79・……え?何コレ?
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自己判断に於いても、どれだけ軽く見積もっても瀕死の重傷、と診断出来てしまう程の負傷をし、相手の一撃で壁に叩き付けられ、そのまま壁にめり込まされながら、全身から送られてくる激痛と言う名の危険信号を無視し、何処か他人事にも感じる様な感覚で、どうすればあの熊モドキに勝てるのか、を思考する。
正否を問わない数々の手段、幾多の死闘に於けるこれまでの経験、飛鷹流の継承としての矜持、武人としての純粋な技量。
それら全てを計算に入れ、手元に在った命の水すら全部使いきる事を前提に勝利への筋道を探って行くが、それはどの可能性を辿ったとしても、とても『勝ち目が有る』とは言い難い状態であった。
……では、勝利する方法は存在しないのか……?
そう、最後にポツリと投げ掛けられたその問は、本来であれば即座に『存在しない』と返答が投げ掛けられたのだろう。
……だが、その時だけは、本来であれば存在しないハズの『第三者的な何か』より、明確に答えが返された。
……『否』である!と。
そして、その返答がもたらされると同時に、リンドヴルムによって移植され、今ではすっかり俺の身体に馴染んでしまっている左腕と左目が
『ドクン!!』
と、まるで心臓が鼓動を刻む様に、明らかに脈動する感触に驚愕する。
……え?嘘?何コレ??
その衝撃によって、ある意味で普段のソレに近い状態に精神が戻されるが、その次の瞬間には、身体の奥底から涌いて来たかの様な不思議な『力』が全身を駆け回る事により、再度パニックに近い状態に叩き込まれる。
え?何?何コレ?え??俺、こんなの知らないんだけど??
そんな単語のみが脳裏を駆け巡る。
……だが、その時はほぼ完全に脳裏から消え失せていたが、現状は未だに戦闘中であり、敵である熊モドキにとっては相手が『ほぼ』戦闘不能に陥り、身動きも碌に取れない様な状況になっている以上、追撃しない理由は存在しない。
戦場の理に従って、未だに壁にめり込んだままパニックに襲われていた俺へと追撃を仕掛ける熊モドキ。
その一撃は、万全の状態であったのならば、或いは防御や回避を選択し、無傷のままにやり過ごす事も出来たのかも知れないが、九割近く死んでいる様な状態である現状では、回避は元より防御すらままならないのは、火を見るより明らかであった。
だが、幾ら思考がパニックに陥っていたとしても、ダメージが蓄積していたとしても、過去に受けさせられた修練によって既に血肉と同化させられている飛鷹流の動作は、最早脳による処理を必要としない程の脊髄反射として刻まれており、無意識的に身体に染み込んだ動作を選択し、回避しようと試みる。
そして、本来であれば、その様なボロボロの状態では、幾ら反射によって行われ、身体の負傷や痛みと言った状況を無視して実行される行動だったとしても、万全の状態の様に回避が可能であるハズも無く、そのまま敢えなく命の灯火を掻き消される運命となる……ハズであった。
しかし、その動かないハズの身体は、万全の状況で練気によって身体能力を強化した際のソレよりも、格段に高い能力を発揮し、熊モドキによる追撃が殺到するまでの刹那の間に、めり込んだ身体の解放と、熊モドキによる致命の一撃の回避、そして、その熊モドキの動体視力を遥かに上回るだけの速度によってその背後に回り込む、と言った三つの動作を可能にしていた。
……………………はい?
