68議会招集(ラヴァード)
俺はキアから聞いて急いでその商会に急いだ。
だが、一足違いだった。
商会の名前はウルフタン。あちこちの国と取引があり主にスパイスや薬草を扱っているらしい。
怪しいな。
そこにイルが現れる。
「イル!」
「ラヴァード様、城からフレイシア様の言った男を追って来たんです。男は老人の姿をしていましたが変装です。店に入って次に出て来た時には若い男に」
「そうか。実はキアから助けを呼ばれて来たんだが一足違いだった」
「キアから?誰を助けに?」
「フレイシアだ。あいつココアを買いに転移したらしい。そこで男が苦しんでいて助けたらそいつの魔力が何か怪しいと言ってな。キアに俺に連絡取るように頼んで店に入ったらしいが今キアからフレイシアが王城に帰っていると連絡があったんだ」
「はぁ~、もう、油断も隙もないですね。うちの姫は‥これじゃ私が奴を追った意味ないんじゃ?とにかく天狼のアジトかも知れません。交代で見張りを、私は急いでフレイシア様の所に戻ります」
「ああ、後のことはシグスに任せよう。俺も帰る。フレイシアの顔を見ないと心配だ」
「そんな事言ってフレイシア様のプリンが目的何じゃないんです?」
「イリ!お前バカな事を言うんじゃない。も、もちろんプリンも楽しみだが‥」
そして王城に帰って来た。
「ラヴァードどこに言ってた?王妃が議会に招集をかけた。エバンが正式にニルス国の交渉人だと言う書簡を見せた途端にだ。何かがおかしい」
叔父が苛立って俺を怒鳴った。
王妃の呼び出し?絶対何かある。そう思うがこちらにはまだ手持ちのカードがない。
「叔父上、先ほど天狼のアジトと思われる商会は見つけたんです。もう少し時間があれば証拠を掴めるかもしれないのに‥でも、逆に王妃は焦っているのかもしれません。ここはなんとか時間を稼いで王妃と天狼が繋がっている証拠を見つけなければ‥」
「ああ、そうだな。時間が欲しい」
議会室には既に王妃殿下、コバート公爵、シリオン公爵、ブラム侯爵、リュドス伯爵などが揃っていた。
「やっと揃ったわね。では議会を始めましょう」
王妃がにっこり笑いねっとりとした視線を俺たちに向ける。背筋がぞわりとする。何だこの気配は?何かがおかしいと思うがそれが何かははっきりしない。
それに比べてコバート公爵もシリオン公爵も表情が抜け落ちたような感情のない顔に見えるがこんな席ではこれが普通か。
叔父が王妃に問いかけた。
「はい、それで今日の議題は何でしょうか?これほど急な呼び出し。よほどの緊急事態と思いましたが」
「ええ、議題はニルス国についてよ。まったくあの国ときたら月光水晶を100年も返さなかったくせに今更何を交渉する気なのかしら?ねぇ、皆さん。ニルス国は正式に先日クリスを襲った大罪人エバン・チェスナット辺境伯をキアラルダ帝国に交渉人とすると書簡が届いたのよ。どんな神経でそんな失礼な事が出来るのかしら!私はいますぐにあのチェスナット辺境伯を処刑するべきだと思うの。図々しくもあの男は聖女フレイシアに言い寄って彼女をニルス国に連れ戻す気なのよ。こんな横暴が許せるかしら?皆さんはどう思われるかしら?」
「彼は処刑するべきです」コバート公爵がそう一言。
「彼は処刑するべきです」シリオン公爵も。
「彼は処刑するべきです」ブラム侯爵も。
「彼は処刑するべきです」リュドス伯爵も。
次々に議会にいる貴族が同じことを言った。まったく同じ事を。
「待って下さい!仮にもニルス国から正式な書簡が届いているのです。それを無視してこのような横暴な事をすればキアラルダ帝国の信頼は他国からどう思われるか!キアラルダ帝国はニルス国一国だけを相手にしている国ではありません。この大陸の国々すべての指針となるべき国なのです。帝国、それはこの大陸すべての責任を持っている国という事ではないでしょうか?」
