28・おっと、誰か来たようです……
前話にてブックマーク登録が100件に届きました!\(^^)/
登録してくださった皆様に感謝ですm(__)m
『人喰い』となってしまっていた大神達を殲滅した後、奴等が勝手に使っていた小屋のなかを確認してみた処、大神達が『喰わず』に生かしておいたと思われる女子達が居たのだが、既に彼女らの精神は、この過酷な現実には耐えきれていたかったらしく、既に壊れてしまっていた。
小屋のなかで全裸で佇む彼女らは、何処か機械的な薄ら笑いを顔に貼り付けながら、その全身に汚された形跡を残したままで、人骨と思わしき骨とそれにこびりついていたであろう肉片を、ただただかじり取っているだけであった。
そして、中に入ってきた俺達を見るやいなや、その顔に男を誘う様な淫靡とも取れる表情を浮かべつつ、それと同時に口元を涎でドロドロに汚しながら近づいてきたのだった。
「早く……早く新しいのを……」
「お腹……空いた……早く……ニク……!」
「好きにして……良いから……だから……ハヤク……ニク……ニク……ニク、ニク、ニク、ニクニクニクニクニクニクニクニクニクニクニク!!!」
そんな事を譫言の様に呟きながら、俺達の元へと這い寄って来る様には、恐怖の感情を励起させられる様でもあった。
そんな時、中で上げられた声を聞き付け、女性陣が様子を伺いに来てしまう。
……こんな状態の女子達を見せて、平気でいられると思うほど、俺は精神がイカれている訳ではないし、この場に居るタツとレオにも、それは明白な事実として認識出来ていた。
よって俺達は、そのまま急いで扉(試行錯誤の末に、木製の蝶番によって実現)を閉めると、内部に居た女子達を全員介錯して回った。
……いや、『介錯』なんて、そんな表現をするのは、正直に言えば間違いなのだろう。
ただただ俺達は、こんな状態の女子達を乾達に見せたくは無かった為に、彼女達を皆殺しにしたのである。
おそらくではあるのだが、彼女達は大神達とは違い、自らの意志で禁忌を犯した訳では無かったのだろう。もちろん、進んで行ったと言う事もあるまい。
……だが、それでも彼女達は、既に『咎』を負ってしまっている。殺さない訳にはいかない。それに、この場で殺さなくても、どの道この無人島と言う環境下では、生かしておいてやるとなると、必然的に俺達で世話を看てやらなければならなくなる。それは、幾ら俺達がいることで諸々の作業が軽減されているとは言え、女性陣に少なくない負担を強いる事になるだろう。
可哀想ではあるが、流石にそこまでの余裕は、俺達には有りはしないのだ。
それ故に、小屋のなかで彼女達を殺めた後、何をしていたのか聞きたがる女性陣を押し留め、その上で小屋のなかに男子達の死体を押し込め、まとめてリンドヴルムの焔で荼毘に附してから、女性陣には小屋のなかで何が有ったのか、彼女らがどう言った状態であったのかを話して聞かせた。
そして、俺達三人で、元の拠点の反対側、この湖を拠点のベースとする際の第二候補地に新しく小屋をその日の内に建築し、彼女達へと問い掛けたのだ。
『俺達が怖いだろう?』
と。
そして、当然の如く怖いだろうし、人を殺している俺達とは、一緒に居られないだろうから、俺達はここから移動するつもりである事、この小屋はそちらで使ってくれて構わないし、最初からそのつもりで建てたものだから、遠慮はせずに使用して欲しい事、俺達が持っているなかで、今後生きて行くのに必要であろうモノは置いて行くが、それだけで万端とは限らないのである程度注意して欲しい事、俺達が居なくなる事で色々と大変になると思うけど、それでも頑張って生き抜いて欲しいと思っている事等を伝えて、拠点を後にしようとしたのである。
……後にしようとしたのだが、ここでまさかの事態が発生したのである。
なんと引き留められてしまったのである。
しかも、こちらが去ろうとして背中を向けていた時に、背後から物理的に拘束されるなんて方法で。
俺は完全に予想だにしていなかった為にただただ目を白黒させ、後で聞いてみたら、なんとなく引き留められるとは思っていたらしいタツとレオも、こんな物理的な手段で引き留めてくるとは思っていなかった様で、二人ともに唖然としていた。
