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エピローグ その二

 人造魔獣との一戦から二日、俺はカルラギーク王に呼ばれていた。

 だいぶ人数の少なくなった城を歩き、顔見知りになった兵士と挨拶をしながら玉座の間に向かう。


「ロックスさん、王がお待ちです。どうぞお入りください」


「ありがとう」


 そう挨拶をして玉座の間に入る。

 広い空間の最奥に座るカルラギーク王が立ち上がる。

 この前とは違い一人だけではなく、メイドの姿をした若い女性が一人カルラギーク王の隣に立っていた。


「クォルテよく来てくれた。座れ座れ」


 玉座の間に置かれているテーブルに促され進む。

 俺が着席するとメイドは笑顔で目の前に紅茶を一杯置いた。

 慣れた姿からすると見た目よりも年を重ねているのかもしれない。


「アリカ、私にもくれるか?」


「ご自分でどうぞ」


 遅れて座ったカルラギーク王はメイドに断られ凹んでしまった。


「私が言われているのはお客様への対応ですので、父上へ奉仕する義理はありません」


 更に追い打ちをかける暴言を吐いた。


「王のご息女ですか?」


「王などいらん、シシカでよい。そうだこいつは俺の娘アリカ・ウォーカーだ」


「初めましてクォルテ・ロックス様、私がシシカ・ウォーカーの長女、アリカ・ウォーカーです」


 恭しく頭を下げているが、この子はたった今父であり王を雑に扱っている。

 普段の対応が目に見えるようだ。

 想像だと、その辺のお父さん達の様に娘に無下にされているのだろう。


「この娘をどう思う?」


 テーブルを挟み身を乗り出して俺に意見を求めてくるが、正直どうとも思わない。

 娘とはそういうものだと勝手に思ってしまっている。


「ほら、クォルテさんの表情でわかるでしょ? 父親というものは娘に塵芥以下の扱いを受けるものなのです」


「そこまでは思ってないんだけど」


「ほら見ろ、クォルテもこう言っているんだぞ。少しくらいパパに優しくしてもいいだろう」


 今さりげなくパパ呼びさせているのだろうか……、それに反発して父上って呼ばれているのか。

 しかしそう言うのを強要している辺り、あながちこの扱いで問題ないんじゃないだろうか。


「失礼ですけど、アリカさんはおいくつですか?」


「先日十七になりました」


 十七の娘にパパと呼ばせようとしているのか。


「父上が自分をパパと言っている様子を見て、クォルテさんも私に賛成みたいですよ」


「本当か!?」


「えーっと……」


 何とも返答に困る。

 正直親子喧嘩でどちらかにつきたくない。面倒になることが目に見えている。


「即答できないのは、父上の立場や、あって間もない人間に気持ちが悪いから話すなゴミムシと言えないクォルテさんの優しさです」


「よくそこまで血のつながった父親に暴言を吐けるな」


 俺はもはや感心してしまう。


「血がつながっているからです。私も他人にはもっと優しくしていますよ」


 そっちが素なのか、キレた時のミールみたいではなく、猫を被って生きているわけか。

 こういう奴がパーティに居なくてよかったと、俺は胸を撫でおろす。


「クォルテ、俺の心はズタズタだ」


 この巨漢が情けなく泣いている姿を俺は哀れに感じた。

 ルリーラ達は本当に真っ当に育っていてくれて嬉しく思う。


「それで父上、いい加減本題に入らないといけませんよ。これ以上クォルテさんの時間を浪費させるつもりですか?」


 本当に口を開けば暴言だな、毒というよりも暴言だ。


「そうだ、な……、俺如きがクォルテの貴重な時間を潰すのは良くないよな……」


 シシカの心は完全に折れていた。

 もしかすると、シシカの強すぎる力はこういった鬱憤を爆発させているからなんじゃないだろうか。


「はあ……、まずこれ、今回の賃金……」


 膨らんだ麻の袋が俺の目の前に置かれる。

 うつむいたままこんな大金を置かれると、俺が借金を取り立てに来たような気持になる。


「どうした、なぜそやつは泣いているんだ?」


「ヴォール様!?」


 今まで空席だった場所に突然水の神が座っていた。

