閑話 第一六二回 王立魔導学院 学内武術競技会 -四年次- 第17話
閑話、四年次の武術競技会編 第17話です。
レティアが敗退した同じベスト十六の試合会場へ、次に姿を現したのはアリスだった。
先ほどまでレティアの試合が行われていた結界とは別区画であるにもかかわらず、観客席にはすでに大勢の生徒たちが集まり始めている。
理由は単純だった。
次の試合が、“今大会でも特に危険”と噂されている組み合わせだったからだ。
アリス・グレイスラー。
探索者育成部五年。
魔術部門個人順位三位。
そして、剣術部門でも異常な強さを見せ始めている存在。
対するは、魔術部五年次所属、セオ・ガルディア。
学院内では珍しい“魔導ライフル二丁使い”として知られる生徒だった。
会場中央へ現れたセオの両手には、短銃型へ改造された魔導ライフルが握られている。
一般的な長銃型ではない。
片手操作へ最適化された軽量型。
だが、そこへ組み込まれた魔力圧縮機構は通常仕様を明らかに超えていた。
さらに背中には展開式の魔導盾が二枚固定され、その下へ予備の魔導剣が交差するように装着されている。
腰部と背面には追加コンデンサと予備弾倉が接続され、射撃戦を長時間維持するための補助術式が淡く発光していた。
そしてセオの背後、結界内の待機位置には予備の魔導ライフル四丁と予備魔導盾二枚までもが並べられており、まるで一人で武装陣地そのものを持ち込んだような異様な光景が広がっている。
腰には予備コンデンサ。
腕部には放熱補助術式。
両脚へは反動制御用の身体強化術式。
それだけで、彼の戦闘スタイルがどれほど極端かを物語っていた。
「……来たぞ、セオ先輩だ」
「今年の魔術部、あの人だけ別競技みたいなんだよな……」
「前の試合見たか……?」
「見た……あれ、完全に弾幕だった」
「防御した瞬間に次が来るんだよ、しかも止まらない……!」
観客席の空気がざわつく。
セオの試合を見た者ほど、その異常さを理解していた。
通常の魔導ライフルは、一射ごとに魔力収束と照準補正を必要とする。
連射には限界がある。
だが、セオは違った。
両手の魔導ライフルをほぼ同時制御し、左右交互ではなく“重ねる”ように射撃することで、絶え間なく魔力弾を撃ち続ける。
連射速度が異常に速い。
防御を選べば削られる。
回避を選べば追い込まれる。
攻撃へ転じる隙そのものが存在しない。
まるでガトリング砲だった。
絶え間なく降り注ぐ魔力弾の暴風によって相手の選択肢を削り、防御も反撃も許さないまま押し潰す。
それが、セオ・ガルディアの戦い方だった。
「前の相手なんて、防御術式展開したまま押し切られてたからな……」
「近づけないんだよ、射線が途切れないから……」
「しかも全部威力が軽くない、まともに受けたら一瞬で削られる……!」
ざわめきが広がる。
だが、その中心でアリスだけは静かだった。
結界内へ足を踏み入れたアリスは、青白い光膜の揺らぎを横目で確認しながら、ゆっくりと試合場中央へ歩いていく。
風が揺れる。
霜混じりの冷気が金髪をわずかに撫でる。
それでも、その歩調は変わらない。
対するセオは、両手の魔導ライフルを軽く回しながら口元を歪める。
「へぇ……あんたがアリス・グレイスラーか」
「思ったより細いな」
「もっとゴリゴリの前衛型かと思ってたぜ」
軽い口調だった。
だが視線は鋭い。
油断しているわけではない。
むしろ逆だった。
