30裏切り
エバン様は朝になっても帰って来なかった。
おかしいわ。いくらなんでも遅すぎる。
他の騎士達は夕食ころには帰っていた。
ラキスさんがアレク王太子が病気だと言う噂を聞いて来た。何でもカトリーナ様が治癒に当たっているが思うように回復していないらしい。
もしかしてキアラルダ帝国の仕業なのでは、そんな事でエバン様の帰りが遅いのかもしれないとも考えたが‥
「ラキスさん、スクトさん、隊長はまだお帰りじゃないのかしら」
「ええ、そうですね。連絡があってもいいと思うんですが‥何しろ隊長ですし」
「ええ、久しぶりの再会でグラスリン侯爵とお酒でも飲んで酔っ払ってるんじゃないですか?隊長も仕方がありませんね。こんなにフレイシアさんが心配しているのに‥もう少し待ってみましょうか」
私が心配をしているのを知ってスクトさんがそんな事を言った。ほんとに彼らは優しいって思う。
昼前に私を訪ねる人があった。
「フレイシア。王都は追放になったはずだが、どうしてお前がこんな所にいるんだ?」
「ジェリク殿下!どうしてここに?」
ジェリク殿下は王国騎士を数名連れている。
ずかずかと部屋の中に入って来ると。
「まあいい。聞いたぞ。今度は叔父を手玉に取って王都に連れて来てもらったのか。ふん、淫乱聖女のやりそうな事だ!。おい、お前にいいものを見せてやろう。俺と一緒に来い!」
「いやです。あなたになんか触られたくもない!」
「いいから来い!」
「あの、殿下、いくら何でもそれは‥」
遠巻きにラキスさんスクトさん護衛騎士たちも止めようとするが。
「お前らわかってるのか。俺は王子だぞ。俺に逆らう気か?不敬だぞ!」
「みんな下がって。私が悪いんだから、いいから隊長が帰ってきたらこの事を知らせてちょうだい。頼んだわよ」
「ですが‥」
「おまえらは下がってろ!フレイシア行くぞ」
私はジェリク殿下に無理やり馬に乗せられた。後ろにはジェリク殿下が乗りしっかり腰を抱きかかえられた。
「まったく罪人のくせに、王都に戻って来るなんて‥やはりお前はカトリーナの言う通りとんでもない女だったな」
「私は何も悪い事なんかしてません。ただ、殿下が婚約者を変えたいから私に罪を擦り付けただけじゃありませんか!」
以前は遠慮して言いたいことも言えなかったが今は平然と本心が口を突いて出て来た。
「ふん、お前が何を言おうと信じる奴はいない。勝手にほざいてろ!今に面白いものを見せてやる」
ジェリク殿下は一方的に私を蔑むと相手にしなくなった。
ぐっと掴まれた腰は遠慮のない彼の腕が回されものすごく苦しい。
ふっと、昨日エバン様と一緒に乗ったキャラメルとの楽しかった出来事を思い出す。
ジェリク殿下とは一度だって二人きりで出掛けたことなどなかった。
一度だってプレゼントをもらった事もなかった。
私は婚約者という囚われの罪人で彼の思うように動く人形だった。
そして今も私に対する扱いは以前よりもっとひどい。
この人は…こんな人を好きだって思ってたなんて。
無性に虚しさを覚えた。
*~*~*
王宮に着くとジェリク殿下に引きずられるようにして王宮を進んでいく。
何度も見たことのある扉。殿下の執務室。そして客間。ここで貴族の治癒をした事もあった。
そしてさらに奥に進んでいく。
「一体どこに行くのです。いい加減に放してください!」
「ああ、もう着いたぞ。ほら、この部屋だ。入って自分の目で確かめるといい」
私は開かれた扉から突き飛ばされるように部屋の中に押し込まれた。
衝撃で足がもつれて床に転んだ。
昼だというのに重厚なカーテンが引かれて部屋は薄暗い。それでも目が慣れてくると何となく家具の位置などが見えた。
「あ、ぁぁ~ん、えばんさまぁ~」
「カトリーナ‥もっと、もっとほしい‥」
この声は‥それが何をしているのか知らなくても想像がついた。
私は床を這いつくばるようにしてその声のする方に向かった。
ベッドの上で二人の男女が抱き合い肌を擦り合わせている。
「くちゅ、ねちょ‥はぁ、んっ、あぁぁ~」
見ない方がいい。耳の奥で危険信号が鳴っている。それでもどうしても見たい衝動に抗えなかった。
衝撃的な光景が‥
「え、ばん。さま‥どうして‥どうしてカトリーナと‥そんな」
目の前ではエバン様とカトリーナ様が裸で抱き合い互いをむさぼりあっている。
男と女が愛し合う行為を行っていたのだ。
「そんな‥」
私は全身の力が抜け落ちた。
ジェリク殿下は平気なの?婚約者が他の男の‥しかも王宮の中で昼間っから堂々と。
信じられない事が起きている。
いくらなんでもひどすぎる。
(フレイシア?大丈夫)
突然キアの声がした。
(キア?私もうどうしていいかわからない。どうしてみんな私を裏切るの?どうしてこんな目に合わなきゃならないの?どうして?ねぇ、キア。こんな国もうどうでもいい。私今すぐどこかに消えてしまいたい!)
(フレイシア‥ああ、こんな仕打ちをされて‥もう、許さない。私はお前たちを許さない。ずっと聖女を苦しめて来た。何人もの女が泣いて苦しんで‥それなのにこの国の人間は!!)
目の前にキアが現れた。でも、小さな女の子ではない。大人の女性。まるで月の女神キアーナ様の彫像が具現化したみたいな‥
そんな事を思っていると、いきなりまぶしいほどの光が現れた。
「これは月光水晶‥」
(ええ、この国は滅びるといいわ)
キアの?‥冷たく絶望的な声が脳内で響いた。
その瞬間!月光水晶の真ん中にどす黒いものが広がった。それはあっという間に月光水晶を真っ黒にした。
そして次の瞬間、月光水晶は弾け飛んだ。パリーンと激しい音とともに粉々に砕け散った。
そして私はふわりと身体が軽くなりそのまま意識を失った。




