プロローグ 『まだです、まだ終わってません』
「――まだです、まだ終わってません!!」
天音すずの声が、コロッセオ全体に響き渡っていた。
競技フィールドの中央で、二人の選手が魔力の光を散らしながら激突している。一方は炎の剣を振るう男子生徒、もう一方は氷の障壁を次々と展開する女子生徒。剣先と障壁がぶつかるたび、白い蒸気と光の粒子が舞い上がる。
「見てください、この応酬! 何十回、何百回と繰り返してきた練習が、今、この一撃に乗ってます! 彼の踏み込み、迷いがありません――そして彼女も、絶対に引かない!!」
実況席で、すずは椅子から半分身を乗り出していた 。小さな身体を目いっぱい使い、マイクを握る手が大きく動く。ピンクの長い髪はもう汗で額や頬に張りつき、それでも彼女の目は一瞬も戦況から逸れない。
隣で、右京徹がだるそうに頬杖をついたまま口を開く。
「……彼女の障壁、さっきから厚みが薄くなってる。魔力切れが近い。あと二、三発で崩れるぞ」
「右京先生の言う通りです! 彼女の魔力はもう限界に近い――でも、それでも彼女は引かない! なぜか。それは……!」
すずの声がひときわ大きくなった瞬間、炎の剣が障壁を突き破った。氷の欠片が光になって散り、女子生徒がフィールドに片膝をつく。
「決まったーー!!!!」
審判ドローンが赤いランプを点灯させ、主審室から人間の主審が旗を上げる。戦闘不能。試合終了。
会場が一瞬静まり、それから大きな歓声に包まれた。
すずは立ち上がり、マイクを両手で握り直す。額の汗が照明を受けてきらきらと散った。
「勝者、決まりました……!!!! でも、皆さん、彼女を見てください!!今日まで彼女がどれだけ練習を積んできたか、私は知っています。三ヶ月前、彼女の障壁はこの半分の厚さしかありませんでした。今日、彼女はここまで来た。それだけで、彼女は誰よりも誇れる選手です……!」
声が震える。ピンクの髪に、桜の花びらが一枚、また一枚と絡んでいく。
フィールドの上で、勝った男子生徒が女子生徒に手を差し出した。彼女はその手を取り、二人はゆっくりと立ち上がる。
「両選手、お互いに礼を交わし合った、素晴らしい試合でした! 勝者も、敗者も――今日、この場に立った二人に、大きな拍手をお願いします!!」
会場全体が拍手に包まれる。実況席のすずの周りにも、風に乗って桜の花びらが舞い上がった。
彼女は誰よりも大きな声で、誰よりも大きく手を叩いていた。
――これは、実況に青春のすべてを捧げた、一人の少女の物語――
後書き
「――さあ、試合終了のホイッスルが鳴ったところで、カメラを切り替えます! 注目、こちら、読者の皆様の反応です!!」
「来た―――!! 【ブックマーク】に指が伸びています!! 『続きが気になる』その気持ち、しっかり届いてます、ポチッと押していただけますか、お願いします!!」
「そして下です、下を見てください、【☆☆☆☆☆】が並んでいます……あ、動いた!! 今、★が一つ、また一つ増えていく!! 『面白かった』「続きに期待」その想いが、★の数になって現れています……これは、選手たちの努力が報われる瞬間と、何も変わりません!!」
「私は今日も、戦えないこの身体で、精一杯マイクを握っています。でも、皆様のその一押しが――ブックマークが、★が、感想の一言が――この物語を、次の試合へ連れて行ってくれる力になります!」
「感想欄にも、どうか一言……あ、来た!! 来ました、コメントです!! ……ありがとうございます、本当に、ありがとうございます……!」
「まだです、まだ終わってません。この物語は、まだ始まったばかりです。どうか、次の試合も――一緒に、見届けてください!!」
――ピンクの髪に、また一枚、花びらが絡んだ。