セオは理解していた。
目の前の相手が、ただの魔術師ではないことを。
「でも、悪いな」
「俺の弾幕、剣士系とは相性最悪なんだわ」
「近づく前に終わるぜ?」
観客席がざわつく。
挑発。
だが、半分以上は事実だった。
これまでセオへ近づけた相手はほとんど存在しない。
アリスは静かに相手を見る。
視線は揺れない。
呼吸も乱れない。
ただ、両手の魔導ライフルへ視線を向け、その銃口の動き、腕の角度、重心位置、足場の取り方を静かに観察していた。
(……速いタイプ)
アリスの瞳がわずかに細くなる。
(……でも、止まらない連射ってことは、逆に“流れ”がある)
完全な無秩序ではない。
左右の切り替え。
照準移行。
反動制御。
連射には必ず周期が生まれる。
問題は、その流れへ入る前に押し潰されるかどうかだった。
「両者、位置につけ」
審判の声が結界内へ響く。
観客席のざわめきが少しずつ静まっていく。
セオが両手の魔導ライフルを構える。
銃身内部へ魔力光が走る。
圧縮された魔力が収束を始め、低い駆動音が結界内へ響き始める。
アリスは静かに腰の剣へ手を添えた。
そして。
「――試合開始!」
開始の宣言と同時だった。
セオの両腕がわずかに沈む。
次の瞬間、両手の魔導ライフルが同時に咆哮した。
――ダダダダダダダダダダッ!!
圧縮された魔力弾が凄まじい速度で射出される。
青白い閃光が連続して空間を裂き、視界を埋め尽くすほどの密度でアリスへ降り注いだ。
一発ごとの威力も軽くない。
それが休みなく連射されることで、結界内そのものが暴風のような魔力振動に包まれていく。
「うおっ……!?」
「速っ……!」
「始まった瞬間から全力かよ……!」
観客席がざわめく。
通常の魔導ライフルではあり得ない射撃速度だった。
左右交互ではない。
重ねている。
片側の発射反動をもう片方の魔力循環で相殺しながら、絶え間なく魔力弾を叩き込んでいる。
まさにガトリング砲だった。
「近づけるかよ、あんなの……!」
「いや、防御術式でも押し切られるぞ……!」
だが、アリスは止まらなかった。
「――《エリア・シールド》」
前面へ魔術盾形障壁が展開される。
半透明の青白い障壁が空間へ滑り込むように形成され、その直後、飛来した魔力弾が真正面から激突した。
――ガガガガガガガッ!!
衝撃。
爆ぜる魔力光。
障壁表面が激しく震え、連続着弾によって一瞬で亀裂が走る。
――バキィッ!!
一枚目が砕け散る。
だが、その瞬間には次の障壁が展開されていた。
――ドガガガガッ!!
――バキィッ!!
――ギィンッ!!
――パリンッ!!
破壊。
再展開。
破壊。
再展開。
アリスは前面へ《エリア・シールド》を連続展開し続ける。
まるで壁を張り替え続けるような速度だった。
通常の術者なら、一枚の障壁維持だけで集中を割かれる。
だがアリスは違う。
飛来する魔力弾の着弾位置を瞬時に読み取り、破壊される前提で次の障壁を重ねることで、防御そのものを連射速度へ同調させていた。
「なっ……!?」
「防いでるんじゃない、貼り直してるのか!?」
「いや違う、展開速度がおかしい……!」
観客席から驚愕の声が上がる。
セオの連射は止まらない。
銃口が火花のような魔力光を撒き散らし、絶え間なく魔力弾を吐き出し続ける。
だが、アリスの《エリア・シールド》も止まらない。
――バキィッ!!
――展開。
――ドガガガッ!!
