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『パパの日』が増えた。
五日連続で私はパパの部屋に連れて行かれた。その時間帯は全て、私がすっかり存在を忘れていた朝だった。私が朝日が昇っても眠そうにしているのを見たパパは、私が見ても分かるくらいに訝しげな表情をしていた。直接咎められはしなかったが、パパは少しずつ乱暴になっていった。
この頃の私の身体は、錆びた鉄のように動きにくくなっていた。それでも私は行動をやめなかった。
リタの傷は日を追うごとに増え、彼女の顔は歪んでいった。右頬が異様に盛り上がっていたり、肌の色が赤と紫に侵食され、乳白色は追いやられていた。出血をしているところもあり、首や腕、お腹、足、全身には拳ほどの大きさのあざが出来ていた。
私がリタに会いに行くごとに彼女の表情は暗くなっていき、遂には笑顔が消えた。私は彼女に光を失ってほしくない一心で、会うたびに抱きしめては声をかけた。彼女は空返事こそしてくれたが、儚く、今にも消えてしまいそうだった。抱きしめている間、リタはよく私の髪を噛んだ。耳元で髪が切れる音を聞いた。私は何も言わなかった。
アイリとムウも『パパの日』が増えたらしい。彼女たちに会いに行くと、ふたりとも身体にあざを作っていた。現状を確認すると、やはりパパの乱暴が増えたという。そのせいで、夜の密会を開く頻度は低くなった。一週間のうちに一回も会わないこともあった。精神的にも身体的にも余裕がなくなり、自身の状態から相手を気遣ったためだった。
会わない代わりに、私たちは壁を叩いて合図を送り合った。簡単な合言葉を決め、意思疎通を図った。叩く回数、音の強弱、リズム、片手と両手の組み合わせなど——気が付けば簡単ではなくなっていた。ノックの音は、相手の顔が見えなくても、私たちの心を繋いでくれた。あの頃の私たちの時間が戻ってきた気がした。私の心の中には、みんなの顔が思い浮かんだ。
『パパの日』を終えたある日、私は積み重なる疲労さえも忘れ、日記に書き殴った。
このまま日々を過ごせばいつか崩れる。こんな日々と別れなければならない。そのためには願いを叶えなければならない——。
『計画』は事細かく書き記した。鉛筆の芯が丸くなって書きづらくなっても気にしなかった。鉛筆の削りかすも机や床にばらまいたままだった。
書いている間、いつしかリタの部屋で感じたあの危険な感情が、燃えるように顔を出した。今がこの感情を飼いならす時だった。この炎が消えないうちに、一つでも取りこぼすことなく紙に書き殴った。力を加えすぎたあまり、鉛筆が音を立て、真二つに割れた。尖った木片が手のひらの肉に刺さり、赤黒い血が滴る。痛みに我に返ると、日記は最後のページの最下部まで到達していた。私は電池の切れた機械人形のように椅子の上でうなだれていた。
『計画』を書き終わってからも作業を続けた。血を舐めながら何度も推敲を繰り返した。みんなに見せるその時まで行うことにした。どんな反応をされるだろうか。きっと驚かれるに違いない。何を考えているの、と心配されるだろう。反対されるかもしれない。しかし私は本気だった。相変わらずのミミズ文字だが、何を訊かれても答えられるようにした。
内容に自信はあった。ただ一つ、気がかりがあった。
——本当に、これをやっていいのだろうか?
私たちは私たちを守らなければならない。そのために『計画』は書かれた。私がやろうとしていることは、私たちの安寧を得るための反逆に他ならない。この現状を変えるための一手は、しかし見方を変えると、他人を不幸に陥れる行為そのものだ。つまり、私が考えた幸福論はその前提として、人の不幸を踏み台にし、奪った幸福を両手に掲げて笑うという、悪逆の限りを尽くした非人道的行為である。
——本当に、これをやらなければならないのだろうか?
いくら考えても、私には分からなかった。こうしなければみんなを救うことはできない。ただ蹂躙されて終わるだけ、それだけは嫌だった。炎上するこの危険な感情に従うのならば、『計画』は最後まで完遂しなければならない。
人間関係とは難しいものだ。そう思う。




