覚悟の価値
カトレアの元には三人の信者が集っていた。カトレアの超火力スペルを警戒し、距離をとっている。
しかし火炎スペルは威力と射程に優れる代わり、発動まで時間のかかるものが多い。対人戦には不向きなスペルであった。未だに一撃すら与えることができていない現実があった。
今回の場合中距離から近距離の戦闘であるため、発動の早い電撃系スペルや、火炎系スペルと電撃系の中間の性能を持つ氷結系スペルを優先することが定石である。
しかしカトレアは他のスペルを織り交ぜることもなく、火炎系スペルをしつこく使用していた。
「ジリ貧なんて無様な真似は御免よ。青龍が来ないのなら一気に叩くわ」
蛇の巻きつく杖『カドゥケウス』を突き出した。『イクスプロージョン』と唱えると杖の先に魔法陣が描かれていく。
そこから二メートルほどの巨大な火球がゆっくりと放出された。まるで小さな太陽のような火球は、信者達の前方へと落下した。
「『護法陣』」
喧しい爆発音と眩い光がその場を包みこんだ。風圧でカトレアのマントがはためく。土煙で視界が悪い中、カトレアは下げかけたカドゥケウスを再び構えた。
土煙の中から黄土色に光る、半透明の壁が生成されていた。棒先に宝珠が埋め込まれているロッドを構えている、プリーストの信者が立っていた。
それに守られるようにして、奥で前衛職二人が様子を窺っている。
眩く輝く黄色の宝珠と堅固な守護系スペルの特徴から、Sランクのレア武器『アースロッド』であるとカトレアは確信した。
「アースロッドは守護スペル強化の効果……。私のスペルに耐えるだけの力はあるようね」
相手との距離を計算したカトレアが、発動が間に合いそうなスペルを選び出そうとした。
その時、ロングソードの信者が槍の信者の足裏を剣の腹に乗せ、そのまま強く振り飛ばした。走るよりも遥かに早く、カトレアへと斬撃が飛んできた。
たかが一突き、避けれないわけがないとカトレアは体をそらして避けた。
瞬間、カトレアの全身に悪寒が走る。いつの間にか回り込んだロングソードの信者が、横目で見える視界の外から駆けて来ていることに、首を捻って目視することでようやく気がついたのだ。
足が輝いていた。何者かのサブ職業のエンチャンターか、自身のスカウトのスキルによって敏捷性を上げたことだけは理解できた。
間合いを詰められすぎた。ロングソードはリーチもあり、明らかにスペルの発動が間に合わない。体をそらしたことで体勢が不安定で対処しきれない。下手に回避しても槍の信者が待っている。
詰んだ。カトレアはそう心の中でこぼす。静かに死を確信した。
────風が吹いた。途端、槍の信者、ロッドの信者、そしてロングソードの信者が同時に飛ばされた。
呆気にとられたカトレアは嵐でも巻き起こったのかと錯覚したが、よく見れば槍の信者を青龍が斬りつけ、ロッドの信者をエンジェルが殴り飛ばし、ロングソードの信者をサキュバスが蹴り飛ばしていた。
「青龍! それにエンジェルとサキュバス……アキのかしら?」
「あれ、ようやく朱雀を見つけたと思えばエンジェルとサキュバスもいる。予想外」
信者達の士気はすっかり下がっていた。
槍の信者は、この精鋭隊を意地でも食い止めなければいずれモガミにまで手が及ぶことをわかっていた。最悪時間稼ぎでも良い。モガミが『時雨の渓谷』へ辿り着くことができれば、数の力でどうとでもなる。
モガミと、多くの信者達の宿願を果たすため、命を賭ける覚悟で立ち上がった。先程、青龍の斬撃を肩に受けたせいか、激痛が走るも耐えてみせた。
「まだ戦うんだ。根性と実力を兼ね備えてるのって、結局槍の人だけだったなぁ」
槍の信者は素早く辺りを見回した。ロッドの信者とロングソードの信者の逃げ行く後ろ姿が見えた。『時雨の渓谷』とは真逆方向だった。
槍が、手からこぼれ落ちた。
槍の信者の周りにカトレア、青龍、エンジェル、サキュバスが近寄る。
「あなたは十分優秀だったわ。もう少しでこの私がやられるところだったもの」
信者は絶望に打ちひしがれた表情で跪いた。
「殺してくれ」
重々しい声がその場に響き渡る。
カトレアと青龍は互いに視線を合わせ、再び槍の信者を見下ろした。




