後日談~卒業式
卒業式。
桜にはまだ早い肌寒い季節。校門前でクラスメイト達と写真撮影をする。
少しの寂しさもあるけれど、別に地元を離れるわけでもないから、それよりは解放感とこれからへの期待の方が大きい。
希未と陽菜はクラスで行う食事会参加の話をしている。私が参加出来ない事は既に二人とも知ってる。
「姉ちゃん! 緋路さん待ってるぞ」
「うん! 今行くよー」
弟の言葉に答えて、親友達を振り返る。
「じゃあ、またね」陽菜と希未に手を振る。
「落ち着いたら連絡してよ」
「まったねー!」
手を振りかえす二人と別れ、龍弥と共に校門に向かう。
「おじいちゃんは?」
「うるさいから母さんが連れて帰った。緋路さんと入れ替わりでみっちり仕事だろ」
「龍弥は一緒に車に乗らなかったの」
「もう少し学校を見てから、のんびり歩いて帰るよ」
春から龍弥はこの高校に通う。ヒーローとしても本格的に活動するから忙しくなるだろう。
「……寂しい?」
龍弥と腕を組んで歩く。
「ぜ~んぜん! 姉ちゃんこそ小芝居出来なくなるから寂しいんだろ」
龍弥は憎まれ口を叩くけど、腕は振り払われなかった。
「うん、ちょっとだけ寂しいかな」
「いつでも帰ってきていいんだからな」
「ふふ、大丈夫だよ。家からだってすぐ近くなんだから」
校門の外で待つ、一際目立つスーツの人。
沢山の人の中だってすぐに見つけられる私の大好きな人。
「……おめでとう、姉ちゃん」
「ありがと、龍弥」
隣の龍弥の声を合図に腕を離して駆け出す。
広げられた腕に身体ごと飛び込む。
少しも傾がず受け止めてくれるのは流石ですね。
「卒業おめでとう」
「ありがとうございます!」
耳元で聞こえる声がくすぐったい。
「はぁ、一年半は長かった……」
緋路さんがしみじみと口にする。
「そうですか? あっという間でしたよ」
色々なことがあったなあ……。おじいちゃんがいじけて家出したり、龍弥の初恋どっきどき日記の発掘とか、石崎先輩の緋路さんへのライバル宣言とか。
何といっても緋路さんの野菜嫌い克服大作戦は、私すっごく頑張りました!
ぎゅうぎゅうしていたら、周りの視線に気づいた緋路さんが照れくさそうに言う。
「早く家に帰ろう」
「はい!」
草薙の家から徒歩十分のマンション。
ここの最上階の角部屋が、今日から私の帰る家だ。
春から大学生となり、この場所から学校に通う。怪獣栄養学と解体学を専攻するんですよ。将来ヒーローにはなれなくても、ヒーロー達を側で支えたい。お祖父ちゃんや龍弥、そして大好きな緋路さんと一緒に頑張りたいから。
それに! 何と言っても怪獣肉選び放題捌き放題、美味しさを布教し放題ですっ!
趣味と実益を兼ねた天職ですよね。
食事と買い物を済ませて、到着した玄関の上り口で怪獣肉とその将来に夢を馳せていたら、影がかかって覗き込まれた。
「よだれ出てました? 怪獣肉の将来について考えてたら、つい」
「いや。やっぱり躊躇ってるのかと」
靴も脱がずに機能停止してる私の姿を見て、緋路さんは不安になったらしい。
こんなにこんなに大好きって、いつも体当たりで伝えているのにな。
「一緒に暮らしたいって駄々をこねたのは、私のほうですよ?」
「手加減せずに準備と引っ越し日を詰めたのは俺のほうだ」
気持ちよ伝われ~と、心を増量して抱きしめたら、苦しいくらいに抱きしめ返される。
「手加減されたらしょんぼりしちゃいますよー。緋路さんは全力で体当たりをしても、いつもちゃんと受け止めてくれるじゃないですか。物理的には体当たりの緋路さんをディフェンダーみたく受け止めるのって難しいですけど、気持ちは受け止めたいんです。だからちゃんと、助走を付けて飛び込んでみてください」
「……いいのか? 本当に手加減、もうしないぞ」
ぴったりくっついてるから、声が心臓から重低音で響いてくるみたい。掠れて聴こえた声に、なんだかむずむずする。
「はいっ! バッチこいですとも。あ……でももしかしたら物理の方もいけるかも。何事もチャレンジって大事ですよね」
「それは無理。トラックに轢かれたら人は大抵怪我するぞ」
緋路さんはトラックですか? 無理って言葉が秒速でしたね。
試してみたっていいのにな。
抱きしめる腕がゆるんだので、勢いよく顔を上げる。
「さあて、今日は七色鴨怪獣さんの熟成肉で、鴨南蛮そばですよー!」
引っ越し蕎麦です。ざる蕎麦じゃないけどいいですよね?
七色鴨怪獣さんは、その名の通りに七色の羽を持つ鳥形怪獣さんです。さっぱりとしながらもジューシーな脂のお肉は、まさにネギとのハーモニーの為に生まれてきたかのようっ。
想像すると今度こそよだれが……。
「う、うん。今けっこういい雰囲気かと思ったんだが、やっぱり俺の勘違いなのか!?」
ああ、緋路さんが明らかにしょんぼりしてます。
でもちょっとツッコミが龍弥に似てきて、こっそり萌えポイントだったりするんです。
姉バカは生涯止められませんよね!
緋路さんの唇に人差し指を当ててみる。
さすがの私も、キスの雰囲気くらい分かってますよ。
「だってね、緋路さん。お祖父ちゃんの忍耐が明日までなんて持つはずないし、面白いこと大好きな此花さんちのご夫婦が引っ越し祝いに訪ねて来ないわけないし、心配性で世話焼きな石崎先輩はきっとお手伝いに来ちゃうんですよ」
そしたらもう大宴会ですよーと続けたら、緋路さんの肩ががくりと落ちた。
ほらほら、噂をすれば不穏な通知音。龍弥からの祖父接近エマージェンシーが来てます。
――だから、ね?
体当たりは明日から、この先ずっと一生、ね。
お付き合い頂きありがとうございます。
約一年以上前に書いてあったファイルが出てまいりました。蛇足かもしれませんが、少しでも楽しんで頂けたなら嬉しいです。




