マツカイサ帝国首都バイチーク
大陸最大級の首都。マツカイサ帝国バイチークへ
数日後、ミフとブノは毎月首都“バイチーク”とノシン村とを結ぶ定期船で大きな河を下っていた。
教師さんからバルジャック王国と神隠しが消滅したのは同時期という共通点と言うことを指摘され、俺はこれから元バルジャック王国へ行くことを当分の目的とした。
服をブノから二式ほど旅用のものを譲ってもらい、この世界に墜ちてきた際に着ていた黒い戦闘服の上に着ている(戦闘服は、結構薄くてごわごわしない)。木綿の茶色いマントを着け、帽子を被る。
刀は、武士のように腰へ差すことにした。
帯刀は、特に問題の要らない世界のようだ(それほど、物騒な世の中の裏返しでもある)。
今回、用事があると言って、ブノが首都まで一緒に行くことになった。
俺の首都までの案内人の役も頼んでいるが、あれからお互いの空気はよろしくない。
というより、ブノは何かを隠している。
どうにかして会話が出来るまでコミュニケーションは改善したが、肝心なところは教えてもらえない。
本人は、お守りとして教師から返されたという紅い槍を船の上で手入れしていた。
元々槍の扱いに長けた天才で、騎士団にも所属していたらしい(とフームから聞いた)。
フーム達と小麦を教師さんに預けてお留守番だ。かなり、むすっとした顔で不機嫌そうだったが仕方ない。
この形で、首都まで続くと思ったが……。
「何で、ここにいるんだ」
「だって、ブノ。顔がこわいんだもの。」「む…。」
かなり河をくだった村へ寄港した際、可愛い同伴者が船から発見された。
その時、かなり本気でブノは叱っていた。
戻るのも面倒なので、と仲裁を行い、三人+一匹で首都に向かった。
○マツカイサ帝国首都“バイチーク”
ノシン村での乗船から四日目の夕方。バイチークに到着した。
乗った船は波止場の同じような大きさの船が泊まっている中、決められたスペースに着岸する。
揺れる湿った木の足の感覚から久しぶりのしっかりとした地面の感覚に、私は懐かしさを感じる。
バイチークは賑やかな街だ。
イストール地方トップの国マツカイサ帝国。
その首都バイチークにはイストール地方の様々な人やものが溢れる物流の要にもなっている。
船で海や河川を通り、ちょうど海と内陸の玄関であるここに集まってくるからだ。
市場に足を踏み入れると色々なものがあって目が回る。
遠くにはマツカイサ城の屋根が、周囲を高い城壁で囲まれている中からちょこんと突き出ているのも見えた。
「ギルドは無いのか?」
異世界生活のお約束。
今、ブノから聞いた話だと、ギルドでクエストを受けるといった冒険者という存在は無いらしい。
このイストール地方ではミフの言っているギルド制は存在しない。
“守護隊”と呼ばれる治安維持組織が、役割を半分ほど担っている。
資金源は地方に存在する国家が共同して出資している形だ。という。
「モンスター討伐・用心護衛は、組織や個人レベルで似た仕事をしてる存在もいるが、少なくとも冒険者に依存した社会構造では無い認識でいてくれ。そういうようなギルドは他大陸には存在する話は聞くが」
「そうか。クエストをこなしながら、イストール地方の横断を行おうと思っていたが、考え直す必要があるな」
「ミフの実力ならば、日雇いの怪物退治で大丈夫だとは思うが、ここで情報を集めておけば良い。知識やや知恵の無いヤツはカモにされる」
「確かに人や物が多い。情報を集めるのは良さそうだ」
周りをきょろきょろと、田舎者がするお約束の習性を持っている二人と一匹を連れて、ブノは滞在する知り合いが経営する宿に向かう。
○宿 バルバルバール
「ブノ。久しぶりだな」
宿のカウンターの奥から、やや腹が出た豪快なたくましい体の宿のおやじが出てきた。
腕に掘っている刺青が、より一層パワフルさが増している。
「クイサ。相変わらずの怒鳴り声と馬鹿力は変わっていないな」
「そんなお前こそ、昔と何も変わらないな」
二人はギャハハと豪快に笑いだす。
「おっ。お前の娘か?」
後ろで不機嫌そうなフームを見つける。
「養子だけど、一緒に住んでいる。」
「そうか」
一瞬目を反らし、またニコニコ顔に立て直してから、フームと目を合わせた。
「父ちゃんと一緒に来ていたのか。別嬪さんだな。」
「お兄さんったら話が分かる人!」「むー!」
フームの一言で三人+一匹は、ますます笑いが大きくなる。
「あれから、河の上流の田舎で大きな家の小さな家ごっこをしていると聞いたが。娘とお供と愛用の槍を持って突然どうしたんだ」
「いや。村のくそ教師に首都での仕事を押し付けられてね。お守りに捨てた槍まで強引に持たされた。新しい本を買ってくるだけなのに、一か月も縛られるんだぜ。」
食堂の一つのテーブルで、俺とブノにクイサという宿のおやじが座っている。
俺をよそに、旧友を相手にしたブノは、初めてあった時に比べ、完全に口調や人格が変わっている。
年の差は少し気になるが、懐かしい人物の前では口も軽くはなるだろう。
「クイサ。トイレどこ?」「むぅ」
宿の階段を下り、一通り探検してきたフームが訪ねてきた。
「ああ。裏口出て、左に女性用のお手洗いがあります。お嬢様」
「ありがとう」
ムフーを連れて、フームはトイレに向かう。
それを見送った後、クイサは印象的な笑い顔を消し、冗談を言うえないような目でブノを見た。
「で、ここにきた本命は何だ。あんなに凄い教師がお前にかなり融通させてくるのは何か裏があるだろう」
ブノは少し目線を下げた。
「一年半前にフームちゃんのことがあって、あれ程決心して槍を捨てた奴が、押し付けられたぐらいで冗談でも持たないだろう。しかも人見知りのお前がお供まで連れて。だ」
あれ程大声で笑っていた男が、急に声のトーンを変えた。
「…………」
ここからは俺の旅の本題にも関連し、俺のまだ知らないブノの過去の話だ。真剣にもなる
「すまない。この話はフームが十六になった時に話したい」
夜、フームとムフーがベットで寝付いたのを確認し、夕方の話の続きをする。とのことだった。
快く承諾する。
深夜の他に客がいなく、殺伐とした食堂で小さなランプの光を頼りに、野郎三人でテーブルを囲む。
「ミフさんでしたね。最近は現スワリン連合を倒そうとする革命運動が頻発していましてね。特に他に誰もいない深夜に密談する状況は真っ先にね」
クイサは両手首を重ね前に突き出す、手錠のジェスチャーをした。ここは取りあえず宿なので、丸腰で食い物と飲み物。それに笑い声をたびたび出しておけば、客が少ない宿で旅人とおやじが宴をしているしか見えず、警察の目を盗めるらしい。もっとも、これから革命運動をする気はさらさらないが。
それは置いといて今は情報をまとめる時。逸る気持ちが自分の知らない色んな情報を共有したい方面に向いている。特に……。
「……。」
ブノは一年前に何をしたのだろうか。夕方から、ブノはその後の時間ほとんどが沈黙で続いていた。
すぅーとブノは深呼吸。はぁーと息を吐いた。
「…………」
「……」
「……」
いっこうにブノは何も話さない。
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