交錯ー3
「彼は元気にしていたか?」
かきあげられた白い髪、少し伸びた顎髭が象徴的なゼノ・エルドラと窓際で会話を交わすアッシュ・クロフォード。現在、会議の場には二人だけが残され、先の騒ぎとは打って変わって静けさが漂う。
「マーリンと同じ質問ですね」
「ん?」
「彼も国王が元気にしているかどうかを聞いてきたんですよ。腰を悪くしていると伝えたら、……あー、ええと」
「さっさとくたばれ、とでも?」
「いや、そこまでは。ただ、ざまあないなと冗談を口にしていました」
それを聞いたゼノが笑い声をあげる。
「言われて当然だな、優しいほうだ。……当時、彼には酷い態度を取ってしまった」
「その話も聞かせてもらいました。厄災チェノースが訪れた際、ブリタニアに支援を願い、二人しか来なかったことに対して怒りを露わにしたと」
「恥ずかしい話だ。もう、十年になる」
どこか、遠い目。
「マーリンの逸話は知っていたが、それでもエルドラの隊長格と同じ目で見ていた。覚えておくといい、アッシュ。歳をとると視野が狭くなる。私の跡を踏むなよ」
「気を付けておきます。……そういえば、マーリンもまた悔いていましたよ」
「ほう?」
「ひとの気持ちを考えることができていなかった、と」
それを聞いて国王が目を丸くする。
予想だにしない言葉だったようだ。
「そうか。彼がそんなことを……」
「意外ですか?」
「意外……そうだな、意外だ。出会った頃の彼は近付き難く、周りに流されないような孤高の存在に見えた。だから報告書を見て驚いたよ。自主的にオリヴィエを守り、わざわざ彼は事の顛末を現地の隊員に説明してくれた。私のイメージとかなりズレが生じている」
「是非、目にしたかったですよ。その頃のマーリンを」
「目にすれば、魔術師としての常識は壊されていただろうな。神様の最高傑作ーー誇張でも何でもなく、ナナの言う通りだと思ったよ。あれは、比較してはならない」
魔術師の理から外れた存在と断じるゼノの言葉を受けて、ますます会ってみたかったと思うアッシュ。
「話を変えよう。ーーエディとダレンを殺した、我らが仇敵について」
ゼノの声色が変わる。
それだけでアッシュの身に緊張が走る。
「敵の立場になって、奴等が次にとってくる策とは何か。我等を皆殺しにする、その目的に変わりはないだろう。奴等は障害となり得る全てを排除しようと動くーーオリヴィエを狙ったのもそれだ。だからこそ未然に防いでおきたい」
そこでアッシュも気付く。
国王の、真意を。
「考え過ぎであればいいが、事が起こってからでは遅い。厄災から救ってくれた恩義に報いるため、必ずしや教団はーー」




