交錯ー4
「ヴァン?」
宿屋の一室にて集う六人の魔術師。椅子に腰をかけ、何やら考えこんでいる様子のヴァンにリックは声を掛けた。
目を覆う長い黒の前髪。返事はなく、顔は床の一点を見つめている。
「ヴァン、リックが呼んでるわよ」
綺麗に整えられた金の長髪、細身の体型をした女性がヴァンに近付き、肩を叩く。
「……どうした、エリザ」
「リックが呼んでる」
「大丈夫か?」
心配をするリックに小さく頷くヴァン。
「怒ってる……?」
リックの横に座っていたクルミが小さな声を出す。背もたれのある長椅子に立てた両膝を腕で抱えては不安そうな表情でヴァンを見ている。
「私が、失敗したから」
「いや、クルミはよくやった。むしろ素晴らしい成果だ」
「え……?」
ヴァンの言葉にクルミが惑う。
「オリヴィエの件はダメ元だ、失敗しても問題ない。確かに、彼女の魔術は厄介だ。だが当然ながら彼女でも死者を甦らせることはできない。ーー我々の敵は教団だ。敵対する全てを必ず殺せばいい」
「……俺とクルミの顔が割れてることについては」
リックの不安を前に、ヴァンの様子は何一つ変わらない。
「顔が割れた程度で、何だ? 目的が変わるのか?」
顔と名前が割れたことで、この場にいる六人の素性はもうーー
それすらも意に介さないと、目の前のヴァンは告げる。
「遅かれ早かれ教団は気付くだろう、我々の存在に。だが構わないだろう? その程度で俺達の覚悟が揺らぐことはない。世間からどう見られようが、為すべきことを為すだけだ」
それにと、クルミに視線を向けるヴァン。
「クルミ、そう落ち込むな。解錠を会得した、それだけで余りあるほどの成果だ」
「……うん、ありがとう」
「そうだよクルミちゃん!」
ベッドに腰をかけていたモニカが突然大きな声をあげ、その場にいた皆が驚く。三つ編みの黒髪に、大きな丸眼鏡が特徴的な彼女がクルミを元気付けようとしている、その優しさをリックは直ぐに察していた。
「凄いよ、解錠できるなんて!」
「あ、ありがと、モニカ。でも私……」
「でも解錠して負けちゃったんでしょ?」
ベッドで仰向けに倒れていたシャルルが口を挟む。くせ毛が目立つ白髪、やる気のない声。常に気怠げな彼はクルミに目を向けず、天井を見つめたままの姿勢で口を開く。
「大したことないじゃん。僕だったらそんなヘマしな、あいたっ!?」
同じベッドにいたモニカがシャルルの額に手刀を振り下ろす。痛みで体を起こした彼がモニカを睨む。
「なにすんだよ!」
「シャル君。謝って」
「はあ? 僕べつに間違って、」
「謝って」
「……はい、すみませんでした」
クルミに頭を下げるシャルル。
小さい頃から、彼はモニカには頭が上がらない。
「クルミが敗北したのも無理はない」
無感情にも聞こえる話し方に、皆が目線を向ける。
「相手した少年ーーマーリンのことだが、名前の通り、あのマーリンだ」