突然、その手に掛ける寸前まで来ていたハズの獲物が目の前から消え失せ、その直後に自らの背後へと移動していたらしい、と気配にて判断出来る事に困惑していた熊モドキだったが、ソレ以上に理解不能な現象に対して、それまで以上のパニックに襲われかかる俺。
……と、言うよりも、むしろこの場で一番困惑しているのは目の前の熊モドキよりも、俺の方だと言って良いだろう。
何せ、そもそもの問題として、もし仮に俺が万全の状態だったと仮定しても、さっきみたいな速度での行動はまず出来ない。
一応、やるだけならば出来なくもないのだろうが、それにしてもあそこまでの速度は出ないだろうし、何より目の前でこちらを窺っている熊モドキの野郎の目を掻い潜り、気付かれ無い様に行うのなんてほぼほぼ『不可能』だ、と断言しても良いだろう。
……おまけに、先程も『そう』だし、現時点でも『そう』なのだが、別段あの動きを行った……らしい(意識的にやっていない)時に、俺の身体が回復していた、と言う訳ではないので、そもそもの話として物理的に『不可能』であったハズなのだ。
現に今も、こうして立ったまま熊モドキとにらめっこしているが、本来であればそうやって『立ったままでいる』事すらも厳しい処か、恐らく壁にめり込ませられた時に脚を骨折したらしき感触が有るために、自己診断では『立っている』事すら出来ない状態であるハズなのだ。
ついでに言えば、同じく壁にめり込ませられた時に出来た全身の裂傷やら、殴られた際の音からして、多分砕けていると思われる肋骨数本も未だ健在であり、それらが奏でる激痛の合唱によって、本来であれば遠ざけられるハズの意識が、辛うじて保たれている状態でもあったりする。
……では、何故立っていられるのか……。
その答えは恐らく……処の話ではなく、最早『見れば分かる』レベルでその存在感を周囲にブチ撒いている、この『金色のオーラ』の様な何かだろう。
どうやら、この『金色のオーラ』の様な何かは俺の身体から直接出されているモノであり、ソレによって支えられる形でこうして立っていられる以上、恐らくは物理的な補助効果でも有るのだろう。
それに、どうやらこのオーラ的な何かは、俺の思考によって制御が出来る上に、そのオーラ的な何かによって支えられている俺の身体も、それに連動して半ば無理やり動かす事が出来ている……みたいなのである。
……当然、まだ怪我の治療なんて欠片も行っていなかったので、凄く痛かったけど。
……いや~、しかし、一体何なんだろうな~、コレ?
全くもって心当たりが無いし、突然発生したからビックリしたなぁ~……。
…………いや、現実逃避はこの辺りまでにしておこう。
ぶっちゃた話をすれば、コレに関しては心当たりが無いでもない。
何故ならば、先程から俺が『金色のオーラ』の様なモノと表現しているコレなのだが、よくよく見てみると、どうやら表面が鱗の様なモノで覆われており、指先なんかも最近良く見る様な形になっているみたいなのである。
具体的に言えば、俺の左手に良く似ている様に見える。
更に言えば、何やら今までに感じた事の無い感覚が、背中の肩甲骨の辺りと腰の尾てい骨の辺りにも発生しており、試しに意識をそこに向けてみると、視界の隅に爬虫類染みた羽の様な形の何かと、同じく爬虫類の様な見た目の尻尾らしきモノが映り込んでいたりしたからね。
……ここまで言えば、お察しかも知れないが、恐らくはほぼ間違いなく『特殊技能』である『龍の因子』の効果的な何か、なのだろう。……多分。
そして、この俺の身体を覆っている『金色のオーラ』にも、見覚えが無い訳でもないのだ。
あの時、『試練の迷宮』にてリンドヴルムが俺へと放った焔の色が、丁度このオーラと同じ様な色合いだった、と言う事もあるのだが、実を言うと、さっきからリンドヴルムが此方をチラチラと盗み見しながら、その口角をまるで『してやったり!』とでも言いたげな様子で吊り上げている以上、何かしらは知っている……処か、このオーラ的な何かの形状やら『技能』の名称からしても、ほぼ確実に関わっている事は間違いないのだろう。
……これは、後で問い質す必要が有るな……。
そんな結論を出すのと同時に、此方を窺っていた熊モドキが観察を止めて攻撃してきた事から、迎撃に移る為に一旦思考を中断する。
出来れば、俺が命の水にて回復してから攻撃してくれれば良かったのだが、そうも言っていられないので、『龍の因子』(多分)の性能頼りで迎撃に移る。
先程の動きから察するに、この状態だと練気を全開にしている状態よりも、身体能力は高くなるのだろうと推測出来る。
……ならば、奴を倒しきるとまではいかなくとも、せめてリンドヴルムとリルが合流出来るまでの時間を稼ぐ!
