ヘンリエッタの策略 ヘンリエッタのシンデレラ 2
ヘンリエッタちゃんの出番が多い気がする、今日この頃です。
「……それは、わたくしが刺繍したどんぐりですわ。殿下もどんぐりはお好きですか?」
「うん、好き!」
弾かれるように顔を上げて微笑むイリスに、周囲から悲鳴と感嘆のため息がこぼれた。
「わたくしもですわ。……殿下と同じ想いで、嬉しゅうございます」
ヘンリエッタが頬を染めると、何もわかっていないらしいイリスはにこにこと微笑んでいる。
「わたくし、どんぐりの刺繍には自信がございます」
「そうなの?」
「どんぐりの艶の表現と、殻斗の質感にはこだわりますわ」
「おお!」
イリスはヘンリエッタの差し出した手を握ると、期待に満ちた眼差しを向けてくる。
恐らく条件反射で握手したのだろうが、その手の向きをするりと変え、イリスがヘンリエッタに手を差し伸べたように見える形にした。
「わたくし、頑張りますわ。ですので、わたくしを……貰ってくださいますか?」
「うん。貰う!」
金の瞳を輝かせて即答するイリスに、周囲がざわめいた。
恐らくどんぐりの刺繍を貰うつもりなのだろうが、はたから見ればまったく状況は違う。
王子が令嬢にひざまずいて手を取り、自身を貰ってくれるかと問われてそれを笑顔で承諾する。
……もう、ちょっとした逆プロポーズである。
少なくとも周囲はそう認識したらしく、ざわめきが収まらない。
「殿下の色に染まるよう努力いたします。お気に召していただけると嬉しいのですが」
「私の色……それはいいね。とても楽しみ!」
「お好きですか?」
「うん、大好き!」
イリスの中ではヘンリエッタとのどんぐりトークを楽しんでいるのだろうが、発言すればするほど自分で外堀を埋めている。
急な展開にざわめいていた観衆が割れたと思うと、国王と王妃が姿を現した。
「イリスが令嬢に好きだと言っていると聞いたけれど……本当みたいね」
「……何だか認識の齟齬はありそうだけど」
感心する王妃に対して、国王は何やら疑いの眼差しを向けてくる。
ヘンリエッタは努めて柔らかい笑みを浮かべた。
「イリス。そんなに好きなの?」
「うん、大好き」
「その子を貰うって、本気?」
「うん、貰う」
国王は花嫁、イリスはどんぐりの刺繍の話で完全にすれ違っているのだが、この場でそれに気付いているのはヘンリエッタだけだ。
余計なことは言わずににこにこと微笑んでいると、眉を顰めていた国王が大きなため息をついた。
「……まあ、本人がそう言うなら。君、名前は?」
「ヘンリエッタと申します」
静かに礼をすると、国王夫妻は満足そうにうなずいた。
「ではヘンリエッタ。イリスをよろしく」
二人が去るのを頭を下げて見送ると、イリスは不思議そうにヘンリエッタを見ている。
「ねえ、どうかしたの?」
「国王陛下に認めていただけて、嬉しいのですわ」
「何を?」
やはりいまだにわかっていないらしいイリスを可愛いと思う反面、将来を考えヘンリエッタがしっかりしなくてはいけないなと肝に銘じる。
「わたくしが、殿下の妃になるのですわ」
「妃って、お嫁さん? ヘンリエッタと結婚するの?」
さすがにここで嘘はつけないので、笑顔でうなずく。
……さて、どうでるだろう。
そんなつもりはないと慌てるか、それとも怒るのか。
いくつもの可能性を想定して返答を用意していると、イリスは数回瞬き、そしてうなずいた。
「そっか。じゃあ、よろしくね」
屈託のない笑みに、ヘンリエッタはしばし言葉を失って固まる。
勝手に花嫁が決まったことに対して、あまりにも軽い反応だが。
これは、未だに理解していないのだろうか。
「……あの。よろしいのですか? わたくしが花嫁になっても……」
自分で仕向けたとはいえ、こうもあっさりと納得されると不安になる。
だが、イリスは不思議そうに首を傾げた。
「いいよ? ヘンリエッタのこと、好きだし」
「――は⁉ わたくしは、先ほど会ったばかりで」
あまりの言葉に、ヘンリエッタは笑みでかわすこともできずに突っ込んでしまう。
「そうだね。でも、こんなに綺麗などんぐりを作る人だもん、いい人だよ」
「刺繍の腕で伴侶を決めてよろしいのですか? 大体、いい人かどうかは、問題では……」
都合がいい言葉なのだから黙ってうなずけばいいと思うが、色々気になって口を閉ざすことができない。
「妃になると言ったのはヘンリエッタだよ? 変なこと言うなあ」
「それは殿下の方ですわ」
天然で単純で御しやすいのかと思ったが、どうもそういうくくりには収まらない。
はじめてのことに、ヘンリエッタは完全に混乱していた。
「うーん。じゃあ、わかった」
「何がですか」
名案を思い付いたとばかりに手を打ったイリスは、ヘンリエッタの手を取って唇を落とした。
「――好きだよ、ヘンリエッタ。お嫁さんになって」
「は⁉」
まっすぐに金の瞳に見つめられ、身動きが取れない。
胸が早鐘を打って苦しくなり、頬が一気に熱を持つのがわかった。
「駄目?」
首を傾げて問われ、ヘンリエッタはあっさりと陥落した。
「……よ、よろしくお願いいたします……」
「うん。よろしくね」
震えながらどうにか答えると、イリスは輝くような笑みを浮かべた。
――これはいけない。
王子を見初めて篭絡してやろうと思ったのに、落とされているのはヘンリエッタではないか。
負けないぞと思ってイリスを見るのだが、金の瞳が細められ、それだけで心臓が飛び跳ねる。
……これは、かなり手強い。
ヘンリエッタは人生で初めての苦戦の予感に、頬を染めながら拳を握りしめた。
リクエスト内容は活動報告参照。
※1日2話更新予定です!
書籍「残念令嬢」好評発売中‼
※アニメイトオンラインの在庫復活!
アニメイト特典ssは他では入手できません。
「お化け屋敷の女神編」を手に入れたい方は、店舗に問い合わせ、取り置きなどをご利用ください。
よろしければ美麗表紙と肉を、お手元に迎えてあげてくださいませ。
m(_ _)m









