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女神の彼氏は死霊使い?  作者: き・そ・あ
本編 鮮血の姫君
57/63

4 無職はつらいです

 

「んん~~っ!!おいしぃ!!」


 ギルドそばの喫茶店の中に若い女の声が響く。

 その声は隣の席はもちろん、店内にいる者全てに聞こえるようなボリュームで、恍惚とした、ずっと禁欲していたものが解放されたかのような満足そうな、耳にしたものが一度は振り向いてしまう。そんな声だった。


 俺はその席に同席し、発信源であるルナの目の前にいる。


 正直、俺も驚いている。


 隣のマナ、斜め向かいのリアもルナに視線を奪われている。

 なんだこれは?天界の、女神の魔法なのか?聞くものを魅了する、などなにか効果があるのか?

 店員、客の全てが時間を止められたかのように魅入っている。


「ん?どうしたの?」


 ルナはそんな周囲の状態がおかしいことに気が付くと、目の前に置かれているパフェをつつきながら辺りを見回した。


「い、いや。別に・・・」


「ルナお姉ちゃん。大胆・・・」


「・・・」


「えっ?だ、大胆?何が?ちょっとマナ、何か言ってよ?どうしたの?何か変だった?」


 当人は意味が理解できていないようだった。

 周囲の人間たちも、次第に我に返り視線をルナから逸らしていく。


「お前、本当に好きなんだな」


「なぁに?ヴァレットは私が甘いもの好きだとおかしいって思ってるの?」


 周囲の対応が気に障ったのか、少し苛立ったような声でルナは喋った。


「いや、そんなことないさ。ただ、本当に美味そうに食べるものだな。と思ってな」


「うん、お姉ちゃんがそこまで甘党だったとはうちもしらなかった」


「マナにも内緒だったけど、これでも天界にいた頃はいろいろなスイーツのお店を堪能して回ったのよ?人間界には美味しいものがたくさんあるでしょ?それを天界でちょ~っっとアレンジして売ってたりするのよ。意外と人気ですぐになくなっちゃうんだから」


「あぁ!もしかして、たまにふら~っと仕事放り出していなくなる時って、そんなことのためだったの!?いつも戻ってくるとなんか満足そうな顔してたし!!」


 最初は『ふぅ~ん』といった感じで聞き流しながらパクパクと口にクリームやらアイスやらを運ぶマナも放浪癖があるのか、天界での姉の行動に違和感を感じ異議をとなえている。

 そら、仕事中に無断で食物食ってたら怒るわな。


「そ、そんなことってなによ!私にしてみたら毎年数回しかない貴重なイベントなのよ!」


 天界には、そんなイベントがあるのか。

 魔界にはなかったからな。甘いもの。天使様や女神様が好物なのか。


「うち、お姉ちゃんがいなかった時に一人で魂の選定してるとめっっっちゃ大変だったんだからァ!!」


「ごめーん!お詫びに、このフルーツマナにあげるからぁ」


 スプーンで小さい赤い実をマナの器に入れると、恥ずかしそうに照れ笑いをしているルナ。


「お姉ちゃんは酸っぱいのが苦手だからこれいらないんでしょ!さっき食べたから知ってるんだから!」


「あぁ、バレてたの?あはは、・・・ごめん!これからは人間界にいるんだから、昔のことは忘れて仲良くしましょ!?」


「はぁ!?」


「何を話してるんですか?みなさん、楽しそうですねっ!」


 ルナのわがままで好き放題な過去が暴露され、マナが裏切った姉へ怒りに燃え、今まさに人間界のこの小さな町の喫茶店で女神同士の姉妹ゲンカが始まろうとしていた時だった。

 目の前であまり深く考えないで満足そうにパフェを頬張るルナを見て、マナの頭のなかで何かがはじけそうな時に俺たちにここで働くウエイトレスのサシャが声をかけてきた。

 俺以外の3人は彼女の突然の登場に驚いたのか、さっきまでの言い争いも収まってしまった。


「ヴァネットさん!また来てくださったんですね!」


『ヴァ、ヴァネット、さん??』


 マナとルナが声の主を確認すると、その視線は俺に注がれた。

 どうしたのだ?ただ、呼ばれただけなのだが。

 それにしても、この殺伐とした空気の中屈託のない彼女の笑顔は癒される。彼女は俺が連れてきた(現実的に言えばルナを追ってきたから連れてこられた)3人を見て満足そうに、嬉しそうに笑っている。


