84・脱出しました
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閉じていた瞼の上から与えられた刺激により、急激に意識が浮上し始める。
心地好い眠りに戻りたいが為に、数瞬抵抗を試みるが、一度覚醒を始めた脳は二度寝へと移行する事にはあまり寛容ではなかったらしく、再び眠りの淵へと落ちる事の無いままに意識が完全に覚醒状態へと浮上してしまう。
僅かに残るだけとなってしまった眠気を名残惜しむかのように、仰向けだった状態を瞼を下ろしたままで、枕に顔を押し付ける様に俯せの状態へと移行しようとした際に、枕元と腹の上と股座とに何やら違和感が有るのが感じられる。
すわ何事か?と未だに残る眠気によって、それなりの強度で接着されていた瞼を半ば無理矢理に引き剥がし、取り敢えずは枕元に有る違和感の元を確認してみる。
まず視界に飛び込んで来たのは、モフモフとした白っぽい羽毛。
それに沿う様に視線を移せば、順に翼、嘴、鉤爪と視認する事が出来、更にその持ち主が仰向けの状態で俺の枕元で眠っている事を認識する。
思わずそのモフモフとした胸部の羽毛に手を伸ばし、指先を埋もれさせながら軽くモフっておく。
………………あぁ、カーラか……。
その感触とそれまでの視覚情報、並びに眠ったままでも俺に触られたと認識してなのか、甘える様に身体を擦り付けて来る動作によって、寝惚けたままの頭にようやくその答えが浮かんでくる。
そして、そのカーラと思わしき羽毛の塊を手で掬い上げ、胸元に抱き込みながら腹の上の違和感へと手を伸ばす。
………………じゃあ、こっちはリンドヴルムだろうか……?
そんな思いと共に伸ばされた指先からは、爬虫類に酷似した鱗の感触と、皮膜状になっている翼のツルツルとした独特な手触りが返って来た。
…………うん、やっぱりリンドヴルムだ……。
こちらは、カーラとは違って、俺が触っても特に反応を返して来ないが、別段嫌がっていないのか、それとも反応を返せない程に深く眠ったままなのかは不明だが、攻撃的な反応も同様に無い為に暫しその翼の感触を味わってから、こちらも手で掬い上げて胸元へと持ってくる。
これで、枕元と腹の上の違和感の正体は掴めた訳なのだが、そうなると一つ問題が発生する。
……そう、まだ残っている股座の違和感だ。
最初は、ポジション的にリンドヴルムが潜り込んだかな?とも思っていたのだが、そのリンドヴルムは俺の腹の上で、自身の腹を出して爆睡しているので有り得ない。
では、何が入っているのだろうか?
我が事ながら、珍しく覚醒しきらない頭で正体をぼんやりと考えてみるが、割りとやりそうな人物に心当たりが有ってしまっている事に若干嫌気が差しながらも、こうして男の寝床に潜り込んでいる以上は『そう言う意味』と取って食っちまっても構わない、って事なんだよなぁ……?と、柄にも無い思考をさ迷わせる。
…………まぁ、とにもかくにも見てみれば分かる、か……。
そんな事を考えてから、思い立ったら即行動!とばかりに布団へと手をかけると、確実に見える様に、されども上げ過ぎて布団を剥ぎ取る事にはならない様に、丁度中を覗き込む様な形に持ち上げ、内部を覗き込む。
するとそこに有ったのは、俺の股間に鼻先を突っ込み、両前足で俺の足を固定してわざわざ外れない様に調節までしてくれている、巨大な狼の頭が有った。
……何だ、リルか……。
まぁ、よくよく考えてみれば、矢鱈と股座にフィットする形で違和感が有ったし、その上で呼吸している様な感触も有った。
だが、それでいて興奮やら何やらで呼吸が荒くなっている様子も無く、極々平常に呼吸しているだけに感じられていたと言う事だけで、中に居たのは女性陣の誰か、何て事は有り得ないのだし、そもそもそんな変態的な行動を取りうる様な人は居……無いでもないが、それでも『その程度』で済まされる程に自制心が有るわけでも無いだろうから、必然的に有り得なかったと言って良いだろう。
……もっとも、よくよく見てみれば、俺の上に掛けられていた掛け布団から盛大にはみ出している蒼白色の毛皮に覆われた下半身と、フサフサでモフモフな尻尾が、眠っているにも関わらず機嫌良さそうに左右に揺られているのが見てとれた。
何やら楽しい夢でも見ているのかしらん?と思いつつ、何故に人の股間に頭突っ込んで寝こけているのかね、こいつは?との疑問も出てきたが、取り敢えずその鼻先を片手で軽くモフってから布団を戻し、違和感の正体を確認した上で戻りつつあった眠気に再度囚われようと試みる。
……だが、その時、フッとある思いが脳裏を過る。
……あれ?俺って何時の間に眠っていたんだ?
と言うか、ここって何処だっけ?
