67ココアが切れていたので
私は調理場でプリンを取り出しもう一度プリンを作った。ココアはどこだろうと探すが見当たらなかったのでココアはないかと尋ねた。
「ココアですか?」
調理場の人が探すが切らしているらしい。
「すみません。今は切らしてるみたいです。すぐに注文しときますんで」
「ええ、すぐってわけじゃないから。ありがとう」
頭の中で考える。私なら転移出来るんだしちゃちゃっと帝都の店に行ける。
プリンを冷やして部屋に戻る。
そこから転移してカラルーシの商店街に転移する。
うわぁ、賑やかな商店街。そう言えば街の散策なんかしてなかった。
聖女として聖教会に転移してから診療所と後は領地回りばかりだったからな。
私は色々な店に目移りする。ココアだけ買ったらすぐに帰ろうの決心はあっという間に忘れていた。
ドレスショップやきれいな宝石店。美味しそうなパン屋さんフルーツもたくさんあって目移りしてしまうが。
いけないいけない。今はココアを買って帰ろう。
お目当てのココアを買ってもう帰ろうとしていた時だった。
いきなりうめき声をあげて苦しんでいる男性が道路に。身なりからすると平民だろう。
40代くらいのがたいのいい男性だ。道に膝をつき苦しそうに顔を歪めている。鋭い顔つきだがエバン様に耐性のついている私にはそんなの通用しない。
迷わず走り寄って声をかける。
「大丈夫ですか?」
振り返った顔は蒼白で苦しみにまみれている。
「近づくな。あっちに行け!邪魔だ!」
男性は私を見て怒ったように邪険な態度を取った。
「でも‥「うるさい!すぐに良くなる。チッ!」
そう言いながらもあぶら汗を浮かべたその男性を放ってはおけない。
私はすぐそばでその男性に光を注ぐ。
(この人に月の精霊の加護を)そう念じながら。杖は持っているけどあまり見せない方がいいと思って使わずにおいた。
しばらくするとその男性がすっと立ち上がった。
「あんた俺に何をした?痛みが嘘のように引いた。いや、それだけじゃねぇ。長年ずっと胸にあった痛みまで消えた。あんた何者だ?」
やけに凄みのある顔。態度。そして天狼の仲間に感じたと同じ魔力の感覚。
えっ?気づかなかった。
この人‥もしかして天狼の?やばい。どうしよう。
「いえ、私はただの通りすがりです。気にしないでいいですから」
ゆっくり男から逃げるように後ずさる。
「いや、違うんだ。あんたに礼がしてぇ。いいだろう、俺はそこの商会のもんだ。茶でも‥いや、もう昼時か。飯でも奢らせてくれ。せめてそれくらい礼をさせてくれ。何もあんたをどうかしようなんて思ちゃいねぇ。このまま返したら俺のメンツが許さねぇって事だ。さあ、こっちだ」
うそうそ。この人きっとやばい人。身体に感じる嫌な魔力。
でも、嫌だって言ってもきっと言うこと聞かないんだよね。こういう人は。
(キア、すぐにラヴァード兄様に知らせてくれる?)
(うん、すぐに行って来る。すぐ戻って来るから安心して)
脳内でキアとやり取りをし終わるとその男の人について行く。
その人が言ったようにすぐ近くの商会の中にその人が入って行く。
「こっちだ。心配すんなって。おい、帰ったぞ!今しがたそこで俺が苦しんでるところを助けてくれたお嬢さんだ。礼をするから何時ものを買ってこい」
「はい、すぐに行ってきます」
男の使用人が走って出て行く。
私は遠慮がちに店の中に入る。ここが天狼のアジトだったらどうしよう。でも、表向きは商会だし‥
おどおどしながら店の中を見渡す。
どうやら店は薬草やスパイスを扱っている店らしい。色々な薬草の匂いやスパイスの香りが漂っている。
「すまねぇな。うちはいろんな調味料や薬草なんかを扱ってるんだ。ここは匂うだろう?さあ、奥に入ってくれ」
「‥あっ、はい」
店の奥に入ると部屋に中に通された。
むっとする薬草の匂い。何だろう?
男がドカッと椅子に座り私にも座ってくれと言うので向かいに座る。
「すまんがあんたをここに案内したのは訳がある。礼はするから、子供を見てくれないか?」
「お子さんが病気なんですか?」
「ああ、俺の子なんだが、あの疫病にかかってなぁ」
「疫病って、だったら聖教会に行けば聖女が治してくれるんじゃ?」
「いや、他国の人間は入れてもくれない。街の診療所でも見てくれなくてなぁ、いや、仕事の関係で他の国の人間もいるって言うのに。俺の子供は生まれつき弱くてこの疫病ですっかり悪くなって。いや、あんた魔力が強そうだろ。それって治癒魔法じゃないのか?まあ、今噂の聖女のようにはいかないだろうけどよ。少しでも楽になるなら、なっ、頼む!」
ああ、ここにも現実があると思った。悪い人なのかもしれない。でも、人に隠れるような仕事では病気でも診療所に行けないのかもしれない。まして子供だとすれば放ってはおけないな。
「いいですよ。子供さんに合わせて下さい。私で力になれるなら」
「ありがてぇ、すまない。あんた名前は?」
「ふ‥フェイと言います」とっさに嘘をつく。
「フェイか。いい名じゃねぇか。わりぃな。後で飯奢るからよ」
「あの、お兄さんの名前は?」
「俺?おれはナジって言うんだ」
すぐに隣の部屋に案内された。
そこには3歳くらいの男の子が寝ていた。すぐそばにはやつれた多分お母さん。
「おい、この人すげぇ魔法使えるんだ。だからカロの病気も治るんじゃないかって頼んで来てもらった」
「ナジ、そんな知りもしない人に‥」
「ばか、カリンそんな事言ってる場合じゃないだろ!」
男の子の息は弱い。きっとかなり熱もあるのだろう。
「見せて下さい。何も危害は加えません。安心して下さい。その子を治します」
とっさに身体が動く。
カロと言われた男の子に手の平をかざす。魔力の渦が男の子を包み込んで病の根源を絶つ。そして治癒魔法で弱った身体に体力を与える。いつもはこんな事までしないけど、彼はすごく弱っているから。
「これで疫病は治ったはず。後は水分としっかり食事をとればもう大丈夫です」
カロ君の目が開いた。
「お母さん‥」
「カロ?ああ、カロ。良かった。もう、だめかと‥ありがとうございます。あなたにひどい事を言ってごめんなさい」
「フェイ、ありがとう。やっぱりあんたすげぇな。あんたにゃ飯ぐらいじゃ済まされねぇな。何でも欲しいものを言ってくれていいぞ」
「お礼は結構です。カロ君が良くなって良かったです。じゃ、私ちょっと急いでるので‥」
「まあ、そういうなよ。急ぐなら今度改めて礼に行く。住まいはどこだ。教えてくれ」
「いえ、ほんとに‥では失礼します」
私はナジさんが引き留めるのも聞かず急いで店の外に飛び出す。
そして路地裏に走り込んで転移した。
「おい、待ってくれ。まだ、住まいを聞いてねぇ。おい、シェル。あれ、どこへ行った。あいつ‥ったく。何で!お前、知らないだろうが俺の長年の呪いを解いたんだぞ。シェル、お前はすげえ奴だ。これ一緒に食おうって思ってたのになぁ‥」
これ、この辺りで一番の高級弁当なんだぞ!!