「あぁ、約束したからな。こいつらが俺の仲間だ。女神・・・いや、神官のルナと、・・・ルナと。」


「ちょっと!なんでうちとリアちゃんを見て言葉に詰まるのよ!!」


「いや、お前たち。・・・その、仕事というか・・・、職業が・・・。」


「あぁ、フリーってやつですね!定職に就かないで養ってもらってるっていう」


『はぁ!!?』


 リアとマナが席から勢い行く立ち上がり、椅子が彼方へと飛んでいく。

 サシャは自分に対し怒りの矛先が向いているとは思ってもいないようだ。

 人間界では、働かないものをフリーと呼ぶのか。覚えておこう。

 しかし、その通りで俺たちはギルド登録の時に戦士と神官、とティグから聞いたが・・・。

 この2人はなんだろう。


 しかし、一応悪魔のサキュバスと星の女神のマナ。

 一村娘に「仕事にもついていないやつ」と呼ばれたことが頭にきたことは事実。

 見間違いならいいがふたりの背後から人間からは決して発せられない黒と白のオーラのようなものが見える。・・・ような気がする。


「あんた、うちらに喧嘩売ろうっての!?」


「そ、そんなまさか!私はただ」


「いやいや、この二人もパーティ仲間なんだが・・・。すまん。俺も加入の時にまともに聞いていなくてな。ティグなら、・・・あぁ、ギルドの受付をしているやつなら知っているんだろうが。」


「そうなんですか?」


「あぁ、こいつらはお荷物なんてものではない。マナはそうだな。魔法騎士。とでも言うべきか」


 マナを見ながら何が得意か考えていた俺は初めて出会ったときに天空から放たれた光の槍を思い出した。

 こいつ、シスコンのダメ女神に見えるが怒らせると怖いんだよな。女神と破壊神は紙一重なのかもしれない。


「ま、魔法騎士?そうね、いいかもしれないわ。うちは今日から魔法騎士としてお姉ちゃんを守るから!」


 ご満悦な表情で俺が適当につけた魔法騎士。という名前に満足気なマナ。

 拳を前に突き出し、親指を立ててルナへ向かってなぜか誇らしげに笑っている。

 でも、適性はティグが知っているのだが、これで騎士見習いとかだとまためんどくさいな。


「まま魔法騎士様ですかっ!?どこのパーティも欲しがる攻防優秀な職業だと聞いたことがありますっ!まさか、そんなすごい方がいらっしゃるとは・・・。すいませんでした。偉大な方は自らを誇示されないものなのですね!!」


「いやいやぁ・・・。そんなこと、わかればいいのよ!」


 すっかり満足されたマナは吹き飛ばした?椅子を拾ってくると今更ながらになにか鼻につく仕草で『他とは違う自分』。みたいなものを演じて優雅に?席に着くと目の前のパフェをつつきだした。


「そうしたら、この小さな女の子ももしかして・・・」


「ふふふ・・・。リアも、見た目は子供かもしれないけど、本当はすごいのよ!リアは・・・リアは・・・」


 自分の名前を口に出すたびにチラッ。チラッとこっちを見ている。

 何か?マナの時のように助けろ。とでも言いたいのか? 

 なんて迷惑なやつなんだ。こいつは。


「そうだな。リアも普通の子供とは違う。俺たちと冒険をしているんだ。彼女は・・・。リアは」


 リアは、サキュバス。

 つまり色魔という部類である。


 見た目は子供なのに?

 戦闘経験は、以前ちょこっと。


 死霊軍が侵攻してきたときは助けられたことは事実だが・・・。

 幽霊屋敷では確かおもらしをしていたような。


 その後、真っ先に消えて意識を奪われて・・・。

 ルナと仲良く寝ていたような・・・。


【ちょっと!!なにか言いなさいよ!!私は魔界で最強の死霊使いヴァネットの眷属なんでしょ!!】


 馬鹿かこいつ?

 まさかこの場で、『我は魔王軍最強の戦士!』とでも言えと?

 そんなことしたら2人の女神に一瞬にして浄化されて文字通り跡形もなく消え去るわ!!


「そいつは・・・」


 俺はコーヒーを口に運ぶと、そのまま静かにサシャへ教えた。


「森で襲われているところを助けた身寄りのない娘だ」


 家に連れて帰り、ルナへ最初話した時のリアの設定を。



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