三度目の襲撃は決闘!
「というわけで襲撃者は俺の従妹のミール、それで今日の夜に決闘するらしいです」
アルシェとフィルは素直に聞いていたが、二人の顔には意味がわからないと書いてある。
その気持ちは痛いほどにわかる、なにせその場にいた俺も理解が追いつかない。
「えっと、そのミールさんってどんな人なんですか?」
「俺としては勉強熱心な真面目な娘って思ってたんだけど」
「あいつは変態、まごうこと無き変態なの」
「そうだったらしい」
昨日の動きを見るとルリーラが正しいみたいだ。
俺は男なのに貞操の危機を感じた、変質者に狙われる女性の気持ちを初めて理解した。
「つまり猫を被っていて昔からクォルテさんを狙っていたと」
「そうらしいな」
俺は本当に知らなかった。
年も五歳離れているから一緒に風呂とかも入っていたし。
いつからそう思われていたかわからないけど……。
「ご主人モテモテだねー」
他人事だからと気楽に告げるフィルに少し腹が立ったが、
フィルはこういう話し方だったと思い出す。
「それで、ルリーラはいつそのミールって子と知り合ったの?」
そう言われれば、貞操の心配ばかりでその辺りの確認を忘れていた。
「クォルテに助けてやる。って言われてから少し経ってからかな」
だとすると三年くらい前か。
「突然あいつが来たんだよ、モルモットのくせにお兄ちゃんに目をかけられてズルい、モルモットのくせに私より会っているのがズルい、家族でもないモルモットなのにお兄ちゃんと話すなんてありえない、あなたの実験に参加していじめる、お兄ちゃんは私のもの、ってひたすら言いに来てたよ」
その言葉の羅列に恐怖を感じた、というよりあんな可愛かったミールがそんなことになっていたことにも恐怖を感じた。
もう貞操どころか生命の危機を感じる。
アルシェとフィルまで恐怖のあまりに身を寄せ合っている。
「ルリーラちゃんよく耐えれたね」
「監禁されてたのもあるよ、その時は心が死んでたからね」
その言葉にアルシェとフィルの表情が更に固まる。
二人は戦闘用の奴隷だったから、実験用に買われていた奴隷の状況はわからないだろう、過去の話とかしたことないしな。
「二人ともそう固まらなくていいぞ、今のルリーラはこうやって笑って言えるくらいになったんだし」
過去のことはなくならないけど、過去と今を分けて考えられるくらいにはルリーラも落ち着いた。
「でも大丈夫なの、トラウマとかになって戦えないってことがあるんじゃない?」
「ないよ、あの変態だったら怖くない」
たぶんルリーラが恐怖を感じるのは、俺の両親とか実験に直接かかわった人間だけだろう。
それ以外の人間には恐怖も怒りも感じていなかったんだろう。
「決闘が今夜みたいだけど、勝ち目はあるの?」
「それは間違いなくルリーラの勝ちだ」
あっちは結局研究者の血筋で、ルリーラは盗賊やら魔獣やらと対決しているんだしどうやってもミールに勝ち目はない。
「何か秘策があるとか?」
「それはないと思うぞ」
ロックス家は水魔法の権威だ、だからこそ一族は水魔法しか使えないし本家の俺が使えない魔法を分家が使える可能性は限りなく低い。
「ならなんでそんな無謀なことをしてるんでしょうか?」
「あの変態の事だからクォルテは自分を勝たせてくれるって思ってるんじゃない」
「その可能性はありそうだ」
俺はロックスの人間と関わる気はさらさらないし応援するならルリーラだ。
「じゃあ対策はいらないってこと?」
「一応これつけとけ」
そう言って指輪を渡す。
「これって神様がくれた奴じゃない?」
「そうだよ、水の神ヴォールの神器水の魔法使い対策には完璧なはずだぞ」
なんの効果かは判明してないが、全員にくれる予定だったなら防御系の神器のはずだ。
「後はルリーラの大剣にも魔法を付与するするから持ってこい」
「ありがとう」
ドタバタと大剣を取りに二階に駆け上がる。
「対策しないって言ってたのにね」
にやにやとこちらを見るフィルの額に小さく手刀を入れる。
「決闘なんだから手位貸すさ、それにここまでしたらあいつも諦めてくれるだろう」
魔法の付与に神器の貸し出し、ただのモルモットとしてルリーラを連れているわけじゃないってことが伝わるはずだ。
「私も付与したほうがいいんでしょうか?」
「アルシェはやめておいた方がいいな」
「なんでですか?」
「魔力量が大きすぎる」
「そうですか」
魔力が大きすぎて大剣が壊れかねない。それに付与する力を抑えれば水の魔法に太刀打ちできない。
「持ってきたよ」
ドンと床に大剣が置かれるが、改めて見ると中々にデカい。
備え付けのテーブルからはみ出している。俺なら体が持って行かれるほどの大きさだ。
「じゃあ、まず切れないようにするのと重さの調整、折れなくする後は簡単な防御でいいか?」
「うん、重さはもうちょっと重い方がいいな、そんなに動いて攻撃しないし」
