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泉の国での対決 その一

「それで、どう対決するつもりだ?」


「それは……」


 渋々対決を受け入れ聞いてみたが、フィルムは言いよどむ。

 完全に行き当たりばったりの申し込みだったらしく、今も目が忙しそうに動き回る。


「じゃあ、無かったことにして遊ぶか」


「待って! もう少し待ってここまで出てきてるんだから」


 そう言って指したのは喉元ではなく頭だった。

 普通その言い方だと喉だろ。とツッコミたかったが、それはそれで間違っているので何も言わない。


「えんえ、い?」


 絞り出したのは遠泳らしい。


「それで、ルールはどうするんだ? やっぱり時間か? どっちみち俺は水の魔法使いだぞ、勝てると思っているのか?」


 俺は矢継ぎ早に疑問点を言うとフィルムは混乱した。

 目だけではなくついに体までもおろおろとし始める。

 やはりこいつは面白いな。どこまでいけばパンクするか試してみるか。


「クォルテさん、その辺で許してあげていただけますか?」


「イーシャさんがそう言うならやめてあげよう」


 面白がっていたが別に泣かせたいわけではないし、むさ苦しい男の空間に女性が来てくれて気分もよくなった。


「クォルテ、いじめはだめだよ」


 ルリーラまで俺の元に来る。

 そのまま立っている俺の股の間にすっぽりとはまり体を預ける。

 あまり絵的に健全ではないため肩を掴み密着はしないようにする。


「じゃあ、オリエンテーションみたいなゲームにするか」


「そんなのがあるのか?」


 俺の言葉にフィルムが復活する。


「全部で三試合、遠泳、ボート、ビーチフラッグ辺りでどうだ?」


 適当に海でやるような競技を三つあげる。

 ルールはこの後すり合わせればいいだろう。


「褒めてやろう、ではその三つで勝負だ、クォルテ・ロックス!」


 もう一度落ち込んでいてくれないだろうかと、俺は心からそう思った。


 競技が決まってから、すり合わせた結果ルールが決まった。


「そんじゃ最終確認。人数は、そっちに合わせて四対四。こっちはルリーラとアルシェとセルクとミールが不参加だ」


「参加できないのは残念ですね」


 口ではそう言うミールだが、確実に参加しないことに喜んでいた。

 逆にルリーラはつまらなそうに口を尖らせ、アルシェに抱きかかえられている。


「遠泳のルールはシンプルに対岸まで行って戻ってくるまでの時間。ボートは乗り手が一人に操縦士が一人、操縦士は魔力の供給で船を操縦するが目隠しをする。乗り手は操縦士に指示を出す。その状態でこの湖を一周する。最後のビーチフラッグは三回勝負で、こっちもシンプルに先に旗を取った人の勝ち。そのほかはまあ、言わなくてもわかるしこんなもんでいいだろ?」


