27・人喰い鬼を退治します
俺は、それまで偽装のために杖として使っていた槍を小脇に抱え、戦闘で邪魔になりそうな顔の布と左腕の布を順に剥ぎ取って行く。
そして、その剥ぎ取られた布の下から出てきた肌が無傷であることと、その肌や眼が人のソレとは異なる事に気付いた連中が俄に騒がしくなる。
だが、元はクラスメイトとは言え、今現在は既に退治すべき『化け物』と化している連中が、幾ら騒いだ処でどう思う訳でもなく、ただ単に敵を前にしたのと同じ心境で槍を構える。
そんな俺の様子と、打ち合わせには無かった突然の行動に、同じ経験をしているため現状のヤバさを理解しているタツ以外の面子からは、戸惑いの気配が発せられる。
「た、小鳥遊君?何で、そんな殺気剥き出しになってるの?打ち合わせだったら、手心を加えて最低限のダメージで済ませる、って話だったはずだよね!?」
そう言いながら、大神達を守るため、と言うよりは、どちらかと言うと俺を止めるため、と言った感じで俺の前に飛び出して来る乾。
そんな乾へと視線は向けながらも、決して意識は周囲の『敵』からは外さずに探り続け、そのついでにタツへと左手でハンドシグナルを送っておいて、何時でも戦端を開ける様に準備させておく。
タツの方の準備が終わった事を横目で確認し、何時でも攻撃が可能な状態になってから、ようやく口を開き、目の前の乾に対して現在の状況の説明と説得を敢行する。
「……確かに、元々の想定では、何かしらの事故が起きなければ、重傷すら負わせずに、ただ単に強制的に明け渡させるだけで済ませる予定だった。……だが、今は状況が違う。
そいつらは、『鬼』に成り果てた。成って果ててしまっているのさ。
『人』としての最大の禁忌、禁忌中の禁忌である『人喰い』の咎を犯し、それでいて尚そうして平然と佇んで居る。
そう言う輩は、その時点で精神性からして『人』のソレとは大きく異なってしまうし、そんな奴等とは、共に同じ道を歩めはしない。
何せ、既に奴等は、俺達の事を『簡単に手に入る肉』としか認識していない。
それは、死者を己の内側に取り込む為の『儀式』でも無く、己が真の戦士であると訴え掛ける為の『儀礼』ですら無い。ただただ身近に有る『肉』を、手軽に手に入る『肉』を喰う、そうとしか認識していない、そんな存在に成り果ててしまっている。
そんな奴等は、幾ら元知り合いだとは言え、何時かこちらが襲われて喰われかねない。
放って置いてやる、なんて選択は有り得ないんだよ。
それに……」
そこで一旦言葉を切った俺は、空けておいた左手で乾を抱き寄せると、その場で軽くバックステップを踏んで距離を取り、カウンター気味に右手の槍を突き出した。
すると、乾の真後ろ、俺からも、狙われていた本人の乾からも視線が向けられない死角から、凶器を持って飛び出して来ようとしていた男子が、丁度良く穂先のド真ん前に躍り出て来て、その勢いのままに飛び込んで来る様は、まるで自ら突き刺さりに飛び出して来たかの様ですらあった。
「ギャッ!!!」
案の定、そのまま突き刺さったそいつは、少しの間叫び声を上げながらもがいていたが、それも長続きせずにそのまま息絶えると、最後まで手に握り続けていた凶器が零れ落ち、地面へと転がってカラン、と軽い音を出す。
その、哀れな名も知らぬ(覚えていない)クラスメイトを腕の一振りで槍から外して打ち捨てると、まだ血にまみれて赤く染まったままの穂先で、先程まで握られていた凶器を指しながら、決定的な事柄を、まだ現状が今一理解出来ていないらしい乾へと突き付ける。
「……それに、もう既にわかっているとは思うが、あいつらはこっちが『クラスメイト』だろうと一切気にせずに殺しに掛かっている。
その証拠に、便利に使えるモノであれば、それが元人間でも、躊躇無く使って来ているだろう?」
……そう、その、俺の槍によって示されているソレは、パッと見ではただの白っぽい短剣の様にも見えるだろうが、よくよく見てみれば、刃として使われていたであろう、石か何かで研がれて鋭くなっている部分と、滑り止め様に蔦の類いが巻かれ、位置的に柄として使われていた部分は、何処にも切れ目が無く、元々一つの細長いナニカを削って短剣の形に整えたであろう事が窺える。
そして、その柄の部分に残されている特徴的な、それこそ、まるで何かと組み合わせて間接部として利用するための様な突起部分に視線を向けた乾は、まるで信じられないモノを見ている様な表情をしてから、俺へと顔を向けるが、その顔には、自分が気付いた事を、俺に直接否定して欲しいと書いてある様な表情で訴えて来る。