……元より敵意が無かった為なのか、常時無意識的に使っていた気配察知の技術にも引っ掛からなかったらしく、三人共にこうして拘束されてしまった訳である。
そして、始めから話が通っていたのか、はたまた説得か買収かされていたのかは定かではないが、おそらくは何かしらの工作によって、俺達が拘束されるのを妨害するでもなく、俺達の拘束を解く訳でもなく、ただただ傍観に徹しているだけのリンドヴルムを横目に、俺達(主に俺)への『説得』と言う題目での『お説教』が始まったのである。
主に担当していた乾曰く、俺達の事は怖くは無いらしい。
何のために自分達(俺達)だけが手を汚したのか、何故私達(女性陣)には手を出させなかったのかは、なんとなくではあるけれど察している。故に、『感謝』こそしているが、『恐怖』を抱いてなんて決して無い、と。
そして、生活に必要なモノ云々だが、置いて行く位なら、最初から出ていかないで欲しいのだとか。
確かに、色々と教えてもらった今ならば、貴方達(俺達)が居なくても、生きて行くだけなら大丈夫だとは思う。だけど、だからと言って居なくても良いなんて思ったことは無いし、そもそも最初に助けてもらえなかったら、私達(女性陣)も、今こうしていられなかった可能性が高いのだから、私達は感謝こそしても、出て行って欲しいなんて事は、誰一人としても欠片も思ってはいないのだから、出て行かないで欲しい、と。
最後に、怖い何て思ったことは、一度もあった事は無い。むしろ、そうやって私達(女性陣)を気遣って出て行こうとしているのならば、逆に私達の為にこそ出て行かないで欲しい、と言われてしまったのである。
そう言われてしまった俺は、一瞬言葉に詰まりかけてしまう。
……だが、それでも、いや、そう思ってくれているのであれば、尚の事、言っておかなくてはならない言葉を舌に乗せる。
「……ならば、お前は、お前さん達は、潜在的な『殺人犯』を、身近に置いている状態で、本当に安心できるのか?こう言っては何だけど、俺達、三人合わせれば、少なくとも三桁は何かしらの理由で殺しているけど、別段良心の呵責に苦しんだりとか、罪悪感から眠れなくなったりだとかは無いからな?
それに、これからだって必要に駈られれば、また躊躇いも無く殺すだろうし。
……お前さんは、そんな何時殺意を向けてくるのか分からない相手を、本当に隣に置いておけるのか?」
そう俺に言われて、無言のまま下を向いてしまう乾。
……事実を告げただけなのだが、流石にちと虐めすぎたかな?と内心での少々の焦りと共に、行くならさっさと行った方が良さそうだな、と判断して、多少強引にでも拘束を解除して立ち去ろうか、と思ったその時、乾がポツリと一言溢す様に呟く。
「……なら、あの約束……」
「……ん?」
「……あの、ダンジョンでしてくれた、『できる範囲で言うことを聞く』って約束、今使わせて貰うから!!
私達が安心できれば良いんでしょう!?
なら、約束して!!
『貴方達は私達に危害を加えない』!
これを確約する事!
……もちろん、私達が万が一に小鳥遊君達を傷付ける様な事態になったら、遠慮なく反撃してくれて良いし、最悪私達が嫌いになったら、その時は言ってくれれば私達こそが出て行くから……だから、お願いだから……『怖い』だろうから、出て行く何て…………言わないで…………」
……女性って狡いと、そう思いました。
だって、半泣きになりながら、そんな事言われて引き留められちゃったら、出て行く何て出来ないじゃないですか……。男の子だもの。
そんな訳で、女性陣の説得により、結局として俺達が離脱する事はなく、大神達を殲滅してから10日余りが経ったのであった……。
******
この10日の間、それなりに色々とあった。
俺達が出て行く、出て行かないで少々揉めた際の後遺症で、多少俺達と女性陣とで、関係の距離を測りかねてギクシャクしたりしたが、一応今は元通りのある程度気安い関係性に落ち着き直している。
……落ち着き直してから、一時的に乾がへこんで居たが、結局アレは何だったのだろうか?
