暴走した理由
「噛まれちゃったね」
「嘘……」
「動かない方がいいよ、まだ魔法は発動してるし」
動こうとした瞬間毒の蛇達が俺達を囲み、ミールはゆっくりとルリーラの元に近づく。
「ごめんなさい兄さん、モルモット殺しちゃった。でもいいよねまだ二匹いるんだし足りなくなったらまた買えばいいよ」
ルリーラを殺しておいてのこの言いぐさに沸々と怒りが込み上げてきた。
「水よ、龍よ、――」
「クォルテさん?」
「――水の化身よ、わが敵を喰らい貪れ、――」
「ご主人?」
「その魂を地の底に送れ、災厄の名を背負いし者よ、――」
「兄さん、どうしたの? 怖い顔してるわよ、そうよね実験を台無しにしてしまったものね」
「――我の命に従い顕現せよ、水の龍アクアドラゴン」
怒りの感情が魔力に変わる。
魔力は周りを震わせるように肥大化し水の龍に姿を変えていく。
「今までで一番大きな龍です……」
水の龍は怒りに顔を歪め巨大化していく、魔力でできた蜂や蛇さえも飲み込み更に巨大化をしていく。
「ちょっと待った!」
怒りが俺を飲み込みかけた瞬間にかけられた声に反応してしまう。
「その変態の相手は私だから」
毒に侵されたルリーラが立ち上がる。
「ルリーラ!」
「えっ、どうしたの?」
すぐに駆け寄りルリーラを抱きしめる。
温かくてミルクのような甘い匂い、闇色の艶のある髪。
ここにいる存在がルリーラである確かな証拠、ルリーラが生きている証拠。
「モルモット、何をされているの? なんであんたごときが抱きしめられているの?」
「クォルテは変態は嫌いみたいだよ」
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない――」
「許さないのはこっちだ、ミール」
怒りに染まる水の龍はまだ宙に漂っている。
それを放てばミールくらいなら一発で仕留められる。
「いいよ、クォルテこいつは私が決着をつけるから」
ルリーラは再び大剣を手に持つ。
それを見て俺は龍を水に戻す。
「どうして兄さんはあんたばっかりーー!!」
怒りに染まる水の魔法は何の形も取らず無数の水の弾になる。
水の弾は全てルリーラに向かって放たれる。
そんな攻撃を全弾撃ち落とす。
「兄さんは、私だけのものだ他の女は近づくな!!」
ミールは再び手斧を持ちルリーラに襲い掛かる。
ただただ怒りに身を任せる原始的な方法で殺意を持って手斧を振り下ろす。
そんな攻撃とも呼べない癇癪はルリーラには効かない。
あっさりと大剣の柄で手斧を弾きそのままミールに刀身を押し当てる。
「うぐっ……!」
刀身が深く体に食い込み生垣を突き破る。
「なんで……、あんたなのよ……」
「それはわからないけど、私はあんたみたいに求めるだけじゃないから」
動かなくなったミールを見下ろしこちらに戻ってくる。
「ルリーラ、大丈夫か!? 毒は? 噛まれたところは?」
「ルリーラちゃん心配したんだよ! 治癒しようか?」
「なんで平気なのー?」
「何なのさーー!!」
俺達がもみくちゃにしたせいでルリーラに怒鳴られたため一度落ち着いてコテージに入ることにした。
「それでなんで無事だったんだ?」
「これだよこれ」
そう言って見せたのは神器の指輪。
「やっぱりこれは防御用の神器か」
「知ってて渡したんじゃないの?」
「そうかもしれないと思って渡したんだよ。神は結局何も言わなかったし」
結局何も言わないで、役に立つからとしか言わなかったしな。
「でもなんですぐに起き上がらなかったの?」
「疲れてたからちょっと休もうと思って」
「ルリーラちゃん?」
アルシェが鋭く睨む。
「ごめん、でも毒のせいで体がって思ったんだよ」
「無事だったからいいけどね」
「それはいいとして、この子はどうするの、ご主人」
外に置いておくわけにもいかず魔法と縄で身動きができないようにしたミール。
「一応従妹だから拾ってきたけど」
「衛兵に突き出す? それとも神様に突き出す?」
「うーん」
衛兵に出してもしょうがないんだよな、神に差し出したら俺達に会わないように計らってくれはするだろうけど。
「とりあえず今晩は置いておく。見張りは俺がやるからみんなは寝てくれ」
「私がやるよ?」
「私もできます」
「私は寝たーい」
「フィル以外はありがとう、だけど寝てくれていいぞ。こいつが起きたら話もあるしな」
ロックスの現在についても知りたいし。