魔力を込める、刃を水の魔法で覆い重さを増すのに合わせて刀身の内部に魔力を巡らせ折れないようにする。
「完成だけど重さはこれでいいか」
ルリーラは持ち上げて少し振ってみると満足気に頷いた。
「じゃあ後は今夜を待つだけだな」
「うん」
そして翌日の夜をむかえ全員でミールが来るのを待つ。
「よく逃げなかったねモルモット」
「あんたこそね、変態」
「兄さんもお久しぶりです、昨日はお恥ずかしい姿を見せてしまい申し訳ありません」
俺が知っているミールの笑顔だが、昨日の姿を見た後だと恐怖しか感じない。
「そちらの駄肉と鈍間も兄さんを穢す輩ね」
笑顔から一転きつい目元を更にきつくしアルシェとフィルを睨む。
「安心してくださいね、すぐにそんなごく潰し達から解放してあげますから」
精神の不安定ぶりがやばい。
笑顔と憤怒の表情がコロコロと入れ替わりまるで人格が二つあるんじゃないかと錯覚してしまう。
「悪いな、俺は好きでこいつ等といるんだ。だから――」
「兄さまから離れろーーーーー!!」
俺がルリーラの頭に手を上げた瞬間ミールは手斧を取り出しルリーラに飛びかかる。
俺やアルシェなら間違いなく一撃貰っていたが、ルリーラはそんなことはなく、俺を突き飛ばしながら簡単に避けミールの腹部に一撃入れる。
「ぐぼっ!」
口から血を吐きながら生垣に飛び込む。
「クォルテに当たったらどうするつもりだ」
「当てないわよ、あんたの頭刈り取るつもりだったしね」
口の周りについた血を拭いながら立ち上がる。
「兄さんの手の感触をモルモット風情が享受していいものじゃないのよ。私だけがそれを感じていいの」
側にいたアルシェとフィルがあまりの強烈さに泣きそうになっている。
「残念だけど、あんたはクォルテに選ばれなかったんだ」
準備していた大剣を取り出し構える。
水の魔法が付与された大剣は青く光る。
「それって付与されたものよね、青いけどそれって誰がやったの? 兄さんじゃないよね? 兄さんがそのモルモットに力を貸すわけないもんね」
「それは俺が付与したんだよ。ルリーラに勝ってほしくてな」
「いいのよ兄さん、そんな嘘を吐かなくてもわかってる今実験中なんでしょ? このモルモットに魔法を付与した武器を渡してどうなるかどう数値に影響するか」
「あんた本当に気持ち悪い。クォルテは私達のクォルテなのあんたみたいな変態のものじゃない」
「さっきからさ、クォルテクォルテって兄さんの名前呼ばないでくれる!」
そう言って魔力を集めるためか生垣の影に隠れる。
「水よ、蜂よ、毒持つ水よ、我に従い敵を刺せ、ポイズンビー」
「毒魔法!? 触れるな剣で叩き落せ!」
ルリーラは言われた通り蜂に触れることなく剣で蜂の群れを潰していく。
「毒魔法って何ですか?」
「水魔法が他の魔法と違うのは異物と混ざることだ、おそらくあいつは毒の何かを持っている」
「私が行こうか?」
「駄目だ動くな、狙いがこっちに来る可能性がある」
「流石兄さん、私の事よくわかってるのね」
生垣に隠れたミールの姿は見えなくなっている。
蜂を倒すことに精一杯のルリーラもミールを探すことが出来なくなっている。
「気をつけてね、刺されると溶けちゃうから。あははは」
暗闇から笑うミールは余裕を持ち始めている。
「いずれ毒の元が無くなるそれまで耐えてくれ」
「わかった」
数えることすら嫌になる数の蜂を大剣だけで倒していく。
「これで終わりね」
「ルリーラ上だ!」
声をかけたのがいけなかったのか一瞬上を気にしたルリーラに隠れていた蜂が一斉に襲い掛かる。
それをかろうじて防いだのは大剣に付与した防御魔法。
「そう、この程度じゃ駄目なのね」
「水よ、蛇よ、無数の蛇よ、毒の水よ、我に従い敵を喰らえ、ポイズンパーティー」
毒を持った無数の蛇が地を這いながらルリーラに近づく。
空飛ぶ毒蜂と地を這う毒蛇。
対処しきれない量に囲まれルリーラは逃げ出す。
「私を直接討つつもりなの? 見つけられるまで持つかしら」
不敵に言い放つミールを探すためルリーラは動き始める。
近づく蜂と蛇を蹴散らしながらのため動きが遅い。
そのせいでミールとの追いかけっこは不利なまま時間だけが過ぎていく。
「くっ……」
流石のルリーラも長時間神経を使う小さな虫退治に体力がどんどんと減らされていく。
「息が上がってるよ、モルモットなんだから一生懸命動きなさいよ」
自分の勝ちを疑わないミールは上機嫌に語り続ける。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へー。あはははは」
喜びながら段々と隠れることはせず堂々と生垣の周りを走り回る。
「そこだ!」
痺れを切らしたルリーラが生垣を飛び越えると生垣から一匹の毒蛇が待ち構えていた。
「ルリーラ!」
蛇が一匹噛みつきそれに次いで蛇と蜂の大群がルリーラを地面に落とす。
ルリーラを攻撃し襲い役目を終えたものからただの水に変わっていく。