「ああ、異論はない!」


 一堂に会する場で俺は説明した。

 フィルムはなぜか胸を張ってそう言っているが、ほぼ俺とイーシャさんが考えたもので、フィルムはあまり案を出せていない。出したのは精々遠泳という単語だけだ。


「そんじゃ、オレイカに船を作ってもらっている間に遠泳か、ビーチフラッグをやりたいと思うけど、どっちがいい?」


「なら最初は俺の案である遠泳から勝負だ!」


 からかう分にはいいが、絡まれると本当に暑苦しい。

 水着のせいなのか、自信満々で力強い声のせいなのかはわからない。


「こちらの出場選手はヴェルスだ」


 最初に出てきたのは向こうで唯一の奴隷ヴェルス。

 一歩前に出てきて一礼する。

 黒髪で、フィルムが遠泳なんて体力勝負で選んだんだから見たまんまなのだろうが、無口でよくわからないというのが俺の印象だ。


「こっちはフィルだな」


「はーい」


 フィルは新調したらしい緑色の水着、上下に分かれているタイプで中々に際どい。

 包帯の様に胸の登頂から一本の布だけで、谷間が上と下から見えている。それで泳いで水着が取れないのか心配になる。

 そのせいで動くたびに跳ねるように動き、あまり直視できない。

 それはどうやらフィルムも同じらしく、フィルから視線を外している。


 対するヴェルスの水着は競泳者の水着の様で、ルリーラと同じ上下が一体になっている。

 鍛えているらしい肉体は、覆われた水着の上からでもしっかりとわかる。

 この体型ならアルシェやイーシャさんの着ている直接男を誘惑する様な水着よりも、健康的な肉体美で責めるのは間違っていない。


「フィルムよ、どうやら引き分けのようだな」


「そのようだな」


「ご主人は何の勝負をしているの?」


 フィルの言葉に女性陣全員から軽蔑の視線が向けられる。


「えっと、じゃあ二人ともスタート地点に並んで」


 俺が無理矢理に進めようとすると、全員が軽くため息を吐いて二人が並ぶ。


「よーい、どん!」


 フィルムの掛け声で二人が一斉に動く。

 ヴェルスは真面目に湖を泳ぎ始める。綺麗なフォームで湖を進む姿は実に素晴らしい。

 バタ足は一定のリズムで行われ確実な推進力になる。腕も伸びしっかりと水を掴み体を前に進める。正に理想的な泳ぎ方だ。

 だが、それでもフィルの方が圧倒的に早い。


 風で足場を作り、その上を圧倒的な速度で走り出す。

 流石使い慣れているだけあり、その動きによどみがない。

 フィルの戦い方を見ていない人から見れば、フィルが水の上を走っていると勘違いしてもおかしくない。

 そのままヴェルスが全行程の四分の一を進んだ段階でフィルは戻ってきた。


「勝者!」


「いえーい」


 俺がフィルの腕を持ち上げるとフィルは笑顔で勝利を受け入れる。


「待て待て、今のは無しだろ!」


「何を言うんだ。ちゃんとフィルは向こう岸に行って戻ってきたぞ。証拠が見たいなら向こう岸に行けばフィルの足跡があるぞ」


「ちゃんと足跡が残る様に思いっきり蹴ったから」


 そう言ってフィルは親指を立てる。

 文句のつけようがない勝利のはずだ。


「そうじゃない、遠泳って言ったろ!? 遠泳、遠くに泳ぐで遠泳だ。今のはかけっこだろ」


 もちろんそれはわかっているが、普通に認めるのは癪なのでもう少し粘ってみることにした。


「ルールは向こう岸に行って戻ってくることだろ? つまりそれさえ守れば反則じゃない」


「くっ、尤もらしい理由を……」


 ちなみにもちろん遠泳ではないのでこちらの反則だが、フィルムはそれに気が付いていないらしく、何かないかと考えている。


「フィルムくん、遠泳なんだから今の誰が見ても反則だよ。さっき説明でも知っていることの説明はいらない。って言ってたんだし」


「そうだ。そうじゃないか今のは反則だぞ」


 リースに言われようやく気付いたフィルムがそう言ったため、ヴェルスの回復を待って再度仕切りなおすことにした。


「オレイカ、船はできそうか?」


 休憩中に船を作っているオレイカに声をかける。


「順調順調、私の手にかかれば楽勝だよ」


 すでに船の形を作り終え、魔力を通す部分を作りに移ったオレイカはそう言って作業を続ける。

 要望の二人乗りは問題なさそうだし後は任せても問題ないだろう。


「色は二色にしてくれ、黒い船と白い船。向こうに船を選ばせればそれで対等だろう」


「わかった」


 これでいいだろう。

 さっきは少しふざけてしまったが、勝負は対等にやらないとな。


「兄さん、オレイカさんはどうでしたか?」


「順調だってさ」


「そうですか」


 ミールは俺に尋ねるだけ尋ねオレイカの元に向かった。

 たぶん暇になりオレイカの技術でも盗むのだろう。

 オレイカの隣に座るミールを見て、従兄離れできたなと少しだけ安心した。


 それから十分ほどの休憩を終え、遠泳を再開することにした。

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