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28 おれだって飛びたいよ、空







「空を自由に飛びたいなー、はい……タケコプター以外にはなにがあると思います?」


 神代 七が変なことを言うのは日常である。

 特に彼氏の玖来 烈火が学校で隣の席にいる時は、授業の合い間にある短い休み時間ごとに言ってくる。

 それは三時間ぶりの七ちゃんからの言葉であった。

 不機嫌は三時間しかもたなかったのか、とか。三時間振りの最初の話題がそれか、とか。

 思うところはあったが、今の烈火は不機嫌モード終了に諸手を挙げて喜ぶのみ。


「舞空術!」

「そこで翼をくださいとか考えずにまず漫画知識が飛び出す辺り、玖来さんもなかなかアレですよね」

「テレキネシス」

「それは応用技っぽくないですか」


 物体を動かすという点で自分もまた物体だ、と言えなくはないだろうけど。


「もうじゃあヘリコプターでいいよ。免許とってくるから、かーちゃん金くれ」

「壮大なニートみたいな発言しないでください」

「ぜってぇ返すから。ビッグになって返すから」

「今度はヒモ野郎ですか。そっちは結構似合ってますよ」

「似合ってねぇーよ!」


 一通りボケとツッコミを終えて、一段落。

 烈火は一息ついてから根本に戻ってみる。だいたいなにか思ってこそ変なことを言うのが七だと、烈火は知っているから。


「んで、結局なんで空を飛びたいネタが飛び出したんだ」

「はぁ、まあ、その……」


 頬をぽりぽり掻いて恥ずかしそうに。


「もしも空を飛べたら、こう胸部を下向けることで重力的な加重で大きくならないかなぁ、と思いまして」

「……牛乳飲もう。おれも付き合うから」


 切実だけど、烈火としてはそこまで切実にならないでほしい。どちらでもいいからな、本当に。

 それでもまあ、七の心情も慮るべきだ。きっと男が軽く言うようなことで、女の子は傷ついたり奮起したりするから。


「はい、それを理解してようやく女心を知るための入門ですよ?」

「次から気をつけます……」


 仲直りは早くて、それでいてあっさりとするふたりでありました。









「とりあえず男女間にある胸部への認識や価値観の違いは月ほどかけ離れているのだと悟った。それだけ離れていたらどれだけ言い繕っても無駄だ。もう胸について女子と話すのはやめよう!」






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