「それに毒ももうないし問題ないから気にするな」
ミールを縛る時に仕込んでいた毒は全て回収した。
これで何もできない。
「わかった」
三人が部屋に戻るのを見送ってから捕らえたミールの前に座る。
「起きてるんだろ」
「バレてたんだ」
「それで、なんでこんなことしたんだ?」
「なんでだろう。暴走してたって言ったら兄さんは信じてくれる?」
俺の見たことのないミールがそこにいた、憑き物が落ちたような澄んだ顔年相応の顔を俺に見せる。
「暴走の理由によるな」
「私兄さんの事好きなの」
「知ってる」
さっきさんざん言われたしな。
「なのに兄さんはあのモルモットばっか相手してた」
「そうだな」
いつか連れ出そうと躍起になってた。
その結果が今だからそれに関して反省も後悔もない。
「だから嫉妬してた。あいつばっかり兄さんに構ってもらえて、挙句兄さんはあいつだけを連れて国を出て行った。それが許せなかったの」
話しながらもミールは涙を流した。
「なんで、私は置いていかれたの……、なんであいつだったの……」
涙は止まらず床に染みを作る。
「でもね」
そう言ってこちらを向く。
「わかった気がした。あの子は可愛くて強い、それにカッコいい」
「だろ?」
「それに比べて、私はまだ子供だった。年は私の方が上なのに子供だったんだよ」
「それがわかってるならいいよ」
「私ルリーラお姉ちゃんが好きになった」
ん?
「もちろん兄さんも好きだけどお姉ちゃんも凄い好きになった」
今流れが大きく変わったぞ? 舵の切り替えが凄すぎるぞ。
「だから兄さんとお姉ちゃんと一緒に旅に行きたいんだけど付いて行っていいかな?」
「すまん、ちょっと待ってくれ」
「他の二人にも許可が必要なの? それなら私媚びを売ればいいんだよね、あの二人は好きじゃないけど好きになるよ、だって兄さんとお姉ちゃんと一緒に旅するためだもんなんでもできるよ」
「いや、だからその待ってくれ」
「お姉ちゃんに言われて気が付いたの欲してるだけじゃ駄目だよね気に入ってもらえるようにこっちも精一杯求めてもらえるようにならないとだからあの二人にも媚びを売るよ私はいい子だってあの二人に認めて貰えれば一緒に付いて行ってもいいよね? 兄さんとお姉ちゃんが私を置いていくわけないもんね大丈夫もう暴走して殺したりしない。あの二人も仲間なんでしょ?」
「その話は明日にしよう。みんな寝てるし、さっきの戦いの後だとやっぱり印象はよくないからな」
こいつ暴走でこうなったんじゃないのか……、もともとこういう奴か……。
「そうだよねさっきはあんなに酷いことしたんだからまず謝らないとね眠っているところを起こして謝っても受け入れてくれるはずないもんね流石兄さんそう言ってくれるってことは兄さんは一緒に旅に出ることに賛成なんだよねあはっ嬉しいなお姉ちゃんも賛成だよねさっき私にアドバイスくれたんだからお姉ちゃんも好きなんだよね両思いだね残念ながら女の子同士だからお付き合いはできないけど兄さんと三人で仲良く暮らしたいな」
「よし、じゃあ全部明日だなお休み」
一息で言い切った所申し訳ないが、全てを聞く前におかしくなってしまった従妹を置いて、俺は自分の部屋に戻り眠ることにした。
翌朝一番に目を覚ました俺はルリーラ達を起こしに行った。
「ええっと、大変申し訳ないんだが」
寝起きの悪いルリーラとフィルは寝ぼけ眼で、寝起きのいいアルシェは膝を折って改まった俺の前に座る。
「ミールが俺達と旅をしたいと言ってきている」
「「「えっ?」」」
流石にそんな話が出てくるとは思っていなかったのか、三人が一斉に反応する。
「それ本気なの?」
「どうしてそんなことになったんですか?」
「超展開」
「気持ちはわかるが、とりあえず一緒に下りてきてくれるか?」
三人とともに下りていくとなぜかミールは拘束から抜け出して朝食の準備をしていた。
「おはようございます兄さんとお姉ちゃん、その他二名」
昨日とまるで違うにこやかな表情に流石に三人共固まってしまう。
「クォルテ、怖いよ凄い怖い」
「クォルテさん、これどうなってるんですか?」
「あたし今日死ぬの?」
震えたまま俺の後ろに三人がいっせいに隠れる。
「気持ちはわかるが落ち着いてくれ」
「兄さんとお姉ちゃんは相変わらず仲いいですね、そっちのだ、おっぱいの大きい方とそっちのの……んびりした方はちょっとお手伝いいただけますか?」
