5ー11
回想が終わって、意識が現実に引き戻される。宿をとりに行こうと少年が口にしてから再び沈黙が訪れる。気まずい空気の中、歩き続ける二人。
オリヴィエを信じ踏み出そうとして、三日が過ぎている。勇気が出せない自分に失望するカナメ。先程、リアから言われた言葉がいまでも耳に残っている。
『もしマーリンが元の姿に戻れたら、貴女、用無しだよ?』
用無し。
心臓を掴まれたかのような、核心を突いたその言葉にカナメは何も言い返せなかった。その通りだと思ったからだ。この旅が終わればきっとマーリンとの関係はなくなる。当然の話だ、彼はブリタニアの英雄で、円卓の魔術師だったのだから。自分の時間と彼の時間は価値がまるで違う。
憂鬱な気持ちのまま歩を進めていると急に立ち止まる少年。
「マーリン?」
「宿をとる前に」
カナメの前を歩いていた彼が振りかえる。
「歩きながら、少し話そうか」
安心させるような、柔らかな表情。
そうして彼は語り出す。
カナメが踏み入ることのなかった、過去の話を。
「俺とヴォーティガーンは孤児院で世話になっていてな。お互いに両親を知らない」
穏やかな日差しの中、建築物の少ない通りを歩くマーリンとカナメ。周囲に人の声はなく、話をするには丁度いい静けさだった。
「幼い頃から生活を共にし、何をするにしても一緒にいた。互いに魔術の研鑽を積み、行き着く先はキャメロット城に仕える魔術師だ」
いつもと変わらない様子で言葉を紡ぐマーリン。
口を挟まず静かに話を聞くカナメ。
彼は思い返す。地面に刻む小さな足跡は昔、一人ではなかったと。
横に並んでいた、あの頃を。
ゆっくりと少年は思い出す。
「俺は先に円卓の席に着き、次いでヴォーティガーンも席に着く予定だった。だが二人でエルドラへ遠征している間、孤児院が魔物に襲われたんだ。円卓の魔術師が出向く頃には、故郷に生き残りは誰一人としていなかった。そしてヴォーティガーンは円卓の話を断った」
厄災チェノースを殺し、先に帰国したマーリンの耳へ真っ先に届いた悲報。遅れて、ヴォーティガーンもその惨劇を目にする。
いまでも覚えている。
何故、円卓の魔術師がいながら。
ヴォーティガーンが発したその声は、怒りで震えていた。
「その頃からだろう。ヴォーティガーンが円卓に対し、キャメロットに対し、不信感を露わにしたのは。それでもキャメロットをあとにすることなく、魔術師としてアイツはブリタニアを護る為に戦い続けた」
過去を紐解くようにして一歩前へ。
すれ違う幻影を横目で見れば、悲壮に暮れた友の姿がそこにはあった。
「そこから俺とヴォーティガーンはあまり話さなくなってな。故郷の件から暫くして、ヴォーティガーンが着く予定だった席にロウィーナという術師が選ばれた」




