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温泉の国 オールス

「それで、皆さんはこれからオールスに向かうんですよね」


「なんでミールが知ってるの?」


「お姉ちゃんたちを追いかけてきたからですよ。聞き込みしたら皆さん教えてくれました。勲章貰えるなんてすごいですね」


 ミールの偶に見せる情報収集能力に驚かされながらも、少しずつ日常が戻っていく感じがしている。


「となると早めの出発ですか? それとももう少し買い物をしていくのでしょうか?」


「俺達の買い物は終わってるから、ミールに欲しい物が無ければ荷造りが終わり次第出発だな」


 そう言うミールに俺は答える。

 なにせ今回は、ミールに合わせて出発が遅れたと言っても過言ではない。


「荷造りは終わりましたよ、ミールさんも手伝ってくれたおかげで荷造りも早く終わりましたし」


「アルシェ先輩の動きが早いからですよねフィル先輩」


 荷造りをしていたらしいアルシェとミールが声をかけると、ちょうど最後の荷物を積んできたフィルに話を振る。


「今ので終わったよ、後はいつでも出発できる」


「じゃあ、そろそろ出発するか」


 馬車に乗ると操舵席にはアルシェではなくミールが座った。


「ミールが操舵するのか?」


「はい、実はやったこと無くて」


 ロックスだと、基本的には使用人がやってくれるしな。できなくてもおかしくはないか。


「そっか、じゃあアルシェ見ててくれるか?」


「え? はい、大丈夫だと思います」


 昨日の暴れっぷりを見てアルシェは少しだけ動揺しているみたいだ。

 だけど、一緒に旅をするなら少しくらい打ち解けてもらいたいので俺は頼むことにした。


「じゃあ頼んだ」


 俺が後ろに乗り込み、馬車が出発すると、ルリーラが膝の上の乗ってくる。


「移動中にお尻が痛くないのは久しぶりだよ」


「じゃあ、あたしはご主人の膝借りるね」


 そう言うとフィルまで俺の膝に頭を乗せる。

 膝の上は渋滞、ルリーラがフィルの頭の場所を確保しないといけない状態だった。


「狭すぎだろ」


「いいんだよ」


 ふと視線を感じ視線の先に目を向ける。

 するとこちらが騒いでいるのを羨ましそうに眺めるアルシェがいた。


「アルシェさんもあの中に行きたいんですか?」


「えっ、あ、はいそうですね」


 こちらを見ていたアルシェにミールが声をかけた。

 少しは仲が良くなるかもしれないと、見守ることにした。


「やめた方がいいですよ兄さんはお姉ちゃんと結ばれてるしそこの間に挟まれるのは私だけですから」


 仲良くなるのは無理そうだ。

 見守ろうと決めた瞬間にミールがアルシェに喧嘩を売りだした。


「それは違いますよ、ミールさん」


「違うって何がですか? 自分が一番だとでも?」


 急に殺気立つミールにアルシェは告げる。


「違います。クォルテさんは、ルリーラちゃんも私もフィルさんもそしてミールさんも選ぶ気はないですから」


「それはどうしてですか? こんなに仲睦まじく見えますが」


「それは俺がみんなの父親役をやるって決めてるからだよ」


 二人の会話に口を挟む。

 このままだとあーだこーだといがみ合ってしまいそうだったからだ。


「兄さんがですか?」


 操舵しているミールはこちらを見ないで前だけを見ている。


「最終的にどうなるかはわからないけど、今現在はこの中の誰とも付き合うつもりはない」


「そうですか」


 そうしてミールは何も言わなくなった。

 ミールの操舵で進む馬車に揺られながら俺はまどろみに沈んでいった。


「皆さん起きてください」


 ミールの言葉で夢の中から引き上げられる馬車の外を見る。

 熱気によって蒸し暑く、草木が無くなったらしく馬車はガタガタと音を出して揺れる。

 足元は灰色の岩が成形され道として置かれている。

 遠くにそびえる山の頂上ではモクモクと煙が立っている。

 生物が生きて居れそうにない不毛の地だ。


「入ったんだな」


「はいここから温泉の国オールスです」


「凄い、煙だらけだ」


「ちょっと臭い?」


「そうだこの国の特徴はこういうところだ湯気と温泉の匂い」


