30 ヒロイン属性4
「ドジっ子って、どう思いますか玖来さん」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火が学校で隣の席にいる時は、授業の合い間にある短い休み時間ごとに言ってくる。
烈火は腕を組んで首を傾げる。
「ドジっ子って、どうしたらドジっ子なんだよ。わからん」
「なにもないところでしょっちゅう転んだり、いろいろと落としたり壊したり、あとなんでもないようなことで失敗しやすいキャラですかね」
「文字に並べると酷いな……」
なにかの病なのではと心配になる。睡眠不足とか。絶対、運転するなよ? 振りじゃないからな?
「というか、それってぶっちゃけドン臭いだけなんじゃ……」
「確かに運動音痴だったりする場合もありますね。他にも緊張しいだったり、あわてんぼうさんだったりですね」
「そう言い変えるとまあ、まだ悪くない風に聞こえるな」
日本語の不思議である。
そしてその表現を受けるのが美少女なわけだから、まあ許せるわな。
七は同性としての意見も絡めつつ説明を進める。
「基本的に仕事仲間としてはもはや殺意すら湧きかねないレベルの嫌な隣人な気もしますが、そこは真髄ではありません。彼女らの真髄は、そう、不完全性ゆえのほっとけなさ!」
「ああ確かにそういう娘見ると庇護欲は湧き上がるな。助けてあげなきゃみたいな」
「そういえば玖来さんって弱い相手には凄く優しいですよね。頼み断らないですし」
いつかのどこかの過去を思い出し、七はシミジミ言った。
置いといて。
今は七が使えるヒロイン属性への言及だ。
「ふむ、では今度玖来さんの目の前で転んでみましょうか」
「危ないからやめとけ」
「いえ玖来さんなら必ず支えてくれると信じてますので」
にっこり笑う。
烈火はドギマギしながらも、その動揺を悟らせないように口を回す。
「でもこけるだけじゃあドジっ子ではないだろ。ドジっ子っていうのは、いわばその存在行動全てがドジで構成されてこそなんじゃ」
「いえいえ、一部分でもドジ要素を見せればドジっ子ですよ。そんなパーフェクトドジっ子なんて最近はそう見ません。玖来さんが先に述べたように、ドン臭いという印象を与えてしまう可能性もあり、諸刃の剣という事情があるからだと思いますけど。あと」
最大の問題として。
「ドジっ子ってどうしてもあざといですからね」
「あー、あるある。あざといわ。上手く描かないとイラっとするもん、おれ」
「女性人気もあんまり得られそうにないですよね」
「それは知らんけど」
確かに扱いが難しいタイプの属性なのかもしれない。消費側じゃあちょっとわからないことだが。
「ですがたとえばハーレム物とかで多く多様なヒロインがいるなかで、そんなに取り柄もないどころからドジとか評される子が選ばれたら、主人公節穴かよって思いません?」
「うーん、主人公が冴えないってのはよく聞くが、そうかみんなに慕われる主人公がなんでそんな冴えない女選ぶんだっていう逆の問題もあるのか」
「世界を救い、悪を滅ぼした主人公サマ――その伴侶がドジっ子って、おい。もっとお前を助けた女いたでしょうが。あなたのために命削った女とかいたでしょうが。ガン無視でそれ選ぶんですかぁ? ないわぁ、それはないですわぁ」
「お前の個人的私情混ざりまくってるけど、一理なくはないな」
七ちゃんもドジっ子は嫌いなのだろうか。今度転んでみるって言ってたくせに。一貫しない奴だ。
いや、それとも嫌いな者からすら得られる物は得ようというのか。烈火のために。
「少なくとも玖来さんは私以外を選んだら許しませんからね」
「イエス、マム」
烈火は苦笑で一も二もなく首肯したのでした。




