魚と人
春、ダンジョンコンビニの外も少しだけ暖かくなってきた頃
テッテレー♪ガー
「いらっしゃいませー」
「あの!あのあの!ちょっとお尋ねしたいんですが!」
胸に魚を抱きかかえた女性が、新生活フェアの商品を並べる店員に話しかけてきた
「あのあの、さ、最近ここにうちの子たちが来ませんでした?」
「いえ」
「あ、あの娘は旦那にそっくりなんですけど」
そう言うと、女性は抱きかかえた魚を店員の顔の前に差し出す。父親は、カレイなんですね
「目が渇いてますが・・・」
「きゃー!あ、あなた!大丈夫?ご、ごめんなさい!」
女性は慌てて、冷凍食品の保冷庫に旦那を放り込む
「そ、それで、あの心当たりとか」
旦那さんめっちゃ急速冷凍されてますけど
「似た方なら昨年の夏頃に御兄妹でこられました」
「ほ、ほんと!?やっぱり!あ、あのその時、あの子たちだけでした?ほ、他に誰か一緒にとか」
「・・・外のご姉弟の方も「やっぱり!!」」
女性は、髪をぐしゃぐしゃと掻きむしると保冷庫の旦那に駆け寄る
「あ、あなた!やっぱりあの子たち、ここでフォーリンラブしてたわよ!あ、怪しいと思ってたのよ。急に滝行で川上りしたいとか言いだすし、産卵の練習よ!き、きっと!今日もデートだわ!」
鮭の産卵ならわかるけど、ヒラメの産卵に川上りの練習が必要なのだろうか
テッテレー♪ガー
「妹よ、今、産卵されてもお兄ちゃん困っちゃ・・・って母さん!?なんでここに」
「な、何でじゃないわよ!あなたたち母さん達にウソついて!お、お父さんからもそんなおちょぼ口していないで、な、何か言ってちょうだい」
急速冷凍されたカレイがパクパクと小さな口を動かす
「あ、あなたたち!ここで逢引してるんですって!?」
「あ、逢引なんて・・ちょっといいなと思ってる子と会ってるだけで」
「そ、それを逢引っていうのよ!」
「あ、すみません、そちらは商品ではなくお客様です」
カレイの旦那さんが、ゴブリンに籠に入れられそうになっている。幻影魔法かかってるのにゴブリンって同族でも食べるんだ。ちょっと引く
テッテレー♪ガー
「いらっしゃいませー」
「姉ちゃん!俺の頭の赤い羽、曲がってない?」
「大丈夫、ばっちり。お姉ちゃんも腰当てにシワついてないかな?」
タイミングがいいのか悪いのかデュラハンが黒い馬に乗って入ってくる
「あ、」
「ま、まさかあの子たちがそうなの!?」
興奮したヒラメの妹の産卵が止まらない
気にすることなく兄がスキップで、デュラハン姉弟に近寄る
「こんにちは!今日はお日柄もよく!夏以来ですね!」
「こんにちは、お久しぶりです。あの、もしかしてそちらはお母様ですか?」
ピチピチ
「えっ!父ちゃんもいんの!?あーちゃんとした羽つけてくるんだった」
デュラハンの姉が馬からさっそうと降り、立膝をつくと深々とお辞儀をする。頭は脇に抱えてるけど
「あ、あなたたちがうちの息子たちを誘惑してるんですね」
「誘惑だなんて」
「母さん!」
「だ、黙らっしゃい!う、うちの子たちは純粋なんです!そ、そんなチャラチャラしたしたものを頭につけて、チョウチンアンコウみたいに!あ、あなたも何ですかその胸は!あてつけですか!」
ぺったんこーな女性がキャンキャンほえている。どうやら豊満な胸の彼女が気に入らないようだ
「す、すみません。み、見栄はっちゃて。これ・・じつは偽物なんです」
偽物というか、甲冑なんだから。中身が入ってないから偽物なのか
「そ、そうなの?」
「はい・・は、恥ずかしながら中身は、ないというか」
「Aカップも?」
「むしろマイナスです」
ちょっとだけ、可哀想な目でみている女性にデュラハンの姉が詰め寄る
「あの、お母様とても綺麗なお顔ですね、首との境目がないというか羨ましいです」
「え、そうかしら。これでもお化粧で厚くカバーしてるのよ。できるだけ首と顔のムラができないように」
「ぜんぜん分からないです!」
そりゃ顔と首がつながっているから分からないはず
「と、とにかく!学生のうちは健全なお付き合いをしなさい!川上りなんてまだ早いわよ」
「か、母さん!」
「え。私、まずは泳ぎを教えてもらいたいだけで、川上りまではまだ早いというか」
「あ、あら、そうなの?私てっきり」
「母さんの早とちりだよ!」
ピチピチ!
「じゃ、じゃあお父さん帰りましょうかしらね」
カチカチ
「あたためますか?」
チーン♪
礼儀正しい姉の態度と控えめな胸に、少しだけ仲をみとめた魚と人の夫婦は、新生活用品の中から、解凍付きの電子レンジを購入して帰っていった
テッテレー♪ガー
「ありがとうございましたー」