 草木がない土と岩の道。

 舗装されている道は走りやすいが道が蛇行しているのが難点だ。

 蛇行している理由は舗装されていない部分にある。

 舗装されていない荒れ地には、所々に湯気と呼ばれる煙が出ている。触れたことはないが、この湯気に触れると火傷するほどに高温の可能性があるとのことだ。

 その湯気がなぜ出ているかと言うと、地下に温泉が埋まっていてその蒸気らしい。

 これほどに地下に温泉が湧いているのがこの国の特色で、他の所も湯気が出る場所もあるが、あくまで数える程度でこれほどの量はないらしい。


「この匂いってなんなの?」


「詳しくは専門外だから知らないが、温泉の匂いらしい。ちなみにこのきつい匂いは掘る前の状態が一番強いらしいから、街に行けば匂いは収まるぞ」


「よかった、いくら気持ちよくても臭すぎたらゆっくりできないもんね」


 ルリーラの質問に答えると、ミールが補足ですが。と続けた。


「この国の宿は二つに分かれています。一つは普通の宿他の国と大差ありません。そしてもう一つが温泉宿、こちらは温泉が最低一種類は設置されています」


「温泉って何種類かあるの?」


「それは効能の問題だな。怪我に効いたり病気に効いたり呪いに効いたりするらしい」


 みんなの手前言わないが、豊乳や安産なんかに効く温泉もある。

 それを言わなかったのは確実にそのどちらかになってしまうからだ。


「凄いねー、どこに泊まったらいいかわからないよ」


「どこに泊まっても変わらないぞ、泊っている宿ならいつでも入れるが、泊っていない宿のは日のあるうちだけだ。だから基本的にどこに泊まっても問題ない」


 どこに泊まっても他の宿のサービスを受けられるのは嬉しいところだ。

 結構あっちにしておけばなんてことがあったりするしな。


「ではまず街に向かいましょう。当然ですが首都なら種類も規模も大きいですよ」


「じゃあそこに向かおう」


 そう言い走り出してから結構経ったが、未だに首都にはたどり着かない。

 たどり着くどころか、湯気と臭いにみんなやられている。


「全然つかないけど」


「しかも熱い」


 首都の姿は見えているが、道が蛇行しているおかげで一向にたどり着く気配がない。

 そして湯気は暑いだけでなく、湿度も無駄に引き上げる。

 おかげで俺達全員がほぼ下着姿で過ごしている。


「クォルテーあついー」


「暑いならくっつくな」


「うー」


 荷台では周りから見えないように膜を張っているので、後ろに移動した女性陣はみんな上下に布を一枚巻いて過ごしている。

 操舵席にいる俺は上半身裸で、腰に布を巻いて操舵している。


「これってもう一直線にいけないのか?」


「いけませんよ、変に湯気の出ている場所に衝撃を与えたら温泉が噴き出てしまいます」


「だよなぁ」


 俺の馬鹿げた一言を一蹴するミール。

 その言葉はフィルの様に間が伸びている。


「よし、絶対次の町で今日は休む! じゃないと俺達が死んでしまう!」


 こういう時は本当に機械馬でよかったと思う。

 機械馬以外だと馬が先にへばってしまう。

 そして更に少し馬を走らせると町が見えてきた。


「やった町だぞ」


 みんなが大喜びして操舵席に詰め寄る。

 しっとりした汗ばんだ柔らかな肌が俺に張り付く。普段なら邪念に囚われてしまいそうな感触だが、熱でやられている脳には快楽として届かない。


「暑い離れろ後は服を着てろ」


 自分の恰好を見て急に恥ずかしくなったのか、操舵席と荷台を繋ぐ布を閉じる。

 そしてようやく最初の町についた。

 町の中は外と同じくらい湯気があるにもかかわらず外より涼しく服を着ていても問題はない。

 町の中は変わった造りで荒野の中に木製の建物がまばらに建っている。

 街に走っている川は、温泉の国にも関わらず涼しげな音をたてていた。


「とりあえずどこでもいいから宿を探そう」


 できれば疲労回復とかの効能の宿はないだろうか。

 何とか近くにあった温泉宿を探し部屋を取る。


「こちらになります」


 案内された部屋は六人用の大部屋で見たことのない木製の造りになっていた。