そんな思考が浮上してくるのと同時に、再び囚われつつあった眠気が強制的に振り払われ、落ちつつあった瞼も全開となって周囲の情報を確認し始める。
首だけを動かして辺りを見回す。
すると、それにより得られた情報から察するに、この半月程の間お世話になっていたレオルティアの『レオンハルト』家の一室、具体的に言えば俺が滞在する際に使わせてもらっていた部屋であるらしい事が判断出来た。
その視界の端に、僅かに隙間の残されたカーテンと、そこから射し込む陽光とが確認出来た為に、恐らくは意識が覚醒する原因となった刺激はそれであろうと思われる。
……成る程、ここが何処かは理解出来た。
……だが、何故ここにいるのかがよく分からん。
……確か、あいつらと合流して、残りの魔物連中を掃討する方針が決定して、リルに跨がって再度階層を降りた処までは覚えているんだけど……。
そんな思いと共に上半身を起こし、それまで胸元に抱いていた二匹を腹部に抱え、枕とベッドのヘッドセットに凭れかけた状態で記憶を掘り起こし、あの後何がどうなったのかを思い返してみる。
暫し思考と共に記憶を纏めるのに、我が事ながら驚く程に手間取ったが、どうにかそれらしき記憶を掘り起こす事に成功する。
「……そうだ。そう言えば、どうにか無事に脱出してきたんだったっけ……」
そう、あの後、予定の通りに七十層(タツ達のマッピングによると、合流した階層が七十層目だったらしい)から下に下にと魔物を殲滅し、掃討しながら降りて行った事までは、割りとはっきり思い出せた。
俺達が行き掛けの駄賃に、と遭遇した魔物を撥ね飛ばしていた為か、もしくはあの熊モドキと戦っていた際に魔物が大量に押し寄せて来たからかは定かでは無いが、それでもそこまで多くの魔物と遭遇する事残された無いままに、順調に下って行く事が出来ていたハズだ。
出てきた魔物も、俺達はそれまでの戦闘で疲弊していたから、と言う理由と、俺達に少しでも追い付きたいから、との理由から、基本的に女性陣主導での戦闘となっていた為に、楽が出来たと言えば出来てはいた。
……まぁ、何度か危ない場面も有ったりしたので、俺は割合とハラハラしながら見ている羽目になったけれども。
リンドヴルムは『疲れたから』と参戦を拒否していたし、リルは基本的に俺の輸送に着きっきりになっていた。
故に、援護として回せたのはカーラのみ(タツとレオは『死にそうになったら助ける』と言うだけだったので数に入っていない)となっていたが、アストさんも乾達の補助に回ったりしてくれていたので、どうにか立ち回る事が出来ていたみたいだったけど。
そんな風に女性陣で魔物相手に殺ったりやられたりを繰り返し、時折危なそうな時には遠距離からの支援を入れたりだとか、勝てなさそうな相手にはリルによる撥ね飛ばしで参戦したりしながら最下層まで降りて行き、目についた魔物は確実に殲滅。
各階層をしらみ潰しにした副産物として、『迷宮』がまだ生きていた時に発生していたと思われる宝箱も根刮ぎにしてから反転して上へと登って行ったのだったかな?
……実はこの辺りから、他の仲間が居てある程度休養の取れていたタツやレオ達とは違い、共に行動出来ていたのがリンドヴルムしか居なかった俺は、あの『迷宮』に入ってから一睡も出来ていなかった上に碌に休憩も取れていなかった関係から、割りと限界が近くなっていた為に意識が朦朧とし始めていたらしく、記憶が所々飛んでしまっていたりする。
だが、それでも、下の方の階層で、何やら凄い『お宝』が入った宝箱が有ったらしく、皆がテンション高めに騒いでいた事は覚えているし、そこから上へと階層を登って行く途中で、最初の方で倒していた階層に湧き直した魔物をまたリルが撥ね飛ばしてドヤ顔をしていた事も覚えている。
……まぁ、逆に言えば、それら位しか覚えていない、とも言えるのだけど。
そして、それ以降で覚えている事と言えば、何となくあの『迷宮』の外に出て、どうにかこうにかレオルティアまで戻ってきた後に、何故かここには居ないハズのネメアーさん(シンシアさんのお父さん)が出迎えてくれて、その後でどうにか軽く腹にモノを入れてから、ほぼ落ちかけている意識のままに無理矢理身を清めて、倒れ込む様にこのベッドへと潜り込んだ……のかな?確か。
俺がどうにか覚えている範囲ではそこまでだし、その後は何となくベッドの中に何かが潜り込んで来た……かな?程度の認識が有る位で、それ以外は何もないままに先程に至る、と言った感じである。
……よし。大体把握出来た。
しかし、それにしても腹が減った様な気がする。
まるで、何日も何も食っていない様な感覚を覚えるのだけど、何故だろうか?