叔父は必死で冷静になってほしいと説得を試みる。
「いいえ、だからこそ他国にキアラルダ帝国の強さを見せつけるためにもきっちりとした処罰が必要なのです。クリスを襲った時彼はまだ正式な交渉人ではありませんでした。それなのに我が国の次期王の命を狙ったのですよ。これが許せますか?皆さんいかがです?」
「彼は処刑するべきです」コバート公爵が。
「彼は処刑するべきです」シリオン公爵も。
「彼は処刑するべきです」ブラム侯爵も。
「彼は処刑するべきです」リュドス伯爵も。
他の貴族もさっきと同じことを繰り返した。
「コバート公爵、あなたは冷静で正しい判断が出来る人だと私は常々思っていました。いかがでしょう。私は今回のクリス殿下の事はチェスナット辺境伯自身が起こした事ではないのではという見解を持っております。どうしてもおかしい事が多くあるのです。ですからもう一度時間を置いて調べを進めた方がいいと思うのです。どうか、今一度考えなおして頂けませんか?」
叔父は柔らかな口調でコバート公爵に語り掛ける。
コバート公爵の顔が叔父に向く。
「彼は処刑するべきです」たった一言だった。
「ですが!」
「メイズ辺境伯。あなたもいい加減諦めなさい。皆さん、では処刑の日を決めましょうか」
王妃は終始笑顔だ。人の命を奪うと言うのに?
「待って下さい。こんな横暴な話許せませんよ。それに彼は聖女フレイシアの婚約者でもあるんです。これは聖女がニルス国にいた時に決まっていたことです。確かにキアラルダでの申請は却下されていますが二人が婚約者だという事実は変わりません。聖女の婚約者でもある彼を処刑するなんてきっと神は許しません。とにかく処刑の日は保留にして下さい」
俺は思わずそんな事を口にした。あの時正式に手続きをしたわけではなかったが‥それにこんな子供だまし通用するかもわからないが。
「ラビウド・メイズ様。そうお呼びした方がいいかしら?私達はそんな事実知りませんでしたわ。あなたわざとその事実を隠していたのね」
さすがの王妃も二人が婚約者だったと言われて躊躇したらしい。
はっ、この女反吐が出る。
「とんでもありません」
「まあ、ニルス国で決まった事などどうでもいいけど、後々おかしな言いがかりをつけられるのも‥ニルス国に書簡を送ってちょうだい。フレイシアとチェスナット辺境伯の婚約はなかったことにするように。そうね、ニルス国には向こう100年間キアラルダ帝国の要求を聞くようにとでも言おうかしら」
「お言葉ですが、王妃殿下の一存でそのような事はおっしゃらない方が、一応国と国の決め事ですので」叔父上。
「わかってるわ。メイズあなたいちいちうるさいわ。もう、辺境に帰ったらどうかしら?」
「はい、今の事態が落ち着き次期王が決まり次第戻るつもりでございます」
「‥いいわ。では、とにかくエバン・チェスナット辺境伯はこのまま牢に拘留。処刑は仕方がないけどしばらく猶予を与える。以上解散!」
王妃殿下は忌々しい顔で立ちあがると座っていた椅子を足蹴にして議会室を出て行った。
そしてその後を貴族たちがぞろぞろ出て行く。
まるで感情が抜け落ちたような人々。
なんだ?
「リュドス伯爵、ちょっとお話があるんです。これからお茶でもいかがです?」
俺はわざとリュドス伯爵に声をかける。
彼は一瞬俺を見たがすぐにぐるりと顔を前に向けてそのまま無言で立ち去った。
「叔父上。何かおかしいですよ」
「ああ、まさか、全員を洗脳しているのか?いや、まさかそんな事出来るはずがない」
「ですよね」
俺たちは言い知れない恐怖を感じた。