――再展開。
障壁が砕ける。
その直後にはもう次がある。
連射と同等。
いや、それ以上の速度で防壁が張り替えられていく。
セオの目がわずかに見開かれる。
「はっ……おいおい、マジかよ……!」
普通なら押し潰される。
防御術式は“維持”するものだ。
破壊前提で連続再展開するものではない。
だがアリスは、破壊される瞬間を計算へ組み込んでいた。
障壁が砕ける。
次を置く。
また砕ける。
さらに置く。
防御ではない。
迎撃速度そのものを合わせている。
「まだ止まらねぇぞ……!」
セオの魔力出力がさらに上がる。
銃身内部の術式回路が赤熱し、射出音そのものが一段重く変化する。
魔力弾の密度が増す。
着弾衝撃が強くなる。
それでも。
アリスの表情は変わらない。
青白い障壁を連続展開しながら、アリスはその暴風の中を一歩ずつ前へ進み始めていた。
セオの連射は収まらない。
左右の魔導ライフルが絶え間なく咆哮を続け、圧縮された魔力弾が雨どころではない密度で結界内を埋め尽くしていく。
前へ出ようとした瞬間に着弾が増える。
障壁を一枚でも貼り損ねれば、そのまま押し潰される。
アリスは前進できない。
その場で《エリア・シールド》を貼り続けるしかなかった。
――ガガガガガガガッ!!
――バキィッ!!
――再展開。
――ドガガガガッ!!
障壁が砕ける。
次を置く。
さらに砕ける。
また展開する。
青白い障壁片が砕け散り、その破片光が霜混じりの空気へ舞い続ける中、アリスは一瞬たりとも術式制御を止めない。
「おいおい……まだ止まらねぇのかよ!?」
「普通なら魔力制御が追いつかなくなるぞ……!」
「いや、あれ防御じゃなくて“連続展開”だ……!」
観客席のざわめきが大きくなる。
だが、アリスの瞳は静かだった。
防御へ集中しながらも、視線だけはセオの射撃周期と重心移動を追い続けている。
(……止まらない)
(……でも、完全固定じゃない)
左右連射。
反動制御。
照準移行。
完全無停止に見えて、わずかに周期がある。
ならば。
「――《レイ・スパーク》」
アリスの指先から青白い閃光が走る。
直線ではない。
射線を避けるように高角度へ打ち上げられた雷光が、弧を描きながらセオの頭上へ落下していく。
「上から――!?」
観客席がどよめく。
正面射線ではない。
弾幕の薄い頭上を狙った一撃だった。
だが、その瞬間。
「読めてるっての」
セオの背後から魔力光が噴き上がる。
次の瞬間、二枚の魔導盾が頭上へ跳ね上がった。
――ギィィィンッ!!
落下した《レイ・スパーク》が魔導盾へ激突し、激しい雷光と火花を撒き散らしながら上空で弾ける。
閃光が結界内を白く染める。
轟音が遅れて響く。
「防いだ!?」
「いや待て、なんで上に盾が出る!?」
観客席が一気にざわめいた。
アリスの瞳がわずかに揺れる。
驚いたのは、《レイ・スパーク》を防がれたことではない。
(……両手が塞がってるのに……)
セオの両手は魔導ライフルを握ったままだ。
連射も止まっていない。
それなのに、頭上の魔導盾だけが独立して動いていた。
その背後。
魔力光で形成された二本の腕が浮かび上がる。
青白い魔力で構築された半透明の腕部。
人間の腕に酷似している。
だが筋肉も骨格も存在しない。
純粋な魔力制御だけで形成された疑似腕だった。
その二本の魔力腕が、魔導盾を支えていた。
「……あれ、義手……?」
「いや違う、魔力で作ってるのか!?」