女性陣の戦闘力も大幅な上昇を見せ、女性陣全員掛かりかつ、各員が手に入れているダンジョン産の武具を全力使用すれば、俺達が最初に倒したあの兎公と同格の相手を、誰一人として危なくなる場面も無しに倒しきる事が出来るようになったのである。
それには、もちろん、ダンジョンのボスであったリンドヴルムを倒した際の宝箱から出て来たモノを使っていた事も大きかったのだろうが、最大の点としては、やはり非戦闘員が居なくなったのが大きいと思われる。
そう、これまで『非戦闘員』として、基本的に戦線には参加しない、又は参加しても後衛である先生の護衛程度のソレであった乾と桜木さんが、リンドヴルムに弟子入りする事で、見事に『魔法』を使えるようになったのである!
一番最初の段階である『魔力』を生成する事に多少苦戦していた様子だったが、一度きちんと生成出来るようになれば、後はトントン拍子で使えるようになり、今ではリンドヴルムがドロップした宝箱の中身でもあった魔導書(リンドヴルムによって確定)×2をそれぞれが使うことで、俺達三人やリンドヴルムと互角に近い模擬戦をする事が可能なまでに至っている。(勝てるとは言っていない)
……もっとも、どうやら無理なく生成出来る魔力の量がそこまで多くないらしく、ペースを考えないでバカスカ撃ちまくれる訳では無い上に、魔法を放つまでに呪文の詠唱等が必要になるので、守ってくれる前衛が必要不可欠になってくるのだけれども。
そんな二人は、今現在もリンドヴルムと共に魔法のお勉強の真っ最中である。
最近は俺も、日課となっている女性陣との組手を終えてから参加する様にしているが、乾や桜木さんとは違って、中々魔法が使えるようには成れていない。
まぁ、最初から、リンドヴルムに、多分向いていないとの嫌なお墨付きを貰ってしまっていたので、仕方ないと言えば仕方ないのだろうが、それでも一度位は使ってみたいじゃないですか!男の子だもの!
そんな訳で、無駄とは知りながらも、リンドヴルムの魔法講座に参加する俺。
『ーーーと、言った感じで、魔法は体系別に分類されておるが、根っこの処の基本は皆一緒じゃ。魔力を精製し、それを呪文で加工して整え、時には魔法陣等を利用して補助しながら、最後の鍵言にて発動させる。これだけじゃよ。
もっとも、そこの主殿の様に、条件さえ揃えれて魔力を流せば、特定のソレであれば、呪文の詠唱やら何やらを必要とせずとも、勝手に発動させおる輩もおるがのぅ』
と、そんな、俺を誉めているのか貶しているのかサッパリ分からん事を抜かすリンドヴルムを捕獲し、この10日の間で判明した『擽られるのが苦手』と言う弱点を突いて全身を擽りまくり、その刺激に耐えきれずに蕩けさせられているのを、同席していた二人が何となく羨ましそうに見ていた時の事であった。
それまで近くに居なかったハズのタツとレオが、周囲を警戒するような素振りを見せながら近付いて来て、俺に話し掛ける。
「……気付いているか?」
「何だか~、僕達以外に~、誰か居るみたい何だけど~、どうしようか~?」
……まぁ、ここ数時間前位から、何となく視線を感じる様な気がしていたが、やっぱり気のせいでは無かったって事なのかね?