「クォルテさん、今あの子駄肉って言いかけましたよ!」
「ご主人、今鈍間って言おうとしてたよ」
「お二人のお名前をまだお聞きしてませんでしたので、お気に触りましたか?」
「クォルテさん、本当に怖いです助けてください」
「あたしも今死んじゃいそうなほどに怖い」
「クォルテもしかしてお姉ちゃんって私の事なの?」
混乱が混乱を呼ぶ大惨事がそれからしばらく続いた。
「まず昨日は申し訳ありませんでした」
ミールは深く頭を下げる。
「昨日お姉ちゃんに勝負を挑んで気づかされました。愛とは求めるだけではなくて与えなければいけないとなので兄さんとお姉ちゃんから愛してもらうためには私からも歩み寄って愛を与え続けなければいけないんですよね」
「私そんなこと言った?」
「はい、短い言葉でしたがお姉ちゃんが兄さんを愛して兄さんもお姉ちゃんを愛しているそれはとても理想的なことだと思います。なのでその愛の輪に私も入っていけるように努力しようと思いますのでぜひご一緒に旅をさせていただければと思います」
「ということらしいんだがどうする?」
俺ではこの勢いに負けて頷いてしまいそうになるため、みんなが起きているこのタイミングにした。
「立場的には一番下で問題ありませんよ。奴隷ではないから奴隷の上だなどとそんな小さいことを言う気はございません」
「そこは気にしてないので大丈夫ですよ」
「あたしも気にしてないよ」
「よかったですお二人よりも下の立場になるのでぜひ色々なことを教えてください。おっぱいさん、失礼アルシェさんと、年増、失礼フィルさんあなた達二人から奉仕の心を学んで兄さんとお姉ちゃんに尽くしていきたいと思います」
「この子喧嘩売ってます。私の事はっきりおっぱいさんって言いました」
「年増になったよ。あたし、今鈍間から年増になった」
「ミール頼むからちゃんと全員名前で頼む」
「そうですね。では皆さん席についてください、今日の朝食は私が準備いたしましたので今お持ちしますね」
そう言ってキッチンに入っていった。
「何も変わってないよあの子」
「そうは言っても変に刺激してまた殺しに来られるのも困るだろ?」
四人で話をしていると食事が次々と運ばれてきた。
アルシェのように豪華だったり立派だったりするわけではなく、家庭の食卓といった料理が並ぶ。
見た目は美味しそうだきっと味も美味しいのだと思うだが、昨日の毒を使った魔法を見た後ではすぐに頂きますとはならない。
「味は問題ありませんよこう見えて家事全般得意ですからちゃんと味見もしましたしそれとも何か嫌いな物が入っていたりしましたか? それは盲点でした皆さんと仲良くなろうと先走り過ぎてしまいましたこういうところが暴走してるって言われるんですよね。新しく作り直しますので嫌いな物を教えていただけますか?」
俺達の心の声は重なったと思う。
そうじゃない!
「ミール、お前は昨日毒の魔法を使っただろ? それでみんな緊張しているんだ」
どう出るかわからないがみんなの不満をみんなの主として口にする。
「そう言うことですか、お姉ちゃんお箸借りますね」
そう言うと全員分の食事を一口ずつ口に含む。
「もうそんなことはしませんよ、何度もお伝えしていますが皆さんと一緒に行くのに毒なんて入れるわけないじゃないですか」
ミールは笑うが俺達は笑えない。
ここまでおかしくなっている従妹を見てどう対応していいかわからない。
「朝は頂きますがお昼からは私が作りますね」
「給仕くらいなら一番下の私がやりますのでアルシェさんはくつろいでいてください」
「家事は私の分野なので、やっていないと落ち着かないので私がやります」
「そうなんだ、アルシェには家事全般をやってもらっているから仕事を取らないでやってくれ」
「わかりました、それならしょうがないですね」
みんなはどこが地雷かわからないせいで、緊張感を持ったまま今朝を終えた。
「それではミールを連れて行ってもいいかの採決を取りたい」
「皆さん一生懸命頑張りますので宜しくお願い致します」
俺の音頭とミールのお辞儀で始まった会。
「連れて行ってもいいなと思う人」
どうなることかと思ったが四人全員が手を上げた。
「じゃあ、決定」
「ありがとうございます」
この採決の理由を後でこっそり聞いてみたらみんなが口を揃えてこう言った。
「拒否しても絶対後ろからついてくる。それなら最初から一緒の方がいい」