喉の渇きの方も、似たような強さで感じられた為に、ベッド脇のテーブルに置かれていた水差しからグラスに水を汲んで、一息に飲み干す。
すると、喉の渇きが癒える感覚と同時に、文字の通りに『空っぽ』な胃袋に突然モノを放り込んだ様な感覚に襲われた為に、二杯目以降は一気に飲み干す事はせず、時間を掛けて少しずつ飲み下して行く。
流石に三杯も飲み干す頃には、胃の拒絶反応も大分収まり、普段と変わらないペースで喉を潤す事が出来る様になったが、それと同時に、そんなに長く寝ていたのだろうか?との疑問も浮かび上がって来る。
消失した時間の感覚に、はて今は何日だったかね?と頭を捻っていると、俺が上体を起こした為に位置がずれたのか、それとも気分が変わったのかは定かではないが、それまでは鼻先を突っ込んでいた俺の股間に、今度は柔らかな毛の生えている顎先を乗せ出し、収まりの良いポジションを探して数回モゾモゾと動いてから、満足した様に鼻息を一つ強めに吐くとまた動かなくなるリル。
……こいつ、本当に眠ったままなんだよなぁ……?
そんな思いと共に暫く布団の膨らみを眺めていたが、動き出す訳でも起き出してくる訳でも無かった為に、恐らくはまだ寝たままなのだろう、と判断する。
『…………おぉ、主殿よ。ようやく起きられたか……』
そうやってリルの事を観察していると、今度は抱えていたリンドヴルムが目を覚まし、欠伸混じりに俺へと声を掛けてくる。
『……あれだけの無茶をあそこまでの無休息にて行えばさもありなん、と言うべき状態であったが、それでも皆心配しておったのじゃぞ?何せ、妾がこうして潜り込んだ時点で二日も寝たままじゃったのじゃから、これでほぼ三日間も寝たきりじゃったと言う事になるのぅ』
「…………ゑ?そんなに寝てたの?」
『……妾が寝過ごしておらなんだら、今日で三日目じゃから、『最低』でも三日間寝たきりじゃった、と言う事になるじゃろうのぅ』
……成る程、そんなに寝こけていれば、流石に時間の感覚も無くなる、と言うモノだろう、か……。
『……まぁ、妾にその責任は無い、とも言えないし、主殿がそうなった事に『心当たり』が無いでもないのじゃがのぅ?』
「……その話詳しく」
ポツリと呟かれたその一言を聞き逃さず、速攻でリンドヴルムの頭蓋を捉えて締め上げながら自白を促す。
流石に、その状況でふざけるのは命の危機が発生しかねない、と理解していたらしく、それはもう滑らかにペラペラと喋ってくれた。
そして、そのリンドヴルムの『心当たり』やら『責任』やらの話を纏めてみると、俺がこうしてダウンしていた理由の一つとして、俺の『技能』である『龍の因子』の反動の類いであろう事。そこまで強く反動が出てしまっていると言う事は、もしかすると『龍の因子』の数字が予想以上に進んでしまっている可能性が有る(『1/6』から『2/6』に進んだ程度であれば、もっと反動は少ないハズ……らしい)事。俺をこうして辛い目に合わせたのは自分の所業の故である為、ああして『責任』と言う言葉を使った事、と言った感じであった。
『……あの時、命を助ける為とは言え、こうして危険な反動を負わせた上に、人を辞めさせて『異形』へと落としたのは間違いなく妾なのじゃから、それに対しての責任も同時に妾に有るのじゃからのぅ……。
主殿には、本当に済まぬことをしたと思っておるのじゃよ……』
そうやって項垂れているリンドヴルムに対して俺は
「……何だ、そんなこと気にしていたのか?俺は、別段気にしてなんかいないんだがね?」
と言ってやると、ポカーンとした表情を向けてくる。
『……じゃ、じゃが、妾は主殿を……』
「あの時はそうしないと助からなかったんだから、仕方ないだろう?」
『じゃが、それでも危険が有る事には……』
「それは当然じゃないのかね?デメリットの無い力なんて有り得ないって」
『そ……それでも!妾が主殿を『異形』へと変えたのは間違い無いのじゃぞ!?』
「いや?俺達、俺とタツとレオとは、元の世界ではある種の『化け物』扱いされていたからね。今更一部分とは言え、本物の『化け物』になった処で、ねぇ……?」
『それでも……、それでも!主殿は元の世界へと戻るつもりなのであろう?少なくとも、その為に行動する、と言っておったハズじゃ!なれば、そうなってしまっている事は、少なからず不利益を生む原因となるハズであろう!?なのに、何故そうまでして平然としていられる!?』
「……?あぁ、そう言えば言ってなかったっけ?俺が元の世界への帰り方を探しているのは『乾達女性陣を帰してやりたいから』であって、×××は××××××××から、その心配は必要無いぞ?」
そう、俺達で企んでいる事を話してやると、それまで気負っていたことが全部的外れであった事を理解したらしく、半ば沈み込みながらも、それと同時に『歓喜』と『清々しさ』を浮かべるリンドヴルム。
そんなリンドヴルムやカーラ、そして、ようやく起き出したらしくモゾモゾと動き出したリルを軽く撫でてやりながら、激しく栄養不足を訴え掛けて来た腹に何か入れるべく部屋を後にするのであった。
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