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女神の彼氏は死霊使い?  作者: き・そ・あ
本編 鮮血の姫君
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6 Kill with a smile

「今日はまた人が多いな」


 小さな町のメイン通り。

 この町にこれほどの人間がいたのか?と思うほど大量に溢れた人間たちを前に、俺たちは成す術がなく必死に陣地を守っていた。

 町を横断するように作られているこのメイン通り。

 今日、この時間通りを誰も通さずに空けておくこと。

 それが今回ギルドから冒険者たちへ伝達された仕事だった。


(やはり、受けるべきではなかった。)


 こちらが抑制しても、既にすし詰め状態の路肩。軽く押しただけで群衆のパワーが津波のように何重倍にもなって戻ってくる。

 あまりの大変さに後悔しか残っていない。あの猫耳がニヤっとわらうような顔が脳裏によぎると、無意識に殺意が湧き上がる。その瞬間、人間たちが何かを察したのか一瞬自ら俺から離れていくように見えた。

 一瞬、よしっ!と思ったがそれではいけない。恐怖で占拠しているのでは昔と変わらない。

 俺は下手くそな愛想笑いを浮かべて、


「すいませーん。こっから先は通らないでくださーい」


 と、優しく言ってみると効果があったのか、人の波は少し落ち着いたように見えた。


「あ、ありがとうございまぁす」


 俺はヘラヘラと笑いながら列を少しづつメイン通りの端へ端へと群衆を押していく。


(人間は、話せばわかるもんだな)


「すいませーん、すいませーん」


 なんだか楽しくなってきた俺は、そのままヘラヘラと笑いながら作業を進めていく。

 むしろ、楽しい。

 人間たちが俺の言葉一つで動いている。なんだ、この圧倒的権力をもった気分は。


「おーい!!もらってきたよー!」


 ティグの所へロープを受取に行っていた3人が遠くから帰ってきた。

 この群衆を相手に、長いロープを各チームへ支給し、このメイン通りの最初から最後まで冒険者で壁を作り隔離するようだ。

 なんせ、距離が長いからロープの調達がギリギリになるとは聞いていたが、なんとか間に合ったようだな。


「あ、でもだいぶ抑えられてるねぇ。おにいちゃ・・ん?」


「ほんと、意外だわぁ。これならうちら楽ができる・・うげ」


「ごめんなさい・・・大変だったんですね。本当にごめんなさい、一人にして」


 笑顔の3人は表情が凍りついた。


「おぉ、3人とも。すまんな。助かった。じゃあ・・・?どうした?ほら」


 俺がマナの持つロープを取ろうと手を伸ばすと、サッと手を引っ込める。

 まぁ、ルナと組みたいのか?と思いリアの持つロープに手を伸ばすとリアはザザザっとマナの方に逃げていく。


「ど、どうしたのだ?お前たち。」


 俺がその理由を聞いたあと、数時間立ち直れないほどにショックを受けていたのは想像に固くない。



「もうすぐ、私たちの出番みたいよ?」


 適当なところに腰をかけ、一人離れていた俺に近寄っていたのはリアだった。


「あぁ。わかったあ」


「いい加減立ち直りなさいよ、魔王軍最強の男がたった二人の女神に『笑顔が気持ち悪い』って言われたくらいでへこたれないでよ!情けない。私はそんな情けないへこたれ魔族の眷属か・・・。」