「四本腕みたいになってるぞ……!」
ざわめきが広がる。
セオが口元を歪める。
「《マギ・アームズ》」
「俺の本命だよ」
背後の魔力腕がわずかに開く。
魔導盾を保持したまま、さらに予備武装へ触れようとする動きが見えた。
アリスの瞳が細くなる。
(……四重制御)
(……しかも射撃しながら……)
通常ならあり得ない。
両手射撃だけでも高負荷だ。
そこへ独立魔力腕を追加し、別武装まで同時制御している。
単純な火力型ではない。
制御能力そのものが異常だった。
セオの連射は止まらない。
両手の魔導ライフルが絶え間なく魔力弾を吐き出し続ける中、その背後で揺らめいていた《マギ・アームズ》がさらに増殖を始める。
――ブゥンッ。
魔力光が空間へ広がる。
青白い粒子が背後へ集束し、一本だった魔力腕が二本へ増え、さらにその横から三本目、四本目が形成されていく。
半透明の腕部が空間からせり出すように構築され、指先まで人間に酷似した形状が完成していく光景は、もはや通常魔術の域ではなかった。
「まだ増えるのかよ!?」
「おい待て、何本ある……!?」
観客席が騒然となる。
魔力腕は止まらない。
五本目。
六本目。
さらに背後上部から追加形成された腕が左右へ展開され、まるで蜘蛛の脚のように武装待機状態へ移行していく。
アリスの瞳が細くなる。
(……増設型……)
(……しかも独立制御)
普通ではない。
魔力で腕を形成するだけなら、補助術式として存在はする。
だが通常は一本。
多くても二本。
それ以上は術式維持だけで制御が破綻する。
だがセオは違った。
連射を維持したまま。
照準を動かしたまま。
反動制御を継続したまま。
追加の魔力腕を同時制御している。
「《マギ・アームズ》――多重展開」
セオが低く呟く。
次の瞬間、さらに二本の腕が形成される。
合計八本。
そこへ自分自身の両腕を加え――。
計十本。
結界内の空気がどよめく。
観客席から悲鳴に近い声が漏れた。
「十本……!?」
「おい、冗談だろ……!」
「なんだあれ、武装要塞じゃねぇか……!」
四本の魔力腕が魔導盾を装備する。
左右前方。
左右上方。
盾配置が瞬時に切り替わり、射線防御と頭上防御を同時維持する構成へ変化する。
残る四本の魔力腕は、後方待機していた予備魔導ライフルを掴み取る。
――ガシャッ。
術式接続音が鳴る。
銃身内部へ魔力光が走る。
追加武装までもが完全起動を始めた。
そして最後の二本。
背中へ固定されていた魔導剣を抜き放つ。
――ギィンッ。
刃が青白く光る。
魔力腕に保持されたまま、左右後方へ展開される双剣。
まるで近接侵入への迎撃機構だった。
「ははっ……見えてきたか?」
「これが俺の戦い方だ」
セオが笑う。
両腕で連射。
四腕で防御。
四腕で追加射撃。
双剣で近接迎撃。
単純な二丁拳銃使いではない。
全方向同時制圧型。
それが、セオ・ガルディアの完成形だった。
――ダダダダダダダダダダダダッ!!
次の瞬間、追加ライフル群が起動する。
魔力弾の密度が跳ね上がる。
左右だけではない。
上下。
斜線。
曲射。
複数射角から魔力弾が同時射出され、結界内そのものが暴風のような魔力閃光に埋め尽くされる。
「っ……!」
アリスは即座に《エリア・シールド》を多重展開する。
前方。
斜上。
右側。
左側。
――ガガガガガガガガガッ!!
――バキィッ!!
――再展開!!
――ドガガガガッ!!
