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少年のマーリン  作者: 相澤
第8話 アラディアの死闘 後編

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8ー25





「……大丈夫だ。心配ない」


 黒龍の鳴き声に返事をするヴァン。

 限界を越えた亡が粒子となって霧散していく。移動の要となる黒龍が傷つけられる訳にはいかないと、身を挺して彼は七斬の前に立ちはだかった。

 その結果。

 

「これで予言通りになった訳か」


 空からこぼれ落ちる赤い雫。

 斬撃を全て防ぐことができなかったヴァンの左腕は綺麗に切断され、血が流れ続けている。届く筈もない場所にも関わらず、その刃は、殺意は、自身を絶対に逃さない。

 あれが魔術の王。弱体化しても尚、術師としての格が違うと改めて認識する。亡は通常の魔術であれば全てを無に帰すほどの一刀だというのに、先の魔術は解錠に並ぶほどの魔力を感じた。自身が闘っていたのは正真正銘の化物。全魔術師の理想、その頂に君臨する魔王だ。

 しかし、解錠をした術師二人とアレを相手どってよく生き残ったものだとヴァンは自身を賞賛する。その代償が腕一つで済むなら安いものだ。

 こうして死闘の幕は閉ざされた。

 晴天を征く黒龍。

 隻腕になっても尚、黒い瞳に翳りなく。

 エルドラの風を受け、口元の血を静かに拭う。





 騒動がおさまったあと、医務室でマーリンとアイザックが教団員とギルド関係者に事情を説明した。その場にはドロシーとカナメもいて、少年はそこで自身の正体を明かす。ブリタニアの元円卓の魔術師、マーリンであることを。

 それを聞いたギルド関係者の態度は急変した。マーリンといえば過去にエルドラを救った英雄として扱われている。ギルド職員からの恭しい態度、言葉遣いを見聞きして、少年は少し嫌そうな顔をしていた。

 教団とギルドは確執があることからマーリンの情報を共有していなかったようだ。そもそもアイザックは部下にすら作戦を伏せて一人で行動を起こしていた。敵に逃げられないよう確実に追い詰める為に。そこをギルド職員は問い詰めて、アイザックの部下達は反論し、揉めに揉めた。


「どれだけの損害が出たと思ってる!? 民の税金で食ってるだけの役立たずが!」

「事態が起きてからでは遅いだろう! こんな大事なことを隠して馬鹿なのかお前達は!?」


「敵は一人だと限らない、大勢が知れば作戦を知られるリスクも当然増す。隊長の真意が分からないのか?」

「避難誘導もせず、民を置いて真っ先に逃げてた老害は態度だけが大きい。所属してる術師は優秀でも大元はアレだな」


 醜い争いの中でそっと退室する彼女を、カナメは追う。

 その小さな背中に話しかけるのには、少しだけ勇気がいる。マーリンがあのマーリンであることを彼女には話していない。隠していた、というと語弊がある。簡単に明かしていい話では決してない。けれども、それをどう受け止めるかはドロシー次第だ。


「ドロシー」


 怒ってないだろうか。

 円卓だったマーリンよりも遥かに弱くなった少年を相手に接戦だった、その事実を彼女はどう思ったのか。

 振り返ったドロシーと目が合う。


「カナメ。休まないと」


 真っ先に自分を心配する言葉を聞いて、カナメは泣きそうになった。

 ーー優しさが過ぎる。

 必死な形相で自身を安全な場所へと運んでくれて、周囲の術師に事情を説明してはカナメを護るよう頭を下げていた。他者には何処か壁があったように見えた彼女がそこまでしてくれたというのに。


「ごめん、ドロシー。マーリンのこと、言ってなくて」


「……? 何でカナメが謝るの?」


 首を傾げるドロシー。


「本当にあのマーリンなら、正体を伏せるのが普通。それに、よく考えてみてほしい」


 真面目な顔で、カナメの目をじっと見る魔女。


「あんな子供、普通いないでしょ」

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