49 夢ってすぐに忘れるよね
「こんな夢を見た、です」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火が学校で隣の席にいる時は、授業の合い間にある短い休み時間ごとに言ってくる。
烈火は聞き覚えのあるフレーズに、思わず片眉を跳ね上げる。
「ユメ十夜?」
「おや、活字の苦手な玖来さんにしては随分と賢者な発言ですね」
七は返って来た予想外に、少し嬉しそうに笑う。文系女子である。
であるが、烈火は少し申し訳なさそうな顔をする。
「テレビで昔やってた」
「あぁ、そういうことですか。夢十夜の夢がカタカナのあれですか? 私もそれは見たことがありますね。で、どうです、面白かったですか?」
別にそれはそれで構わない。七は別にガッカリもせず感想を尋ねた。
烈火としてはもはやうろ覚え。心もとない記憶を頼りに口を動かす。
「うーん、ちょっと覚えてないけど、あの木を彫って仁王って話はコミカルで面白かった」
「六夜ですね。芸術家の境地たるは発掘のようなものだという」
「あれ本当かね、土の中から石を掘り出すように木彫りをするなんて」
「さて、私は残念ながら芸術方面にあまり明るくはないので」
烈火だって真っ暗だ。その上で文芸方面にも暗いときた。今、烈火が話せているのは単なる映画という娯楽である。
そういうところを出発点にのめり込むのもあり、というか七がそうなので推奨する。
「まあ夢十夜は短編ですし、小説のほうもおすすめですよ玖来さん」
「そうだな、おおよその内容は映画で知ってるし、読みやすいかもな。って、そういえば」
「え、なんですか」
きょとんとする七に、烈火は最初の話題に立ち戻る。
「そういえば結局お前はどんな夢見たんだよ」
「あっ、やばいです。忘れてしまいました」
「……まあ、夢ってすぐに忘れちゃうよな」
精一杯のフォローをする烈火でした。