と言うか、今も現在進行形で見られているっぽいし。
でも、何となく敵意は無いみたいだし、それどころか何となくでは有るけれど、必ず見付けなければならない『大切なナニカ』を、無事に見つけられてホッとしているが、どう接触したら良いのか測りかねて困惑している?みたいな?雰囲気の類いが感じられるのだ。
しかし、感覚的にこちらへの敵意や悪意の類いは無いみたいだが、それでもこうして見られているって言うのは、あまり良い気分では無いし、何よりこちらには女性も多いのだから、そうやってコソコソ覗かれるのは、精神衛生的にあまりよろしくない。
……よって、そろそろ『お客さん』には、確りと表に出てきていただく事にしますかね。
「ーーーって感じで、頼めるか?」
「……了解した」
「分かった~!」
タツとレオに指示を出して、視線を感じているのとは別の方向から森へと入らせる。
そして、少しばかり時間を潰しながら女性陣に集合してもらい、タツとレオを除いた面子が森の中には居ない状況を作っておく。
そして、予め手元に置いておいた、元相棒かつ現相棒である『朱烏』(見た目が変わったので銘も変えてみた)を片手に、視線を感じている方へと鋒を向けながら声を掛ける。
「……少し前から覗いているみたいだが、いい加減不快だ。これ以上は敵対行為と見なして攻撃するが、それが嫌ならさっさと出てこい!」
「「「「「「「……えぇ!?」」」」」」」
俺が相棒を構えた段階では、ただただ怪訝な顔をするだけだった女性陣だったが、俺のセリフから今この場に俺達以外の『誰か』、もしくは『何か』が居り、それがこちらを覗き見していた事を初めて知ったらしく、驚きの声を上げている。
『……なんじゃ、ようやっと対処しよるのかのぅ?余りに遅いから、妾以外は気付いておらなんだと思っておったのじゃがのぅ』
そんな呟きから、リンドヴルムは気付いていたみたいだが、何時もの通りに俺の頭にしがみつきながら言われても、あまり説得力や威厳と言ったモノを感じることは出来ないですよ?
そんなことを考えつつも、返答が来るまでの時間をリンドヴルムのお腹(以外とプニプニしている)を突っついて暇を潰す。
しかし、幾らムニムニしていても返事が無いので、これは『相手がこちらを嘗めている』か又は『攻撃の意思あり』と認定し、こちらから先制攻撃を仕掛ける事にする。
一番近間かつ、おそらく今まで監視していたであろう奴の居るハズの場所に狙いを定め、左手の中に発生させた槍を握り込んで投擲の構えに移行する。
構えとしては『風切り』のそれと同じだが、今回は練気は無しの、素の状態での投擲になる予定である。
……まぁ、『素の状態』とは言っても、リンドヴルムを倒した上に、その血肉を移植された事によって、今の俺の身体能力自体が、対リンドヴルム戦時の『気』によって肉体強化を使っていた時と同じ位の値になっているみたいなので、多分直撃しなくても大概の相手なら即死する程度の威力は出ると思われる。
そして、そんなある意味銃弾よりも厄介な槍を放とうとした時、それまで静寂を保っていた森の茂みがガサガサと揺れ始め、その奥から一人の女性……と思わしき人影が湖畔へと歩み出てくる。
その、女性と思われる人物は、敵意が無い事を示す為なのか、両手を上に上げた状態のまま俺達の方へと歩いてくると、ある程度の距離を開けて立ち止まり、申し訳なさと困惑の入り交じった声色で、こちらへと語りかけて来る。
「……申し訳ございません、当方としましても、敵意や戦意が有った訳では無いのですが、貴殿方が私達と同じ言葉を使っていたのに驚いてしまった事と、周囲の安全を確保させるために散らしている部下達からの連絡が途絶えてしまった為に、応答が遅れてしまいました。
その事については謝罪させて頂きますので、どうか戦意を収めてはいただけませんか?」
そう言いながら、その場で地面に膝を突いたのは、銀髪・赤眼で凛々しい顔立ちで、素晴らしくメリハリの効いた身体を、少々露出が激し目で、視線の向け処が迷われる様な服装に押し込んでいる、佐藤先生と同じかもう少し歳上位の外見で、俺達と同じ肌の色をしている女性であった。
……ただ、その時に俺は、何となくではあるが、彼女の姿に『違和感』の様なモノを感じていたのであった。
面白いかも?と思っていただけたのでしたら、ブックマークや評価、感想等お願いしますm(__)m