……そう、思っていた時期が、俺にも有りました……。
そう、心の中でのみ呟きながら、未だに激痛の走る身体で、回収した相棒を振るう。
すると、それに合わせるかのように咆哮を挙げながら、相対する熊モドキがその剛腕による一撃を繰り出して来る。
そして、両者の攻撃がその中間にてぶつかり合うと同時に周囲へと轟音が響き、その衝撃で共に後方へと吹き飛ばされる。
そして、両者共に辛うじて体勢を崩さずに着地し、その衝撃で着地点の周辺に自身の血潮を撒き散らす。
俺の方はこれまでで付けられた全身の傷から。
熊モドキの方も、少し前に俺の攻撃で付けられた全身の傷から出血しており、辺りは生臭さを伴った鉄臭いが充満していた。
……まさか、一度はほぼ手も足も出なかった様な相手に対して、ここまで戦えるとは思ってなかったが、それでもコイツ強すぎじゃないか……?
体感だけで言うならば、あの時のリンドヴルムに匹敵する程度の戦闘力は有るみたいなんだけど……?
なんて考えていると、今度はこちらから!とでも言いたげな勢いで熊モドキが仕掛けて来るが、今回はそれとまともに打ち合う事はせず、相手の攻撃に添える様にしてから相棒を回転させ、力の方向を地面へと変更させて攻撃を反らす『巻き』の技術で攻撃をいなし、擦れ違い様に脇腹へと相棒を突き入れ、捻って傷口を広げてやりながら引き抜き、ダメージを蓄積させておく。
さすがに、今の一撃は効いていたのか、俺から距離を取ろうとする熊モドキだったが、俺の方としてはそうして時間稼ぎに徹されると『負け』が確定してしまうので、激痛による抗議を訴えかけて来る身体に鞭打って追撃を仕掛ける。
出血量による昏倒だとか、この『龍の因子』による強化(推定)が解除されるまでの時間だとかの焦りから行われた行動だったが、その一見特攻にも見える程の強行な攻撃に驚いたのか、それまでならば即座に迎撃の構えを見せたハズの熊モドキが、数瞬とは言え行動に躊躇いを見せる。
それを好奇と見た俺は、迎撃の為に繰り出された上段からの一撃を回避し、今度こそは!との一念も込めて熊モドキの懐へと入り込むと、急停止から『縮地』の技術を応用した0から100への急加速による最強の一撃である『天穿ち』を再度叩き込む!
すると、流石に一度は目にしていた攻撃だったからか、前回と同じ様に防ごうと射線上にもう片方の腕を振るい、こちらの攻撃を弾き返そうと試みる。
そして、俺の相棒と熊モドキの爪が、前回と同じ様に互いに空気の壁を突破しながら、空中にて噛み合わされると一瞬だけの均衡状態が作られ、それと同時に俺の相棒から『ピシッ!』と、小さいながらも決定的かつ致命的な音が聞こえて来る。
……流石に耐えられなかった、か……。
俺がそんな感想を抱いているのと同時に、その音から俺の相棒の限界が近い、との確信を抱いたらしき熊モドキがその口元を歪めるが、それと同時にそれまで相棒と拮抗していた熊モドキの爪が砕け散り、呆然とそれを眺めていた熊モドキの胸元へと相棒が着弾。
空気との摩擦にて赤熱する程の運動量が解放され、まるで直接爆破でもされたかの様に熊モドキの胸板を抉るだけで収まらず、背中まで大穴をブチ抜いてようやくその暴威を納める『朱烏』。
そして、自らに空いた大穴を、信じられないモノを見た様な表情で眺めていた熊モドキがその場で倒れ伏し、『龍の因子』による強化が切れ、全身を覆っていたオーラが消えた事により、その場に俺が倒れ込む俺の手から零れ落ちた相棒が、地面にぶつかる事で奏でた高音によって、今回の戦闘は幕が引かれる事となるのであった。
次回、ネタバラシ回?
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