障壁が次々に砕ける。
その直後にはもう次がある。
だが今度は一方向ではない。
上下左右。
四方から着弾する。
結界内へ青白い破砕光が連続し、爆ぜた障壁片が霜混じりの空気へ吹き荒れる。
「防ぎ切れるかよ、あんなの……!」
「いや待て、アリスもおかしいぞ!?」
「なんであの弾幕でまだ立ってるんだ!?」
観客席が混乱に包まれる。
だが、その中心で。
アリスだけは静かだった。
砕ける障壁。
飛来する弾幕。
十本腕の武装制御。
そのすべてを見ながら。
アリスの瞳だけが、静かに細くなっていく。
――ダダダダダダダダダダダダッ。
暴風のような連射が続く。
追加展開された魔導ライフル群によって弾幕密度はさらに跳ね上がり、上下左右から飛来する魔力弾が結界内そのものを圧迫していた。
アリスは《エリア・シールド》を連続展開し、砕けた障壁の破片が青白い光となって周囲へ散るたびに、新たな防壁を前面へ差し込んでいく。
だが、その瞬間だった。
セオの周囲で魔力光が爆ぜる。
「――《ヴィタルブースト》」
身体強化魔力が一気に全身へ巡り、筋肉出力と神経伝達が引き上げられる。
さらに、足元へ集まった魔力が鋭く圧縮される。
「――《クイックアクセル》」
足元の霜が爆ぜた。
――バンッ。
セオの姿が弾かれるように前へ滑り込む。
魔力腕による連射を維持したまま、自身の身体だけが一気に間合いを詰めてきた。
「っ――!?」
アリスの瞳がわずかに揺れる。
遠距離制圧型だと見ていた。
弾幕で相手を近づけずに押し潰すタイプだと判断していた。
だが、目の前のセオは射撃を止めず、そのまま近接の距離へ入ってくる。
(近接まで来る……!)
背後の魔力腕が保持していた二本の魔導剣が抜き放たれる。
――ギィンッ。
青白い刃光が左右から走り、魔力腕による双剣がアリスの防御線へ叩き込まれる。
「近づけないだけが俺の戦い方じゃねぇんだよ!」
剣戟が始まる。
アリスは咄嗟にロングソードを引き抜く。
右から来た斬撃を紙一重でかわし、左の刃が滑り込む前に身体を沈める。
刃が髪先を掠め、青白い光が視界の端を切り裂いた。
魔力腕の斬撃は人間の肩や腰の動きに縛られない。
通常の剣筋なら生じる予備動作が少なく、上下左右の角度から不自然なほど滑らかに刃が飛んでくる。
アリスは呼吸を詰め、首筋を狙う斬撃を半歩で外し、腹部へ向かう横薙ぎをロングソードの腹でわずかに逸らした。
近接になったことで、射撃の圧力はわずかに薄くなっている。
だが、代わりに双剣と盾が死角を塞ぎ、アリスの反撃の余白を奪っていた。
「ははっ、避けるなぁ!」
セオが笑う。
アリスは答えない。
かわした瞬間に踏み込み、ロングソードを最短距離で走らせる。
狙いはセオの胴だった。
――ギィンッ。
だが、魔導盾が割り込む。
四枚の魔導盾のうち一枚が胴の前へ滑り込み、アリスの斬撃を真正面から受け止めた。
衝撃で盾の表面に青白い火花が散り、反動がアリスの手首へ返る。
決定打には届かない。
(盾の反応が速い……!)
アリスは即座に角度を変える。
下段から切り上げる。
右肩口へ返す。
さらに足元を狙うように刃を落とす。
だが、そのたびに魔導盾が位置を変え、まるで生きているように斬撃の軌道へ割り込んでくる。
――ギィンッ。
――ガッ。
――キィンッ。
盾が防ぐ。
双剣が襲う。
魔導ライフルの射線が外側から圧をかける。
攻撃と防御が、人間の二本腕ではあり得ない速度で切り替わっていく。
「どうした!? 近接ならいけると思ったか!?」
セオが踏み込む。
魔力腕の双剣が上下同時に振り抜かれる。
アリスは身を捻り、上段の刃を紙一重でかわしながら、下段へ滑り込む刃をロングソードで弾く。
その瞬間に反撃へ移るが、また盾が入る。
――ガギィッ。
ロングソードの刃が魔導盾へ弾かれ、衝撃が腕へ走る。
アリスは後退せず、足場を踏み直して再び剣を返す。
