プロローグ 死霊使い再び
「我は魔王腹心の一人、死霊使いのヴァネット!現魔王軍最強の戦士なり!我らが魔王様に仇なす愚かな生き物共よ。後悔するがいい。己が信じる神の無力さを!!!!」
燃え盛る都に俺は死霊軍を率いて進軍していた。
我ら魔王軍最強。不死の軍団が通ったあとには廃墟しか残らない。
女、子供、老人、病人でもケガ人でも関係ない。
我が魔力を持って忠実なる我が下僕として軍門に下るのだ。減らぬ。死なぬ。死を恐れぬ。
それが魔王腹心最強とも謳われる我、ヴァネットが率いる資料軍だ。
崩壊する建物。
大地を彩る鮮血。
どんな楽団が奏でる曲よりも素晴らしい命をかけた戦いの協奏曲。そして、断末魔の叫びが重なり合っていく。
勇者が現れなくなり数百年。
駆け出しアンデットだった俺が今の地位まで成り上がってから、『登りつめた。』と、思い今では戦で高揚感など得られなかった。
しかし、今日は違う。
動くはずもない心臓のある胸が、高鳴るような感覚。
そう、あの城を攻略することが我が望み。我が野望。
今、それが叶う!
「全軍、進軍を継続せよ!抗うものは切り捨てよ!逃げるものには死を与えよ!この地の人間を1人たりとも逃すでない!!」
「・・・」
俺は廃墟と化した人間の都をズカズカと進んでいった。
息絶えそうな人間もいた。
バラバラになった死霊兵もいる。
中には人間界で魔界にはない珍しいものを物色しているような者もいた。
しかし、今はそんなことどうでもいい。
あの城に、あの城にいかなくてはならない。
「ルナ!!」
俺は声を出して、誰かを呼んでいた。
ルナ?
どこかで聞いたことがある。なぜか、とても懐かしい。
そして、とても大切な感じがする。
俺は、何を思って声に出したのか・・・。
誰のことを-
「人殺し・・・」
急に、誰もいないはずの背後から声がした。
部隊の最後方に位置していた俺の後ろに誰かがいるはずがない。
慌てて振り向き、身構えるとそこには、今しがた生まれた死霊たちがゆらゆらと立っていた。
この戦場で命を落とした人間たち。新たに我が魔王軍として活躍する仲間だ。
「人殺し。人殺し」
「な、何を言う!?人殺しなどでは・・・」
「ヴァネット様・・・ヴァネット様。」
「どうして、俺たちを見捨てたんですか」
今度は右側から声聞こえる。聞いたことがある、懐かしい声だ。振り返るとそこには幾戦も戦い続けた仲間たちが無残な姿で立ちすくんでいる。
「ど、どうしたのだ!!誰にやられた!!?敵か!!」
「誰って・・・。知ってますよね?」
また、別の場所から声が聞こえる。
「その声は・・・。闇夜の死者か」
ゆっくりと振り返り、その姿を確認する。
その姿からは何も感じられない、骸そのものだった。
「ヴァネット様。我ら死霊軍は、あなたを信じていたのに・・・。天使との戦い。なぜお助けいただけなかったのですか。我らはヴァネット様が来てくださると信じて戦っていたのに・・・大勢の仲間が浄化され消えて行きました。・・・この裏切り者」
怒り、不安、憎しみ。負の感情が一切なく、棒読みの言葉にはむしろ恐怖すら感じる。
『人殺し』
『どうして見捨てたんですか』
『裏切り者』
暗い、ひたすらに暗い空間に彼らの姿がぼんやり浮かび上がり、頭が割れるような感覚に襲われる。
目の前がグルグルとまわり、みんなの顔が順々に巡っている。
「やめろ・・・やめてくれ。見捨てたわけではない。我は・・・我は・・・」
「ヴァネット・・・」
風にかき消されそうなほどの小さい声が聞こえると、三者の姿、声がかき消されていく。
その声は、まるで天使のような、優しい女の声だった。
(心地いい。癒される声だ)
遠くの方で聞こえた声は次第にゆっくりと近づいてくる。今にも手が届きそうなくらいに。
「どこだ・・・。どこにいるのだ?」
「ヴァネット・・・」
呼びかけに応えるかのようにその声は暗い世界に響いている。
反響してしまってその姿を見ることはできない。
「どこだ・・・。どこにいる」
馳せる気持ちを押さえながら、暗闇の中がむしゃらに動き、手を伸ばすも虚しく空を舞うばかり。
その声の主を探しているときは、自分が魔王軍であることも、死霊使い(ネクロマンサー)と呼ばれたことも、魔王軍幹部であることも忘れ、ただ、すがる様な思いしか残っていなかった。
この暗闇から抜け出したい。
俺は悪くない。
誰かに救って欲しい。
(そうだ・・。俺は、俺は見つけたんだ。)
そう、ゆっくりと思い出してきた。
俺は、ルナを愛している。今までは魔王軍幹部として生きてきたが、女神であるルナのことを愛している。
この声は、ルナのものだ。いつも、暗く、闇と血に染まった俺の道を明るく照らしてくれる。
俺は、彼女をこの人間界で守りたい。守っていきたい。そう思っている。
「ヴァネット」
すぐ、近くで声がした。
俺の真後ろで。
「ルナ!」
俺が振り向くと、そこには全身傷だらけで真っ赤に染まったドレスを着て、悲しそうな顔をしたルナが立っている。
「な、あ、・・これは・・、な」
ルナの姿を見た途端に言葉を失ってしまった俺はただ、ルナのことを上から下まで何度も見ることしかできなかった。
「わたし・・・。信じてたのに」
ルナが発した最後の言葉は俺の心と脳に鋭く突き刺さった。
聖魔法で浄化されるよりも痛く。
鋭い槍で全身貫かれた時よりも熱く。
体の真ん中に大きな穴ができたような感覚だった。
ルナはそのまま力なく膝から崩れ落ちるように大地へと倒れゆく。
俺はすかさずルナの体を受け止めようとするも、彼女の体は関節ごとにバラバラに切り刻まれ、細かな部位となり積み木のように崩れ落ちた。
「うあ・・るな、るなぁ・・・るなあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
発狂した俺は一気に意識を取り戻し、ソファーに座ったまま目を見開くと、そこには驚き、きょとんとした顔のルナ、マナ、リアの姿があった。