……俺としても否定してやりたい処だが、恐らくは事実なのでソレを否定してやる事は出来ない為、無言で首を左右に振る。
すると、まるで最後の希望が打ち砕かれた様な、ある種の漂白された様な表情を浮かべながら、俺にすがり付く様にへたり込んでしまう乾。
そう、その短剣は、ナニカの動物の骨、より具体的に言えば、人間の骨、恐らくは、太さや長さから考えて、この場に居ない男子の大腿骨を削って作られたと思われる。
そして、ソレを見て、実際にそれで危うく殺される処だった事を思い出して恐怖しつつ、そこから感じられる狂気等の感情から、腰を抜かしてしまったと考えられる。
まぁ、当然の反応と言えるだろう。
……俺みたいに、平然と判断できている方がおかしいのだから、ね。
そんな乾を、先生の護衛の意味合いも込めて桜木さんへと渡して対応を頼み、向き直って大神へと穂先と同時に殺気の矛先も向けて、戦闘の意識と殺意を隠すこと無く突き付ける。
すると、いつぞやの事を思い出したのか、それとも相手の殺気の度合いで、相手の力量を測る技術を身に付けたのか、それまでのニヤニヤとした嘲笑を引っ込め、慌てて俺から距離を取るために後退る。
あから様な隙ではあるが、敢えて突きはせずに放置して見送り、槍を構え直して他の連中への牽制だけに止めておく。
そんな俺の挙動に、最初は訝しげな表情を浮かべた大神だったが、俺が殺気に反して手を出して来ないことについて、何やら自身の中で答えを出したらしく、得意そうな顔をしながら再度こちらを見下している様な口調で話し出す。
「おやおや!確か……タカナシとか言ったか?君、以前も今回も、あれだけデカイ口叩いておいて、実は『人を傷付けるのが怖い』とか言うチキン野郎だったって事なのかな!?
これは、とんだお笑い草じゃあないか!
……あぁ、それとも、紗知達の前で、自分の手を汚すのを見られるのが怖いのかな?
ハハッ!ならば、ずっとそのまま突っ立って、自分が死ぬのを見ているが良いさ!残念ながら、僕は君とは違って、自分の手を汚すのに躊躇しないタイプだからね!今までだって、欲しいと思ったモノは全部そうやって手に入れてきたんだからさ!!
……それにしても、紗知も見る眼が無かったんじゃないかな?幾ら僕の気を引きたかったからとは言え、そんな腰抜けなんかに着いていくなんて、何を考えていたのか僕には理解出来ないよ!」
そう、自らの方が優位に有ると勘違いしているらしい大神が、また嘲りの色を隠そうともしていない態度で俺への侮蔑を吐き出しているが、元より盛大に勘違いして騒ぎ立てているので、あまり腹立たしいとは思わないし、むしろ何処か哀れな感じすらしてくる。
だが、そんな俺の内心を知っているタツは、俺と同じく聞き流しながら待っているが、俺達以外の面子、特に、先程までショックでへたり込んでいたハズの乾と、俺としては割とポヤポヤしているイメージの有った先生が、どうやら大神からの挑発に乗り掛けているらしく、ほとんど怒髪天の状態に近い処まで行ってしまっている様子である。
……なんだろう。
こんな状態で思うのはちとアレかも知れないけど、自分以外で怒っている人を見ると、逆に冷静に成るって事はよく聞くが、こうして自分のために怒ってくれている(……多分)人がいるって言うのは、案外と嬉しく思える気がする。
そんなことを思いつつも、大神が今だに垂れ流している妄言(主に『自分が如何に偉大であるのか』を強調している。むしろそれだけ)を完全に聞き流す。
それと同時に、そんな俺への数々の侮辱に耐えかねたのか、戦槌で頭部を粉砕したり、華麗なるヘッドショットにてワンキルを決めようとする一部の人間を、俺がまだ動かない事から、何か考えが有るのでは?と察していた他の女性陣が、辛うじて抑えているの様を眺めつつ、俺はこの場に居ないあいつからの合図を待ち続ける。
そして、大神の戯れ言(俺は童貞じゃないし、俺のブツはお前のストローより遥かにデカイぞ?)を聞き流すのが、いい加減辛くなってきた頃、ようやっと待ち焦がれていた合図と共に、最初から別行動を取っていた二人が、敵陣営の背後から気配も無しに突然現れる。
「……え~っと~……一応聞いておくけど~、これって~、そう言うことだと思っても~、別に構わないんだよね~?」
『……ふむ?こ奴らはお主らの同郷の者なのであろう?じゃのに、頭の中は、お主らから奪い、犯し、喰らう事しか考えてはおらぬぞ?
