50 人生
「さよならだけが人生って、実に嫌な言葉ですよね」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火の部屋にいる時は、およそ変なことを言わない日はない。
今回は、何故だろう。少し切実に聞こえて、烈火は慎重に言葉を選ぶ。
「まあ一部真理なんだけど、事実ってのは基本的に耳に痛いもんだろ」
「でもこの言葉、実は私は嫌いです。さよならしたくないです」
「そんな返しもあったな。確か、さよならだけが人生なら、人生なんていりません、だっけ」
「おぉ、いい返しですね」
七はそこで少しだけ笑みを浮かべた。儚げな笑みだが、確かに笑みで、烈火は少しだけ安心した。
「っても人生いらんってのはどうなのって思うけどな」
「そもそも人生がさよならだけで構築されたような寂しいものなら生まれなくてもよかった、ってことでは」
「そうかな。でも生まれなくてもいいなんて、それはもっと寂しい」
寂しい。
そんな有り触れた単語に、七は少しだけ反応した気がした。
烈火はそれで察して、あーと頭を掻く。それから、気恥ずかしさを押し殺して伝える。自分の思いを。
「でも確か解釈としては「別れの時が来たのでその別れを惜しみ、再会を誓う」みたいなのもあったはず。これに則って、あれだ」
「なんです」
「人生は、さよならと再会だけだ、ならよくね?」
「……再会ですか」
「おう。さよならしても、絶対再会するんだ」
言って、七の手をとる。優しく大事に、包み込む。
少し驚く七を、烈火は真剣な瞳で見つめる。
「だから大丈夫だぞ、七。さよならなんて一晩だけだ。すぐに朝を迎えて再会する」
「玖来さん……」
「毎日毎日、顔を合わせて、飽きもせずに一緒にいて、さよならは再会のための合図でしかなくて――おれたちは離れたりしない」
「玖来さぁん……」
目端に涙が溢れている。
そんな優しい言葉をかけられると、泣いてしまうじゃないかと。
「まあ、それでも不安で寂しいってんなら、そうだな口約束ていどだが――婚約するか」
「え」
「結婚は、まだ学生だし早いからな。婚約。結婚を前提にした婚約」
「そっ、それは……えと」
「駄目か?」
「いえ! 駄目じゃないです! お願いします!」
「ん」
烈火は歯を見せ笑い、接近。
「え」
顔が間近で――くっつく。
「誓いの……アレだ」
「…………」
真っ赤になって、七は停止してしまった。
そんな七を構わず烈火は抱き寄せて、その暖かなぬくもりを存分に味わった。
今はそれだけで満足なふたりでありました。
とりあえずの終わりです。ここでひとつの一段落です。
まあ、これからもネタが思いつけば書くかもしれませんが、いや書かないかなぁ。ともあれ最終回はこのお話です。
最初はこの話、とりあえずショートショート書きたいと思ってはじめたものでした。
で、じゃあどういうの書こうってなって、わかりやすく書きやすいキャラしてる玖来さんと七ちゃんを持ってこようとなってこうなりました。
一応、宣伝にもなるかなぁ、と思ったんです。まあ、意味なさげでしたが。
それでもせっかく最後なので、ここで宣伝をひとつ。
同作者の「玖来 烈火は迷わない ―異世界だろうと迷わない―」もよろしくお願いします。