 角の生えた姿に腕に張り付いている鱗は間違いなく水の神ヴォールだった。


「水の神、ヴォール様?」


「そうだ、我がヴォールだ。よろしくなシシカ・ウォーカー」


 シシカは握手を求められ戸惑いながらもその手を握った。


「水の神が一体何の用でしょうか?」


「いや、二日も遅れてしまったが、魔獣について聞きに来た。貴様らが無事ということならすでに終わっているのだろう?」


 そう言って、真面目な顔で水の神はシシカを見つめる。


「そこで少し調べていた。あの魔力は興味深い」


 水の神はあの魔獣が何かを知っている。

 魔力から普通の魔獣とは違う何かを見つけたのだろう。


「なるほど。そこの娘席を外してくれ、用が終われば我は帰る。それまで席を外してくれ」


 一度目には優しがあった。でも動こうとしないアリカに圧を効かせ脅す。

 隣に居ても死を覚悟する圧が、一人の女性を襲う。


「わかり、ました」


 そう言って、顔を青ざめさせながら外に出た。


「さて、後始末の話だ。クォルテはあの場所で球を使ったのだから知っているだろうが、こいつのために話をしないといけないな」


 水の神は椅子に背を預ける。

 どうやら説明は俺の説明らしい。


「ギアロで人体実験の施設を見つけました。そこの領主ハベル・クロアは非人道的な実験を繰り返し、怪物を二人作りました」


 俺の言葉に、水の神は納得し、シシカは驚いた。

 俺はそのまま続ける。


「一人はパルプ。複数の動物の力を体に宿した怪物、そしてもう一人が今回現れた魔獣」


 その言葉にシシカはテーブルを叩き怒りを顕わにする。

 顔を憤怒で赤く染め、手は怒りに震える。


「あれが、人間だったというのか?」


「我はその姿を知らないが、作ったということは一度暴走させているのだな?」


 水の神が話をすると、シシカは怒りのまま乱暴に座る。


「はい、人間ほどの大きさの精霊結晶を無理矢理体に押し込み癒着させていると言っていました」


「そのハベル・クロアは本当に人間なのか?」


 シシカの言葉に俺は頷く、あれは間違いなく人間の姿だった。


「わかった。ハベル・クロアだな、魔法の種類は知っているか?」


「風です。フィルとも面識があったので、間違いないです」


「そうか、茶会に無粋な話を持ち出して悪かったな。そいつの行方は我が探し対処しよう」


「お願いします」


 そう言い残すと水の神は一瞬で姿を消す。

 残ったのは怒りに震えるシシカと、その時のことを思い出し落ち込む俺だけだった。


「終わりましたか?」


「ああ、飲み物が冷めてしまった、新しいのを入れてくれ」


 タイミングよく入ってきたアリカにシシカはそう言った。

 雰囲気で何かを察したのか、新しく紅茶を入れ俺達の前に置く。


「気持ちを落ち着ける葉です。熱いので気をつけてください」


 俺達は紅茶に口を付ける。


「「冷たっ!」」


 俺とシシカは二人揃って叫ぶ。

 熱いと思って飲んだらも冷たく、紅茶の香りも何も感じる余裕すらなかった。


「何のつもりだ!」


「真面目な顔をしていたので、水を差したくなりまして」


 本気の怒りをぶつけるシシカに冷静にふざけました。と言ったアリカの剛胆さに俺は呆れてしまう。


「この子は大物になると思います」


「俺も我が娘ながら恐ろしいと思うぞ」


 俺の言葉にシシカもそう返した。

 怒りもどこへやらそれから少しだけ雑談をし、俺はアリカに付き添われ城を後にした。


「さっきのは俺らを落ち着けるためってことか?」


「いえいえ、真面目な人には不真面目に、不真面目な人には真面目に対応するのが信条ですので」


「厄介な心情を掲げてやがるな」


 街を少し歩き、大通りまで来るとそこでアリカが立ち止まる。


「私の家はこちらですので」


「わかった、じゃあまたな」


 俺がそう言うと一度深くお辞儀をしてアリカは去って行った。

 俺もみんなが待つ場所に向けて歩き出す。

 日も傾く街中の雑踏は、近くの国であった出来事など知る由もなくにぎやかに騒いでいた。 

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