〇〇さんちの大家族
夕方、商品もほどよく売れた頃、ダンジョンコンビニの休憩室からはうめき声が聞こえていた
その声はだんだんと大きくなり、息づかいも荒くなってくる。レジをうちながら、いつも無表情の店員が少しだけ、ソワソワしていた
(・・・兄ちゃん)
休憩室の方を振り向くと、ドアの隙間から2番目の
弟が小さく手招きをしていた
(兄ちゃん・・・産まれそう)
(大丈夫だ、さっき陣痛始まったばかりだから)
心配そうな顔で、兄に念波をおくる弟のあたまを軽く撫で、なだめると弟は小さく首を振る
(母ちゃん・・・回復魔法・・・使ってる)
「・・・・・」
店員はレジを一時的に弟に任せて、休憩室に駆け込む
ドアを開けると、スッキリとした顔の母親の前で、神々しい光に包まれている小さな赤ん坊が浮いていた
「あらぁ、マーちゃん、ちょーどよかったぁ、いもうと産まれたよぉ〜」
「回復魔法をつかったんですか」
「ママ、のど渇いちゃったぁ」
「回復魔法を使ったんですか」
「えぇ~だってぇ、痛かったんだもん」
だもんってぶーたれてる場合か。あれだけ回復魔法は使うなと忠告したのに。
回復魔法で陣痛が早くおさまるのは分かる。でも、成長速度も早まりかなり早く産まれてしまった。しかも、この母親が使う回復魔法は普通とは違う
聖魔法なのだ。
「娘の光で父親が浄化されそうになってます」
「あららぁ、パーパがんばってぇ」
娘に注がれた、聖魔法の中でも最上級の神聖魔法は、魔族系・悪系・不浄な者に属するものすべてを浄化する効果がある
聖女の血が混ざっている自分たちは耐性があるが、純正なオーガの父親は、両手を胸の前で組み目をつぶりながら、半分消えかかっている
「このままだと、ダンジョンまるごとここのコンビニも消えますよ」
「あららぁ、ニートになっちゃう。それはぁこまるわねぇーえいっ」
産後とは思えないテンションで、母親が手をくるっと回すと、赤ん坊から光が消え父親もはっとした顔で、我に返った
父親は、浄化されたままの純粋な顔と緑色の瞳で、産まれたてのカワイイ愛娘を見つめながら、抱きかかえようと近寄った。
瞬間、父親が後ろに吹っ飛んだ
「ブフォ!!ブフォ!?」
「あーら!もう産まれたのー!はやかったじゃーん!」
ふっ飛ばされたあげく、愛娘をよこから母親の親友に奪われ、空中を抱きかかえる父親
「ガーママぁきてくれたのー?」
「当ったり前じゃーん!はいオムツケーキ!間違って食べないでよー!あらやーだカワイイ!めちゃめちゃ美人じゃーん」
「ありがとぉ、あらぁ目が開いたぁ」
「まじだー!めっちゃ虹色!!えーでも、あんたは青色の眼じゃん。誰似ー?」
「えー?だれだろー?」
「まじで、うけるー!!わかった!あの温泉旅行の時の子でしょ!!」
「えーうふふふ、ナイショー」
自分の緑色の眼を手鏡に映して頭をかしげている父親を前に、店員は安堵を含めた大きなため息をついて休憩室をあとにした
ちなみに虹色の目は魔王の側近で、大魔法使いだった祖母にそっくりだ
レジ台の前では、弟が荷台で少し背伸びしながら、てきぱきと客対応をしていた
テッテレー♪ガー
「・・・(いらっしゃい)・・ませー」
「聞いてよ店員さーん!!ガーちゃんが、ここついたらめっちゃ噛む!!」
「・・・(はい)」
「もうさー!!なんていってるか分かんないんだけど!ガジガジするからおなか空いてるんだと思うんだけどミルク飲んでくんなくって」
異世界転生者が頭を噛まれながら、店員の弟につめよる。弟は、無言のままレジ下から石炭を取り出し机に置いた
「(たぶん、固形物が食べたいんだと思い)・・ます」
「え?え?ます?魚の?何、石炭で焼いたらいいの?」
石炭をみたガーゴイルが、目を光らせ無我夢中に石炭の箱に顔をつっこみかぶりつく
「え、ガーちゃん!なに食べてんの!だめ!あっ!!いた、痛い!!甘噛おぼえて!」
「(あ、お客さん、ごはんのとき近づきすぎると)燃えます」
「あっちゃーっっ!!火吐いたー!!!」
コンビニが火事にならないように、貯蔵庫から消火器を、持って弟が異世界転生者にぶっかける
「ブワッ!!なん!?これ泡スライム!?おえぇ〜口に入った!!」
「うるさい(と外のお客様に)・・めいわく(なので)・・お帰りください」
「急に口悪っ!あれ?なんか店員さん小さくなった
!?おわっ!いつの間にかレジにも店員さんがいる!」
ピロピロピロピロリン♪
「・・・・(ただいまー)」
「・・・・(おかえりなさい、兄ちゃん)」
「・・・・(おかえり、さっき妹が産まれましたよ)」
「・・・・(分かった、今日のおやつは)」
「・・・・(ガーゴイルさんの手作り卵プリンがあるので手を洗って食べなさい)」
「・・・(ボクも食べるー)」
「おわ!また店員さんが増えたっ!なになにっ!?ってかなんで無言で見つめ合ってんの!?」
ダンジョンコンビニ山田店に新しい家族が増えました