 長年使われてきたらしい大きなテーブル、部屋を仕切っている紙のように薄い扉、部屋の中には壁に埋め込まれ絵が描かれている扉のクローゼット。

 他の国にはめったにない装飾品の数々に俺は驚いた。


「この床って何ですか?」


 流れがあるようで、触り方次第で感触が違っていて面白く、硬いのにどこか柔らかい。


「それは乾燥した草を編んでいるんですよ」


「そうなんですか」


 草を編むのかそれを床に敷くとこんな感じなのか。

 あえて流れを揃えていない床、ここの文化は他と違っていて面白い。


「それでは当宿の説明をさせていただきます」


「俺が聞いておくから、荷物を頼む」


 四人がそれぞれ荷物の移動を開始させる中俺は店員に話を聞く。


「温泉は宿泊のお客様でしたらいつでも入浴可能です。それとは別に、お部屋にも小さいですが浴槽がついております」


「あの扉の向こうですか?」


 奥が透けている扉の向こうが浴室になっているらしい。


「さようです。お食事はこちらの部屋にお持ちいたしますので、受付にご連絡ください」


「わかりました」


「お布団の方は私共が敷きますか?」


「それはこっちでやります」


「かしこまりました。不明点がありましたらお気軽にフロントにご連絡ください」


「ありがとうございます」


 妙に恭しい態度に気分が良くなる。これもサービスの一環なのだろう。

 店員が出て行くと、説明中から気になっていたのかルリーラはすぐに浴室の扉を開く。


「凄い!」


「本当だな」


 全員が口を揃えて凄いと絶賛した。

 大部屋だからなのか大きな木製の浴槽にはお湯が溢れ続け、体を洗うスペースも広い。

 浴室は確かに六人全員が入れるほどに大きい。これで小さいとはどういうことなのかさっきの人に問いただしたい。

 そしてなにより驚きなのが浴室なのに外にあることだ。

 そして除き防止なのか目隠しの柵がある。


「これって中が見られたりしませんか?」


「それは大丈夫だろ、一番背の高いフィルの頭が辛うじて出るくらいだし柵に隙間もない」


 他の三人とは違いアルシェだけが覗きの心配をしていることに、このパーティの危機感の無さがうかがえる。


「それじゃあ、汗でべたべただからお風呂入っちゃおう」


 そう言って男らしくルリーラが脱ぎだすと、他のみんなも服を脱ぎだす。


「俺が出るまで待てないのか……」


「クォルテは一緒に入らないの?」


「俺は大浴場の方に行ってみるよ」


 視線を逸らしながら浴室から出て行った。


「はふぅー、気持ちいいー」


「本当だね、疲れが取れるよ」


「まったりするねー」


「フィルさんはいつもじゃないですか」


「そういうミールもねー」


 四人が団らんする声を聞きながら俺も風呂に行く準備をする。


「やっぱりクォルテも入ろうよー」


「そうですよ、気持ちがいいですよ」


「だから俺は大浴場に行くってば」


 透ける扉の奥では肌色の塊が動いているのが見える。

 正直あの中に入って行って自我を保てる気がしない。


「そっちも入ってみたいです」


「後で入りに行こうね」


「はいー」


 四人が完全に骨抜きにされている今のうちに俺は準備を終え大浴場に向かう。


「おおー」


 大浴場は名前の通り確かに大きい、店員の言っていた部屋の風呂が小さいと言ったのに納得する。

 木製の浴槽ではなく岩でかたどられた大きな浴槽には、数十人単位で入れるほどに大きい。

 浴槽の脇に立っている立て札に従って、体をお湯で流してから浴槽に浸かる。

 熱すぎないお湯がじんわりと体に染みわたる。


「ふぅ」


 ルリーラ達じゃないが体から力が抜ける。

 さっきのみんなの言葉がわかるほどに疲れが取れていく。

 このまま寝てしまいたい。

 目を閉じて肩まで浸かっていると脱衣所の扉が開く音がする。

 そうだった、ここは誰でも入れるんだったよな。


「ご主人いる?」


「いるぞ」


 フィルの声に返事をする。


「よかったいた」


 ちゃぷっと温泉に浸かる音まで聞こえ、ここの温泉がつながっていることを知った。

 水の揺れる音が聞こえこちらまでその振動が波紋になって伝わる。


「隣いいよね」


「いいぞ……、ん?」


 隣?

