5ー10
少年とリアの目が合う。
「もし会うことがあればずっと聞こうと思ってた。どうして、ヴォーティガーン様の魔術を避けなかったの?」
唯一の油断だとアッシュに言っていたマーリン。
あのときは何処かはぐらかすように言っていた少年の言葉に、納得するものは誰一人いなかっただろう。それもそのはず彼は弱体化して尚、解錠をした魔術師相手に解錠なしで返り討ちにするほどの実力者だ。
全盛期の魔術王マーリンが、複雑な術式が絡んだ魔術を回避できない、なんてことが有り得るのだろうかと誰もが疑問に思うこと。その答えをいま嘗ての部下に聞かれている。
「避けては駄目だと思った」
一切の迷いがない返事に、面食らったような顔をするリア。
過去を振り返って、前を向いたマーリンの表情が、カナメにはとても眩しく見える。
「アイツの気持ちにいままで気付くことができなかった、見向きもしなかった。だからせめて最期だけは……それを罰として受け容れたかった」
「…………そう」
マーリンとカナメから顔を逸らし、再び頬杖をついたリア。少年の返事が納得のいくものだったのか、不満が残る言葉だったのか。ここからでは表情が見えない為、読み取ることはできない。
長い沈黙。
村に着くまでの間、三人の誰もが言葉を交わすことはなかった。
「道ですれ違っても話しかけてこないでね、二人とも」
目的の村に辿り着き、荷台から降りる際に放たれたリアの言葉は冷たい。フードを被り直し、二人の顔を見ることなく背中を向ける。
「さようならマーリン。もう二度と私の人生に現れないで」
そう言って、彼女はマーリンとカナメの前から去っていった。
その間、無言だった二人。
いまになって、カナメはオリヴィエとの遣り取りを思い出す。
『子供に戻れなくなって、嬉しいと思ってしまった自分がいる、か』
『…………はい』
三日前、オリヴィエの衣服をとりに宿まで足を運ぶ中、カナメは彼女に悩みを打ち明けていた。朝の様子からして心配をしていたというオリヴィエ。シルバの通りを歩きながら、親身になって聞いてくれる彼女にカナメは本心を晒していた。
『それで自己嫌悪に陥っていると』
『オリヴィエさんがマーリンを診て、戻らないって分かった時、……私は心の何処かで安心してました。そんな自分が、気持ち悪くて……』
『そうか』
そっと頭に掌が置かれる。
優しく撫でられて、泣きそうになるカナメ。
『話してくれてありがとう、カナメ。別に気持ち悪くなんかない。旅をして、楽しくて、それが長く続いてほしい、なんてのは当然の感情だ』
『でもそれは、私が一方的に楽しいと思ってるだけで。マーリンは早く元に戻りたいだけだと、そう思って、』
『いまカナメが不安に思うのも、彼の考えを聞いていないからだろう。少し時間がかかってもいい。勇気を出して聞いてみるといい、マーリンに。いま思ってることを全部伝えたうえで、彼の考えを聞くんだ』
『……怖いです』
『ああ、怖いと思ってる内は無理しなくていい。勇気が出てきたら踏み出すといいさ。大丈夫、きっと上手くいくよ』