だが、四枚の盾は絶え間なく位置を変え、セオの急所へ向かうすべての線を塞いでいく。
(攻撃しながら、完全に防いでいる……)
違う。
単純に硬いのではない。
攻撃用の腕と防御用の腕が分離しているため、斬撃の最中でも盾の配置が遅れない。
人間の動作なら必ず生じる攻防の切り替えが、この相手には存在しない。
結界内へ剣戟音が連続する。
霜が砕け、火花が散り、青白い魔力光が乱舞する。
アリスはロングソードを握り直し、セオの盾の動きと双剣の軌道を同時に読み取ろうと視線を細める。
焦りはある。
だが、まだ崩れてはいない。
互いに、まだ決定打へ届かない。
――キィンッ。
――ガギィッ。
――ギィンッ。
剣戟が連続する。
アリスは双剣を紙一重でかわしながら、盾の隙間へ何度も斬撃を差し込もうとする。
だが、四枚の魔導盾が絶え間なく位置を変え、そのすべてを防ぎ切っていた。
(……硬い)
(……でも、この距離ならまだ見える)
双剣の軌道は速い。
不規則でもある。
それでも、近接へ入ったことで魔導ライフルの圧力だけは薄れている。
ならば、このまま押し込むしかない。
アリスは双剣を受け流しながら半歩踏み込む。
ロングソードが盾の外側を滑り、セオの肩口へ最短で走る。
だが。
――ガギィッ。
また盾。
しかも今度は二枚重ね。
衝撃が腕へ返る。
「甘いって!」
同時に、魔力腕の双剣が左右から滑り込む。
アリスは咄嗟に身体を捻り、片方をかわし、もう一方をロングソードで逸らす。
だが、その瞬間。
後方の魔導ライフル群が一斉に銃口を向けた。
(――っ!)
アリスは即座に後方へ跳ぶ。
距離を切る。
その判断自体は間違っていなかった。
だが。
「逃がすかよ!」
――ダダダダダダダダダダッ!!
魔導ライフルの乱射が再開される。
近接用の双剣を維持したまま、後方武装群だけが一斉射撃へ移行した。
青白い魔力弾が暴風のように空間を埋め尽くし、アリスの退避軌道へ真正面から叩き込まれる。
「っ――《エリア・シールド》!!」
障壁展開。
――ガガガガガガガッ!!
着弾。
砕ける。
即座に再展開。
アリスは防御へ切り替えるしかなかった。
距離を開けた瞬間に弾幕密度が跳ね上がる。
しかも今度は、上下左右だけではない。
双剣。
盾。
ライフル。
すべてが同時制御されている。
「やばっ……!」
「近づいても危険、離れても危険じゃねぇか……!」
「なんだあの制圧力……!」
観客席が騒然となる。
アリスは《エリア・シールド》を前面へ次々に展開し続ける。
障壁が砕ける。
再展開。
また砕ける。
魔力弾の着弾衝撃が連続して腕へ響き、霜混じりの空気が爆風で吹き荒れていく。
(……危ない)
アリスの瞳が細くなる。
今の距離は危険だった。
近接なら双剣と盾。
距離を切れば超高密度弾幕。
しかもライフル群の射線制御が速い。
回避へ移る余白がほとんどない。
(防御に徹しないと抜けられない……!)
――ガガガガガガガッ!!
さらに弾幕密度が増す。
セオは止まらない。
いや、止める気がない。
「どうした!? さっきまでの勢いは!」
セオが笑う。
魔導ライフル群が咆哮を続ける。
アリスはその場で《エリア・シールド》を貼り続けるしかなかった。
前進できない。
回避しきれない。
一瞬でも防御が遅れれば、そのまま押し潰される。
青白い閃光が結界内を埋め尽くす中、アリスは静かに呼吸を整えながら、なおもセオの“流れ”を観察し続けていた。
どうだったでしょうか。
少しでも楽しんでいただけていれば嬉しいです。
このストーリーは、予約投稿は行わず、出来上がり次第、即投稿していきます。
そのため、投稿時間や日時は未定となります。
次のお話も、これから書きます。
少しずつの更新になりますが、気長にお付き合いいただければ嬉しいです。
本編も引き続き、よろしくお願いいたします。