 そう思い目を開けると隣にフィルがいた。

 いつもはふわふわとした髪をを一本に纏め体にタオルを巻いて俺の隣に座っていた。


「なんでいるんだ!?」


「ここ混浴だよー」


「マジか」


 脱衣所くらいしか確認しなかったからな、てっきり男女別だと思っていた。

 振り返ると確かに俺が出てきた扉から少し離れたところに同じように扉がある。


「それでフィルだけか?」


「アルシェの方がよかった?」


「そういう意味じゃない」


 アルシェは規格外だがフィルも十分に魅力的な肉体をしている。

 出る所はしっかりと出ているし凹むところはしっかりと凹んでいる。

 気を使ってくれているのかタオルで体を隠してはいるが、

 湿ったタオルは大人っぽいフィルの体を隠しきれずにより誇張している。


「うるさかったからね、主にルリーラとミールがね」


「大体想像つくよ」


 二人のじゃれている様子を想像するだけで苦笑いしか出てこない。

 ついこの前殺し合いしてたはずなのにな。


「あたし、この時間が好きなんだー」


 大きく伸びをし体をこちらに預けてくる。

 温泉の効能なのか上気している肌が熱っぽく色っぽい。

 ルリーラ達にはない大人っぽさにフィルだとわかっていても緊張してしまう。


「何がだ?」


 緊張は隠せただろうか。

 わざとらしくいつも通りに言葉を返す。


「ご主人はあんまり騒がしくないし」


 フィルの緑のような爽やかな匂いが鼻を触る。


「まあ、もと研究者だからな」


「だから落ち着く」


「そりゃあ、よかったな」


 いつもルリーラやアルシェがやっている行動よりも控えめで肌も腕同士しか触れていない。

 それなのにいつもよりも心臓が高鳴る。

 温泉のせいかお互いの熱が溶け合っているような錯覚すら感じてしまう。


「ルリーラ達といるのは嫌か?」


「嫌じゃない、疲れるけど嫌いじゃないよ」


 はっきりと断言する。


「特に、みんなでご主人誘惑するのは好きだよ」


 そう言って更に体の密着するのを高めこちらを見つめる。

 垂れた目は見つめていると飲み込まれそうになり視線を反らす、

 反らした先の薄褐色の肌、首筋か汗が流れ鎖骨をなぞるように進み、程よく膨らんだ胸の谷間に飲み込まれる。


「ご主人なら見てもいいよ」


「なっ」


 流石に俺が見ているのに気が付いており、フィルがタオルに手をかける。

 解けないタオルからは、柔らかく熟れた果実が締め付けていたタオルか逃れようと動く。

 見えそうで見えない限界を知っている様なフィルの動きに、目線が離せなくなる。


「どうする?」


 ルリーラとアルシェのように、直接的に欲求に訴えかけられているわけでもない。

 寧ろいつもより露出は少ないのにいつもよりも蠱惑的に見えてしまう。

 その蠱惑的な魅力から視線を反らしても煽情的に見つめる二つの眼。


「やっぱり面白いね」


 そう言って目を閉じて俺の肩に頭を置く。

 しっとりと湿った髪が俺の肩に掛かる。


「わざとか」


「見てもいいっていうのは本当だよ」


「ああ、そうかよ」


 からかわれたことに気が付き少し不機嫌な対応をしてみせる。


「本当だよ、望むならご主人の好きにしていいし、してほしい」


 今度は顔が見えないように頭の位置を調整した。


「それはルリーラもアルシェも一緒。選ばれたいんだよご主人に、だからあたしもたまに誘惑してるの」


「こっちの気も知らないでお前らは」


「お互い様だよ、だから交わらなくてもいいから、少しだけでも誘惑されてあげてね」


 奴隷達の年長者としての言葉、自分に魅力があることを伝えてあげて欲しいという俺への叱責。

 確かに自分に自信を持つということは大事だよな。


「そうだな、そうしようかな」


「後は、あたしには甘えてもいいんだよ」


「疲れたらな」


「膝枕してあげるよー」


「溺れろと?」


「じゃあ、膝枕のために先に部屋に戻ってるよ」


「一緒に戻るぞ」


 微笑みを残して立ち上がるフィルの後について行こうとしたが、すぐに制止されてしまう。


「一緒に戻ったらルリーラ達とまた温泉に連れていかれるよ」


「それもそうか」


「だから少し経ってから来てねー」


「わかった。ありがとうな」


「どういたしまして―」


 ひらひらと手を振りながらフィルは脱衣所に入っていった。


「さてもう少しゆっくりしていくか」


 俺は十分に温泉を堪能した。

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