ヘンリエッタの打算 ヘンリエッタのシンデレラ 1
パラレルですし、性別もまちまちです。
何も考えずにご覧ください。
昔、あるところにヘンリエッタという可愛らしい女の子がおりました。
ヘンリエッタは継母と義理の姉にいじめられていましたが、無理難題をそつなくこなして普通に過ごしていました。
ある日、お城からやってきた使者は『イリス王子の結婚相手を探すため、国中の貴族の娘を招待した舞踏会を開く』と告げます。
イリス王子は黒髪に金の瞳の大層な美少年として知られていて、ヘンリエッタの義姉達も張り切って支度をはじめました。
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「ちょっと、ヘンリエッタ。私のリボンはどこ?」
「私の靴も用意して」
「ドレスの染みを抜くように言っておいたけれど、ちゃんと終わりましたか?」
金髪碧眼の三人の義姉に、ヘンリエッタはにこりと微笑んだ。
「リリアナお姉様のリボンは汚れていたので、洗いました。こちらです」
ヘンリエッタがピンク色の大きなリボンを差し出すと、リリアナはそれを無言で取り上げる。
「セシリアお姉様の靴はこちらです。小さな傷がついていたので、補修した上で磨いてあります」
差し出したオレンジ色の靴を見たセシリアは、嫌そうな顔をしながら受け取る。
「クララお姉様のドレスの染み抜きはすべて終えました。少し寂しいので、ビーズの飾りを足してあります」
クララのドレスをつまんで説明すると、その手を払いのけられた。
「……相変わらず、可愛げのない子ですね。たまにはしおらしくしたらどうなのですか」
「まあ、申し訳ありません。今後、気を付けますわ」
紫色の瞳を細めるヘンリエッタを見て、三人の義姉は揃ってため息をついた。
「ヘンリエッタに構っている暇はありません。今宵は舞踏会。イリス王子に見初めていただくために、頑張りますよ! ……ヘンリエッタ。あなたのドレスはありません。留守番です」
三人で仲良く高笑いをする義姉を見送ると、ヘンリエッタは小さく息をついた。
「……さて、どうしましょう」
国中の貴族の娘を招待するというのなら、ヘンリエッタにもその権利はある。
だが義姉の言うように、舞踏会に行けるようなドレスは持っていなかった。
「あえての地味衣装でギャップ萌えを狙ってもいいのですが、こればかりは好みの問題。そもそもその王子が本当に素敵なのかどうかもわかりませんしね」
国中の貴族の娘を招待というと太っ腹だが、それだけのことをしなければ嫁が来ないだけという可能性もある。
興味はあるが、地雷物件だとしたら会いに行くのも馬鹿らしい。
もっとも、ドレスがないので舞踏会に行くこともできないのだが。
「刺繍でもして暇をつぶしましょうか」
すると、針と糸がふわりと宙に浮いて光り始めた。
「それなりにかわいそうな雰囲気のお嬢さん。私が素敵なドレスを差し上げましょう」
いつの間にかヘンリエッタのそばに立っていた黒いローブの女性がそう言うと、ヘンリエッタの服は光に包まれ、あっという間に美しいドレスに変わった。
「あなたは? ありがたいのですが、お礼になるようなものがありません」
「通りすがりの魔女のベアトリスです。お礼はいいので、良き軟弱野郎がいたら、一報くださいね。ついでに、その靴にも魔法をかけてあげましょう」
そう言うと、亡き母の形見の靴が光に包まれ、まるで新品のように美しくなった。
おかげでヘンリエッタがつま先に施したどんぐりの刺繍は、本物のどんぐりを靴につけているかのような輝きを放っている。
「せっかくドレスを貰ったのですから、舞踏会に行ってみましょうか。噂の王子とやらも見てみたいですしね」
「軟弱野郎がいたら、一報くださいね」
魔女のベアトリスと握手を交わすと、ヘンリエッタはお城に向かった。
舞踏会の会場は、着飾った令嬢で活気に満ちていた。
何せイリス王子に見初められれば将来は安泰なので、ただの舞踏会とはわけが違うのだろう。
「イリス王子をご覧になりました? 金の瞳が美しくて、本当に夢のように素敵な方!」
「ええ、小柄で華奢なところが、まるでお人形のよう」
「さすがはカロリーナ国王の御子息。国王も凛々しくて素敵ですものね」
「それを言ったら、ダニエラ王妃の可愛らしい雰囲気も継いでいますわ。男性にしておくのがもったいないくらいです」
「全員と踊ってくださるなんて、幸せですわね」
令嬢達の話を聞く限り、イリス王子には期待が持てそうだ。
だが遅くに会場入りしたせいで、ダンスの順番が回ってくる頃には舞踏会も終わりの時刻に差し掛かっていた。
さすがに義姉達よりは先に家に戻っていないと、面倒くさいことになる。
残念ではあるがもう帰ろうかと思っていると、ヘンリエッタの前にひとりの少年が現れた……かと思ったらひざまずいた。
「……あなたが最後ですね。待たせてごめんなさい」
言動と服装からイリス王子なのだろうとすぐにわかったが、それにしても何故こんな姿勢なのだろう。
……いや、違う。
これは恭しくひざまずいているのではなくて、単純に座り込んでいるのだ。
よく見てみれば呼吸は乱れて肩が揺れているし、汗も見える。
一体何があったのか知らないが、どうやらイリス王子はお疲れらしい。
「殿下、大丈夫ですか?」
「大丈夫、です。ちょっと、踊り疲れて……体力の限界が」
そう言ってヘンリエッタを見上げたその表情に、思わず目を瞠る。
艶やかな黒髪に、輝く金の瞳はまるで星のよう。
華奢で小柄ながら、その圧倒的な美貌で存在感を放つ少年に、ヘンリエッタの胸が高鳴った。
冷やかしで見学に来たが、この王子になら見初められたい。
というか、ヘンリエッタが既に見初めた。
――嫁にいくなら、この王子一択だ。
さて、どうやって気に留めてもらおうかと考えていると、イリスが再び下を向いて動かないことに気付いた。
「殿下、どうなさいました?」
そう言えば踊り疲れたと言っていたが、見た目通りに体力がないのだろうか。
まあ、あれだけの数の令嬢と踊れば、誰でも疲れる気はするが。
「……どんぐり」
「はい?」
首を傾げるヘンリエッタの足元で、イリスが呟く。
「どんぐり、可愛い」
靴の刺繍を見て言っているのだと気付いた瞬間、ヘンリエッタの脳が高速回転を始めた。
リクエスト内容は活動報告参照。
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