27 ロマンという名の失言
「胸ですか?」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火と一緒に登校している時は、会話の中にすぐに放り込んでくる。
肩を竦めてなにを言っているのかわからない。烈火はそんな風体を装う。
「なんだよ藪から棒に。せめて脈絡とか前振りとか配置してくれないか」
「いえ、玖来さんの目線が今先ほどすれ違った女性に向かった気がしまして」
「そりゃ気のせいだ。もしくは被害妄想」
おっぱいないからっておっぱいを逆恨みしてはいけませんよロリ。
それは自らを貶めているだけだ。自分を持って自信を持て。そうだ、うちはうち、よそはよそ。よそが輝いてるからって、自分の輝き方を間違えてはいけないんだ。ロリはおっぱいとはかけ離れたところに真実の魅力を照り輝かせるものなのだ。
「本当ですかね? 玖来さんはおっぱいなんか好きじゃないロリと信じていいですか?」
「言い方を配慮しろ」
恋人一筋で別の異性になんて目もくれないとか、そういう言い回しだったら即座に頷いていたというのに。
「恋人一筋でも胸は人ではないので見てしまうんだ、とか」
「それは……」
なきにしもあらず。
「うわぁ」
「いいか、七、聞いてくれ」
これは大事なことであり、真摯に向き合いキチンと話し合わねばならない事柄であろう。
よって真剣に、烈火は冗句も遊びもなしに真正面から七へと告げる。
「男という生命体はな、その存在が産み落とされた段階で、魂に命令文を刻まれるんだ。その命令は絶対遵守であり、破れば男を捨てることになる。命令に従い男であり続けるか、命令に逆らい男を辞めるかしか道はないんだ。
そう、その命令文こそが「おっぱいを見ろ」だ」
「死ね」
「聞け、聞いてくれ。見ろだけなんだ、見るだけなんだ。紳士は一瞬目を遣ってからすぐに逸らして自戒するんだ、ああ本能に敗れたと。けれど、それだけなんだ。触りたいだの、揉みたいだの、舐めたいだのは付随であり、見るこそが第一義であって、邪なるはそれなのだ。見るは本能、他欲望なのだ。
だからちょっと、ほんのちょっと目線がブレて吸引力に捕まりチラっとだけ目の端に置くことについて悪行だとか責め立てないで欲しいんだ。それは同時に男をやめろと言われているようなものであり、つまりが絶望なんだ」
「……あの玖来さん、よく貧乳な彼女におっぱいについて熱く語れますね、ドン引きなんですが」
「ちげぇーよ! おっぱいの話じゃなくて男の尊厳の話だよ! 矜持だ、プライドだ、仁義だ!」
「高尚っぽく語れば勢いで頷くと思ってませんか?」
男はすぐにプライドとかロマンとか格好つけた物言いをする。そのくせ、内容は子供っぽくて、意地っ張りであることが多い。理屈だの論理だので武装するけど、根源は感情に起因しているからどっかでボロがでる。
要するに馬鹿。馬鹿と気付いていない馬鹿。
今回の件も、ちょろっと真面目風に謝れば済んだのに、墓穴を掘りまくっている。
「まあ、そういう男の子の馬鹿な部分を可愛らしいと受け入れてやるのがいい女ってもんですけどね」
どやぁ。
「…………」
スルーして。
「おれは本能でおっぱいを見てしまう。だがな七、好きなのはお前だけだぞ」
「誤魔化されませんから」
「いやでも考えてもみろ。もしもお前がボインで、それでおれがお前を好きだと言ったら、それは巨乳を好きで本人を好きではない可能性が生まれるだろ」
「む、それは」
「しかしお前は貧乳だ。つまりおれの愛は本物であり、不純物なくお前を好きということなのだ」
巨乳好きだけど、それをあえて金繰り捨ててまで七を選んだ。それを愛と言わずなんと言う。
「結局、玖来さんは巨乳好きということですね」
「あっ」
それからしばらく口をきかない七ちゃんでありましたとさ。
「違うぞ、七。違うんだ! 巨乳が好きなんじゃない、巨乳も好きなだけなんだ。貧しくても慎ましくても、中くらいでもおれは大好きだぞ。つまりおれのベストは可変式なんだ!」
熱い本音暴露も聞いてくれませんでした。




