。ところでどうやって血を吸うの?」

 まさかの供血宣言に驚くが、好都合だ。

「首筋や手首に嚙みついて、血を吸う。痛みはないから、心配しなくていい」


 本来なら魅了が効いた状態でいただくので恐怖も痛みもないのだが、イリスには何故か効果が出ていないので怖がらせないように優しく説明する。

 だが、すぐにイリスの眉間には皺が寄り始めた。


「痛くないということは、麻酔効果があるの? 蚊は麻酔効果のある唾液を血液に混入させて気付かれないうちに吸血するし、その唾液のせいで痒くなるのよ。ヘンリーも噛んだら痒くなるの?」


「だから、蚊のことは忘れろ。俺は虫じゃない。……どちらかというと気持ちよくなる、かな」


 ヘンリーに血を吸われた者は、うっとりと幸せそうに微笑み、思考力が鈍る。

 聞いた話では幸福感に満ちてとても気持ちがいいらしく、おかげで血を吸われたことも忘れてしまうのだという。


 イリスに忘れられるのは少しつまらないと思うが、吸血鬼の噂を立てられたら面倒なので仕方がない。



「へえ、そうなの。じゃあ、どうぞ」


 あっさりと受け入れると、イリスは自ら髪をよけて首筋を差し出す。

 話が早いしありがたいのだが、何だか複雑な気持ちだ。


「それじゃあ、いただくよ」


 ヘンリーはイリスの肩を掴むと、その首筋に顔を埋める。

 ふわりと石鹸の香りがして、それだけで何だか心が浮き立つ。

 今日はどうも調子がおかしいなと思いながら、白い肌にできるだけそっと牙を突き立てた。


 柔らかい皮膚を貫いたと同時に、蜜のように甘くとろけるような味わいが口に広がり、思わずごくりと一気に飲み込む。

 一瞬で体中を駆け巡った温かい何かがヘンリーの心まで包み込み、感嘆の息が漏れた。


 ――めちゃくちゃ、美味しい。


 いや、美味しいとかそういう次元を超えている。

 血ではなくて蜜で体が満たされているのかという甘さ。


 これほどの極上の乙女の血に出会ったのは初めてで、思考がすべて吹き飛びそうだ。

 美味しいだけでなく気持ちいいなんて、とんでもない。



「凄い、本当に痛くない!」


 イリスの方も感激の声を上げているが、どうも方向性が異なる。

 というか、何故イリスにはことごとくヘンリーの魅了が効かないのだ。


 少し苛立ったが、白い肌に刻まれた牙の痕を見たら何だか許せてしまう。

 イリスはヘンリーのものだという証のようで誇らしく、同時に痛々しいので治してあげたいとも思う。


 本当に今夜はどうかしている。

 ヘンリーは正気を取り戻すべく、自身の頬を叩いた。



「血は美味しかった?」

「ああ。極上の乙女の血だよ」


「乙女?」

「未婚の女性ってこと」

 不思議そうに首を傾げたイリスは、すぐにうなずく。


「それなら、あと一年間は乙女ね。その間は血をあげるわ」

 何だかとんでもない申し出をされているが、それよりも気になることがある。


「一年ということは、結婚するの?」

「うん。三十歳年上の人。もうすぐ婚約するし、一年後には結婚するって」


 イリスの表情が陰り、肉を持った手が下がったところからしても、完全な政略結婚か。

 この邸の主を思い出せば、おのずとその娘と縁談の相手のことも大体把握できる。


 まだ血をいただいていない乙女のいる邸としか調べていなかったが、縁談の相手は結構な難ありの人物だ。


「今までにも数人の妻を娶っていて、それらすべてが一年以内に死亡しているな」

「どうして知っているの⁉」


 ということは、イリスもそれをわかった上で嫁ぐつもりなのか。

 ヘンリーに血をあげるというのも、どうせ死ぬという諦めの気持ちからなのかもしれない。

 それに思い至った瞬間、胸の奥がじりじりと焼け付くように熱くなった。



「……血だけ貰おうと思ったが、気が変わった。全部貰う」


「丸ごとぱくり⁉」

 イリスの肩がびくりと震える。


「まあ、それに近い。これでも色々と顔が利くから、縁談は白紙にしてやる。金銭面も心配いらない。国を買い取れるくらいの財産は持っているから。俺と結婚すればいい」

 イリスは暫く何か考えていたようだが、やがてそれを諦めたのか、首を傾げた。


「……何で?」


「極上の乙女の血を譲れない。それに俺もそういう年頃だし、ちょうどいい」

 自分でもこの理由が建前でしかないと薄々気付いているが、イリスにはこの方が理解しやすいだろう。


「でも、結婚したら乙女じゃないんでしょう?」

「その時には、丸ごといただくだけだ」

「ひっ⁉」


 肉を盾にして怯える様子からして、イリスは『丸ごと』の意味をわかっていないような気もするが……まあ、そのあたりは追々教えればいいか。



「俺じゃあ、嫌か? 肉が好きならいくらでも用意するぞ」

「お肉は好きだけれど……これを持っているとあの人が嫌がってあまり近付かないから、装備していたの」


 食事ではないと言っていたが、護身用の肉だったのか。

 もっと他にあったのではと思うが、あからさまな凶器は持てないだろうし、貴族令嬢として精一杯の抵抗だったのだろう。


「それなら、俺と一緒の時には必要ないな」

 ヘンリーはイリスの手から肉を取り上げると、テーブルの上の皿に乗せる。


「私はヘンリーの食料として嫁ぐってことよね。美味しい血で魅了できるように、頑張る。……何をすればいいのかしら。肉をやめて野菜? ヘルシー生活?」

 的外れなことを真剣に考える様が可愛らしくて、ヘンリーの口元が綻ぶ。


「もうとっくに魅了されているから、そのままでいいよ」

 ヘンリーはイリスの頭を撫でると、その腰に手を回して抱き寄せる。


「全部食べるのは後のお楽しみとして。……今夜は、これで我慢しよう」


 ヘンリーはイリスの首をぺろりと舐めて傷を治すと、そのまま引き寄せられるように紅い唇に自身のそれを重ねた。







※「残念令嬢」は書籍2巻、コミックス1巻好評発売中!



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12/30電子先行発売が決定しました!


既にAmazon先行予約が開始。

(今後ほかの電子配信サイトでも予約開始、紙書籍も発売予定)

そして1巻の紙書籍も12月に発売予定です!


美麗なカバーイラストと甘いロマンスはもちろんのこと。

2巻(2章)と言えば……そう! へなちょこの〇〇!

アニエスとクロードも可愛いし麗しくて、とてもキノコの変態には見えません。

キノコの大活躍も余すところなく挿絵にされていて、英語が読めなくても十分に楽しいです!

(そう……私も読めない)


英語版「キノコ姫」2巻電子、1巻紙書籍は12月!

是非ご予約くださいませ!

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「残念令嬢 ~悪役令嬢に転生したので、残念な方向で応戦します~」

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一迅社 西根羽南 深山キリ 青井よる

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― 新着の感想 ―
[一言] あ、ヘンリー不憫じゃなかった。良かった。 イリスは30歳年上よりかはましとか思ってそうですが。 やっぱり不憫?
[一言] 襲われるヒロインのなんと似合わないことよ
[良い点] 実にけしくりからんです [一言] イリスは魅了されたからこうなんだろうなと思ったけど、どうなんだろ?よくわかんなくなってきました
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