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『舞台裏のシステムを視る —— 表現と社会の往還』   作者: あっちゅ寝太郎


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幸豊かな国の食――新潟、土地の記憶

読者の皆様へ

新潟といえば、世間では「秋の米」や「冬の酒」がもたらす豊かさばかりが語られます。しかし本当にこの土地の幸の深さを知る者は、まだ雪の白さが残る早春から初夏へと向かう「山の息吹」にこそ、その本質を見出します。

本作は、私が実際に泥に触れ、包丁を握り、そして命懸けで山に入って舌で覚えてきた「本物の新潟」の記憶を綴った食文化エッセイです。

【第1話】山の息吹:名残りの山菜と、大地の目覚め

世間の人間は、新潟の食といえば秋の米や冬の酒ばかりを語りたがる。ほんの七割、いや、うわべの三割の知識だけで「新潟は旨いねぇ」としたり顔をするのだから、やれやれと首を振るしかない。本当にこの土地の幸の豊かさを知る者は、もっと前の季節――まだ雪の白さが残る早春から、初夏へと向かう「山の息吹」にこそ、新潟の食の本質を見出す。

その始まりは、いつだって「フキノトウ」だ。雪解けが始まる斜面や平地に、あるときびっしりと顔を出す。これを摘むなら、葉が開く前か、せいぜい開き始めのつぼみくらいまでが一番いい。サッと揚げた天ぷらの心地よい苦味、あるいは細かく刻んで仕込む「ふき味噌」。あの独特の香りを舌に乗せた瞬間、身体が長い冬から一気に目覚める。

そこから季節が移ろうにつれ、山は一気に賑やかさを増していく。

うど、コシアブラ、タラの芽、 tenderなアケビのツル――。芽吹いたばかりの山の恵みは、おひたしや天ぷらにして、だいたいその日のうちに胃袋に収めるのが一番の贅沢だった。口の中に広がる青い香りと、サクッとした歯応え。それはまさに、その日にしか出合えない山からの直球の贈り物である。

しかし、これらの恵みをあずかるには、山を歩く「確かな目と手」、そして「自然への畏怖」が必要だ。

たとえば「うど」も、雪が遅くまで残りやすい斜面を狙うのがセオリーだし、「アカミズ(ウワバミソウ)」を欲しければ、山中の小川のせせらぎや、かつて川だった形跡のある湿地へと足を踏み入れなければならない。

木に実る芽を採るとなれば、さらに駆け引きが必要になる。「タラの芽」は、木が大きく育ちすぎてしまうと、小学生の背丈じゃとても手が届かなくなる。鋭いトゲを慎重によけながら、大木を折ってしまわないように細心の注意を払って枝をたわめ、その先端の極上を指先で摘み取るのだ。

「コシアブラ」は、山の中でまずあの白い幹を見分けるところから始まる。だが、コシアブラもタラの芽も、山にはよく似た別の木が多く自生しているから一筋縄ではいかない。何も知らない者がうかつに手を出すと、最悪なことに「うるしの木」を触ってしまい、ひどい目に遭う。

何より、山はいつだって命懸けの場所だ。

茂みの奥からいつ飛び出してくるか分からないシカやクマの気配に神経を研ぎ澄まし、足元に潜むマムシを踏まぬよう、一歩一歩に目を光らせる。山菜採りは、彼らの縄張りを命懸けで「少しだけ分けてもらう」行為なのだ。だからこそ私は、体固めや足腰の衰えを自覚した57歳の頃、きっぱりと「山は引退」と決めた。引き際を知ることもまた、山に生きる者の大切な知恵なのである。

こうして無事に持ち帰った「わらび」はおひたしや漬物にする。なかでも、ぬかのたまり漬けにしたわらびは、今思い出しても絶品だった。先述の湿地で採ったアカミズも、塩漬けにして保存し、必要なときに取り出しては、肉や油揚げ、根菜類と一緒に油炒めにする。シャキシャキとした食感に油のコクが絡み合い、これまた最高の酒の肴になったものだ。

一方で、山には「山の流儀」がある。「ぜんまい」は山にたくさん自生していたが、あれには専門に採る家があるものだから、決して邪魔はしないのが暗黙のルールだった。何より、ぜんまいは揉んで干してを繰り返すその後の世話が、気の遠くなるほど大変なのだ。現代なら機械を使った別の乾燥方法もあるのだろうが、あの頃の、互いの生業を侵さない山の秩序と手間の重みこそが、山菜という文化の奥深さを支えていた。

手と目を動かし、山の厳しさと命の危険を体得してこそ、あのカラリと揚げた山菜の天ぷらの味が五臓六腑に染み渡る。その心地よい苦味の余韻を楽しみながら、視線は山から一気に下り、あの荒波の日本海へと向かうのだ。

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