……はてさて、『人族』とは共喰いをするような種族だったかのぅ?』
遅れていた二人がこうして合流出来たことで、こちらの戦力は万全となり、ようやく戦闘を仕掛ける事が出来る。
……さぁ、鬼狩りの時間だ……。
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現状の様に、戦闘状態に移行した場合を想定し、予め周囲に伏兵が居ないかの確認を頼んでいた為、現在の状況が今一理解出来ていない二人に、敵勢力である大神達を挟んだままで説明を行い、情報を共用する。
……しかし、周囲の警戒要員+人数の軽減による敵の心理的油断を誘う事を目的とした配置だったのだが、案外と上手い事行ったみたいで、こうして相手の伏兵の心配をせずに、敵勢力を挟撃出来ているのだから、ある意味『最適解』だったのかも知れない。
ちなみに、俺が一番警戒していた伏兵の方だが、レオが周囲一帯を見回って来た限りでは、合図の類いが有った処で直ぐに駆け付けられるような距離には誰一人として居る、又は居た形跡は無かったらしく、ただの取り越し苦労となってしまっている。
そんな訳で、レオとリンドヴルムが戦線に復帰したことにより、現在進行形でほぼ一方的な蹂躙戦が展開されているのだが、今の今までそうしなかったのには、それなりに理由がある。
それは、レオ達が確認してくれたお陰で無くなった、伏兵による女性陣への『攻撃の可能性』である。
俺達やリンドヴルムに対する攻撃や、もしくは人質として利用しようとする様な行動であれば、容易く踏み潰せるのだが、その対象が女性陣になってしまうと、万が一が普通に有り得てしまっていたので、戦端を開く前にその可能性を潰してしまいたかったのである。
一度戦闘が始まってしまえば、どれだけ気に掛けていたとしても万が一が有り得たからね。
……まぁ、でも、この女性陣なら、そうなったとしても自分でどうにかしそうだけども……。
もっとも、その余計な作戦の為に、二人が戻らないと、女性陣の護衛に一人付けるのも覚束無くなってしまい、こうして戦端を開く事が遅れてしまった訳ではあるのだけれども。
そんなこんなで戦闘が展開され、女性陣の方は『専守防衛』を厳命とした上で護衛としてタツを付け、俺とレオ、そしてリンドヴルムとで近くに居た連中から、手当たり次第に狩って行った。
途中で、大神から
「何故だ!?何故紗知達の目の前で、そんなに平然と手を汚せるんだ!!?」
とか言う、勘違い満載のセリフが飛び出して来たが、そんなものに答えてやる義理は無いので、鼻で笑って戦闘を続行する。
……別段、訂正する必要性が感じられなかった為、全くもって訂正してこなかったけれど、ぶっちゃけ『人』ならば、修行の行程で何人も草葉の影に送り込んでいるし、そもそも乾の目の前で一人殺しているのに、今さらそんなことで躊躇するとでも思っていたのだろうか?
そんなことを考えつつ、槍を振るってまた一人、新しく首無し死体に変えてから、次の奴目掛けて槍を振るう。
するとそいつ(男子、身長は高め、体格からして運動部、名前は……忘れた)は、他の連中よりかは危機管理能力が発達していたらしく、俺達と同じ様にスキルを発動させ、それによって造り出したと思われる盾を構えて、俺の一撃を防ごうと試みてくる。
そうして、俺の槍の軌道上に、障害物として差し込まれ、使ってきている相手の態度からかなりの強度を誇る事が予想された盾なのだが、俺の一撃に対しては障壁足り得なかったらしく、あっさりと盾ごと貫かれ、驚愕の表情を張り付けたまま絶命する。
槍を振るってまた打ち捨てると、改めて手の中に収まっている相棒……いや、『元』相棒へと目を向ける。
何故に『元』が付くのかと言えば、見た目が大きく変わってしまっているからだ。
元々は、どう言う製法で造られたのかさっぱり分からない真っ黒な穂先だったのが、これまたどう言う理屈で着いているのか分からない、艶のある焔の様な朱に染まり、柄は柄で、黒かったハズなのに、まるで真っ赤な焔のレリーフでも彫り込んだかの様な模様が入っているのだ。
……いや、ね?