 力なく返事をする俺。その俺を見てさらに脱力するリア。

 たった二人の女神にここまでズタボロにされ、人間界の片隅でしょんぼりしている俺たちを見ると、おそらく魔王軍の威厳など微塵もなくなるだろう。

 いつもなら必ずお落ち込んだ時にフォローしてくれるルナも今回は来てくれない。

 それがまたダメージを俺に与えてくる。

 抜け出せない毒の沼地にいるようだ。

 人間たちは俺の笑顔とやり方に好感を得て言うことを聞いてくれていたのかと思ったが、まさか気持ち悪いから関わりたくない。とは考えもしなかった。

 死霊軍の連中は、俺のことを気持ち悪いなんて言わなかったし、まさか見ず知らずの人間に対して(俺は人間ではないが)言う言葉か?気持ち悪いとは。


「すまん。俺も今回は何も言えん」


 いつもならなにか言うところだが、今日はまったくもって元気が出ない。

 人間に言われたこともショックだが、ルナにもそう思われたのか?と思うとショックがでかい。

 マナの浄化パンチよりもクリティカルだ。死にたい。

 賑わう人間たちをよそに、魔族ふたりはひっそりと、うなだれていた。


「二人共、いい加減に帰ってきてよ!こっちはこっちで忙しいんだってば!」


 しばらく二人でうなだれていると、しびれを切らしたのかマナが一人近寄ってくる。

 まただ。また、ルナは来ない。


「あのね、いちいち気持ち悪いって言われたくらいでいじけんじゃないの!」


(はうぅっ)


 胸に刺さったトゲがさらに深く刺さる感触・・・。

 そんな俺のデリケートな気持ちなんて微塵も分かっていないこいつ。短く折りたたんだロープの先をクルクルと振り回しながら短気なシスコン女神は俺の前に仁王立ちになり怒り始めた。


「何をそんなにいじけてんのよ!いつも散々ティグに気持ち悪いって言われてるじゃん!」


(た、確かに・・・)


 女神の言葉が魔族の体に響く。

 リアはリアでやるきのなさそーな顔をしてボーッとしている。


「第一、今まで自分のこと格好いいとかもってたの!?それも気持ち悪い!」


(ぐふぅ・・・や、やめてくれ)


「いや、そんなことは思ってー」


「だからいけないのよ!そんなナルシストじゃ、みんなから気持ち悪いって言われるよ!」


(か、勝てん)


 俺の言葉は最後まで発せられることなく、かっこいいと俺は思っているという誤解を新たに産み落としマナのマシンガンの前に葬られた。


「ほら、早くして!リアちゃんも!!そこでこいつの真似してないでいいから!」


「はぁい」


 マナはロープをリアに少し雑に渡すと、何度か俺の方を見てそのままルナのもとへ歩いて行った。

 リアはマナからロープを受けとると、だるそうに立ち上がりため息を捨てその場からゆっくりと歩いていく。


 そりゃ、この体は戦死していた人間のものを見て変身したもので、俺の体ではない。

 それに、あの時はまさかこんなことがあるとはも思いもしなかった。容姿など気にせず、とにかく魔王軍から逃げたかった。

 ただ、それだけだった。

 それが、まさかこのような形で生活に影響をきたすとは思わなかった。

 しかし、言われてみればそうだ。


(ルナの好みとは・・・どんな男だ?)


 すでに溶けかかった思考回路に一条の光が差し込んだ。

 このまま腐るだけだったものが、ルナの好みの男とは?という議題に頭がフル活用され始めたのだ。


(考えてみれば、女神といえどルナは女。女であれば好みの異性くらいいるのが普通だ。やはり神か?大神官や天使長などが理想なのか?)


 考えれば考えるほどわからない。今まで一緒に暮らしてきたが、男に対してなにか特別な素振りは見せたことない。

 それに、考えてみろ。俺はルナと、き、・・・キスをしたこともあるんだ。

 そうだ。さっきもルナからは気持ち悪いとは言われていない!!。

 考えれば考えるほど、俺は希望を持ち始めることができた。

 なんだ、この人間どもの声はもはや俺に向けた歓声にしか聞こえない。

 俺は口元が緩むのを必死に耐えながら静かに立ち上がると、リアの方へ歩き進める。


(なぜだ。この人間どものざわめきが心地よいぞ)


 一歩、一歩と前に進むたびに湧き上がる歓声。

 俺はリアが持つロープの片割れを掴むと、キメ顔で言い放った。


「またせー」


「だから、そのニヤケ顔が気持ちわるいんだって!」


 リアは動かなくなった俺をその場に残し、ロープの片割れを持って指示されている場所へ走っていった。

 俺には、なんとなくわかる。

 今、視線が合わなくとも、マナ、ルナがこっちを見ていることを。

 きっと、引いた顔で俺を見ていることだろう。

 人間界でも、俺は何か大切なものを失った気がする。

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