愚者達の聖戦
地を這う氷を切り裂き、迫り来る火球をワームホールで転移させる。テンマの導きによって、精鋭隊は列車のように縦並びで出口付近へとたどり着いた。入り口付近に立っていたウィザードが何か声を上げ、姿を消す。
殺伐としていた洞窟内に、一時の静寂が訪れた。
「今ここから出たところで集中砲火を受けるだろうな」
「さすがに精鋭隊のボクらでも、誰か一人は死にそう。まっぴら御免だね」
あまり考えている時間がないことは皆わかっていた。焦りにも似た緊張感が場を支配した。
「作戦というには物足りないけれど、もうこれ以外に考えられない。話して良いかな」とアキが皆を見渡した。
その苦々しい顔から相当思索を巡らせていたことがうかがえた。
「……アキはこれまでにもいくつか作戦を立て、成功した実績がある。俺は、信じる」
「私も白虎に賛成ー!」
精鋭隊とエンジェル、サキュバスが頷いてみせた。アキは手短に、伝え漏れのないよう気をつけて話し始める。
────アキの作戦は、信者達を撹乱させ混戦に持ち込むことが目的であった。
まずテンマ単体で転移してから自由に行動することで意識をかき乱し、次にエンジェルとサキュバスが上空へと飛翔して地上に攻撃を放ち、視線を空へと釘付けにする。
もし信者達が洞窟を囲む陣形であれば、ここからは空を飛べる者がいなくなるためそこに穴を開けることが最優先となる。そこで足の速いクオンと青龍が洞窟を出て左方へと直進、陣形を崩す。
洞窟を囲んでいなくとも、陣形の隙間から二人を外へと出せば陣形を崩すことはできる。
この時、戦闘の渦中にない信者に『精鋭隊の残りが混乱に乗じて、今後も洞窟から脱出することを読まれる』とアキは予想した。
ここで敢えて数十秒待ち、先発組のテンマやクオンなどに意識が向くのを待つ。その間、カトレアにはテンマのワームホールからスペルを定期的に放ち、牽制する。
その後は、喚起したモンスター達を利用しつつ、クオンと青龍が向かった左方へと強引に脱出を試みる。ここまで完遂できれば、あとは個々の実力で押し切れる、という作戦であった。
カトレアが難色を示したのは、特に最後の強引に脱出を試みる、という点であった。
「最後の最後で集中砲火を受けてお終い、なんてならないでしょうね?」
「ただでさえ八方塞がりなんだ。打開できる可能性があるなら────このままじゃジリ貧だ」とアキ。
「締めくくりにやや不安の残る作戦だが、意表を突き続けて撹乱させるという点は悪くない。外の様子は私がメッセージで皆へ送信しておく。
それに、後発組が危ないようならば先発組の我々がフォローすることとしよう。それならば文句あるまい?」
「……ま、それなら良いかもしれないわね。ガードを固めた私が負けるはずはないもの」
「よし、その意気だ。全員三十秒で準備を済ませろ! やるぞ!」
テンマは潔く作戦を実行に移すことを決めた。
そうとなれば精鋭隊の行動も迅速であった。
クオンと青龍が自身の能力強化を綿密に行い、テンマは妖刀『羅刹天』を右手に、大剣『バルムンク』をワームホールから取り出し、左手に持った。
アキは地面に手をかざし、『ゴブリンロード』『プチエンジェル』『プチゴーレム』『プチベビーワイバーン』『バーンウルフ』『コボルト』を喚起した。洞窟内の密度が一気に高くなった。
「では先に行く。あとは任せるぞ。死ぬなよ」
テンマは笑みをこぼし、地面のワームホールの中へと落ちていった。洞窟内にもう一つワームホールが残される。
これだけ優秀なメンバーが揃っているんだから、失敗するはずはない。
みんなで生きて帰るんだ。
一分も経たないうちに、メッセージ画面へとテンマから一通のメッセージが送られてきた。
その内容に精鋭隊一同の目つきが一層鋭くなる。
『敵多数、陣形洞窟囲む半円形、作戦実行』
「エンジェル、サキュバス!」
アキの鼓動が、高鳴った。