おそらく……と言うか、ほぼ間違いは無いだろうと思われる心当たりが一つ有る。
と、言うよりも、それ一つしか無い。
おそらくはあの時、リンドヴルムの血に浸かっていた事が関係しているとしか思えない。
リンドヴルム本人も、『龍の血』は薬として使えるだけでなく、武具を鍛える際に使用すれば、その性能を飛躍的に高める事が出来る、とか言っていたし、本人に確認させてみた処、ほぼ間違いなく『龍の血』を使用した武具である、とのお墨付きを頂いてしまっている。
なんだかなぁ……とは思いながらも、重量や長さが変わった訳ではないので、使用感は変わっていないので、正味性能だけが上がっているみたいなのだが、お気に入りの道具を勝手に改良されたような、なんとなく微妙にモヤッとするのである。
まぁ、使えればそれで良いと言えば良いだけれどもね?
そんな訳で戦闘が、こちらには被害が出ない(出る訳も無し)ままに進み、もう立っている敵が大神とその取り巻きである猪戸と巳道寺だけになった。
だが、大神達はそんなピンチな状況にもかかわらず、未だに余裕を持っている様な雰囲気を漂わせている。
不審に思っていると、ようやく自分達の出番か、と言わんばかりの態度で、油断満載隙アリアリの、何を考えているのかさっぱり分からない格好のまま、こちらに近付いて来る。
そして、猪戸が前衛、大神が中衛、巳道寺が後衛にあたる位置にポジショニングすると、それぞれがスキルを発動させたらしく、謎の光に包まれる。
その光が収まると、それぞれ猪戸が鎧、大神が剣、巳道寺が杖(?)を持っており、自信満々にそれらを構えている様から、それらが自信の元であり、どうやら俺達にも勝ちうる根拠的なナニかであるらしい。
そして、それらの説明をするつもりなのか、そのままの位置で口を開きかける大神達だったが、別段それに付き合ってやらねばならない理由も義理も無いので、俺とタツとレオとでさっさと襲い掛かる。
「なっ!!!?君達には、空気を読むって事をするつもりが有るのか!?」
「そんなものは無い!!」
そう言いながら槍を振るうが、どうにかこうにかと言った体では有るが、なんとか俺の一撃を受け止める事に成功し、それによって勝ち目が有るとでも勘違いしたのか、一度離れてから俺へと踏み込んで来て、上段からその剣を振るってくる。
そのへなちょこな降り下ろしを、防御しようか避けようかどうしようかな?と悩んでいると、どうやら反応しあぐねていると勘違いしたらしく、得意気に自身の能力について解説してくる。
「ハッ!どうだ、この剣は!幾ら君でも反応出来まい!!
この剣『勇者の剣』は、必ず当たる『全撃必中』と、当たれば必ず相手を切り裂く『絶対切断』が付与されている!よって君に勝てる道理は「よ、っと」ガァァアアアア!!?」
……だが、別段それを最後まで聞かなくてはいけない理由は無いし、そもそも大神が本当の事を言っている保証は欠片も無い。
もっとも、仮に言っていた通りの能力とやらが付いていたとしても、別段俺に当たると決まっている訳ではないだろうし、そもそも当たらなければ意味がないだろう。
そんな訳で、大神が剣を降り下ろす前に受けず・避けずに攻撃してやったのだが、何が理由かは知らないが、どうやら微妙にしぶとくなっているみたいで、俺の一撃を貰っても、まだ生きているみたいである。
どれ、止めでも刺しておくかね、と近付こうとしたのだが、折り悪くタツとレオの二人も、似たような場所にそれぞれの相手を、似たようなタイミングで半殺しにして吹っ飛ばしてしまったらしく、突然一人のハズが三人に増えるなんて事態に、一瞬全員が固まってしまう。
そして、その隙を突かれて、比較的軽傷だったらしき巳道寺が杖をふりあげ、強烈な光を発生させる。
その光によって奪われた視界が戻ったときには、既に大神達は俺達の目の前から消えていたのであった。
「……追うか?」
「今ならまだ~、追撃も簡単に出来るけど~、どうする~?」
「……いや、このまま放って置こう。魔物に喰われるなり、野垂れ死ぬなりさせた方が、奴等には罰として相応しいだろうよ」
そして、そんなもんかね?と、一応は納得した様子の二人と共に、他の面子の元へと移動するのであった。




